the band apart 木暮栄一「HIPHOP Memories to Go」第9回
the band apart 木暮栄一「HIPHOP Memories to Go」第9回 制作スタイルの基盤が確立&<ASIAN GOTHIC LABEL>設立へ
メインストリーム・ヒップホップへの再傾倒
音楽制作面でのそれぞれの意識変化、レーベルの独立など、バンドとしての最初の過渡期に突入しつつ、いちリスナーとしてヒップホップに大きく興味を引き戻されたのもこの時期のことだ。
以前書いた(※2)、その頃のメインストリーム・ヒップホップのサウンド面における変化ーーサンプリングからシンセサウンドへーーにようやく耳が追いつき始める。きっかけはThe Neptunesとティンバランド。彼らの作る音に触れるうちに、徐々にその面白さと新しさがわかってきたのだった。最初は面食らった前者のシンセ付属プリセット音源の大胆な使い方からは、言ってみれば都市を遊び場に変えてしまうスケーター的な発想と態度を感じるようになり、後者の「調性? 何それ」みたいな奇妙なフレーズのループと乱打されるハイハットにはもともと高い中毒性があった。
それぞれの形があまりにも以前の様式と異なっていたので、いつの間にか自分の中にできていた“カッコいいヒップホップ”像が邪魔をして時間がかかったものの、そうした色眼鏡を取り払ってしまえた後は、ディグってハマるのみだった。
そこに拍車をかけたのが、2003年にリリースされたファレル・ウィリアムス「Frontin’ ft. Jay-Z」。後期A Tribe Called Questにも通じる洒脱な音像とヘタウマなファルセット、ブリッジのシンセベース使いなど、この後に続く彼の活躍を決定的に予感させるキャッチーな1曲。
さらに翌年にはカニエ・ウェスト(現Ye)の『The College Dropout』がリリースされる。
Jay-Z『Blueprint』と同様、使い古されたサンプリングの手法をピッチシフトなど独自のアイデアを駆使して、圧倒的な新鮮さと共に復権させたこのアルバムは、ヒップホップから離れていた昔の友人や、近いところだとCOMEBACK MY DAUGHTERS(のちにリリースされるカニエ・ウェスト「Heard’ Em Say feat.アダム・レヴィーン」をライブ前SEに使っていた)のメンバーのようなバンドマンからも支持されていた。聴き手を選ばない普遍的なキャッチーさ湛えたクラシックであることは、一聴すればわかるはず。
こうしたメインストリーム・ヒップホップへの個人的再傾倒が、バンドへもたらした影響……はほとんどないが、この辺りの曲や、また別のベクトルのBreakestra『The Live Mix Pt.2』などは、機材車でよくかけていたと思う。
話は戻って、冒頭に書いたようなバンドの楽曲制作に対する意識の変化はもちろん僕にもあって、他のメンバーに手伝ってもらいつつ作った拙い曲が、2ndアルバムに収録されることになるんだけど、その辺りはまた次回に。
それでは皆さん、良いお年を。
※1、2:https://realsound.jp/2021/10/post-877319.html
連載バックナンバー
第8回:インディーズ隆盛期のバンド活動&DJ Shadowなど新たな刺激も
第7回:様々な出会いを重ねて1stアルバム『K.AND HIS BIKE』完成
第6回:ヒップホップの過渡期に確立された“オリジナルなバンドサウンド”
第5回:生涯のアンセム「B-BOYイズム」はなぜ衝撃的だったのか
第4回:新たな衝撃をもたらした“ジャパニーズ・ヒップホップとの出会い”
第3回:高校時代、原昌和の部屋から広がった“創作のイマジネーション”
第2回:海外生活でのカルチャーショックと“A Tribe Called Questの衝撃”
第1回:中高時代、メンバーの強烈な第一印象を振り返る
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