近石涼が追求する、シンガーソングライターとしての生き方 「自分らしさは他人が決めることではない」

近石涼、SSWとしての生き方

「ありのままでいい」「無理しないでいい」という言葉への違和感

ーーでは、アルバムの収録曲について聞かせてください。1曲目は先ほども話に出ていた「兄弟 Ⅱ」。

近石:大学を卒業して、アカペラグループで活動していたんですが、そのときの仲間に向けて歌っている曲ですね。新しい目標に向かって進んだヤツもいるし、僕は一人で歌をはじめて。「このままでいいんかな?」という不安もあったし、「あいつ、がんばってるな」って刺激を受けることもあって……。就活の自己分析じゃないけど、「自分らしさってなんやろう?」って考え込むこともあったんですよ。

ーーそれが「思うままの自分でいたい」というところにつながった?

近石:そうですね。「ありのままでいい。無理しないでいい」ってよく聞きますけど、「それは違うな」と思って。自分が憧れていたり、なりたい像に向かってもがくのもいいと思うし、自分らしさは他人が決めることではないので。〈『思うまま』の自分になるだけだ!〉という歌詞は友達に向けているところもあり、自分に対して歌ってる部分もあるんですけど、この曲を1曲目にすることで、『Chameleon』というアルバムの意味合いを示せるかなと。

ーーサウンドメイクも鮮烈ですよね。シンセベースが効いていて、80's的なトラック仕上がっていて。

近石:最初はandymoriみたいなイメージでした。バンドサウンドで勢いのまま突っ走って、Bメロでジャズっぽいピアノが入るアレンジだったんですけど、アレンジャーの方がいろいろなアイデアを加えてくれて、上手く調和が取れたのかなと。

ーーおもしろいアイデアがあれば、柔軟に受け入れる、と?

近石:僕には作れない“引っ掛かり”がほしかったんですよね。今は曲が溢れているし、サブスクなどでも「この曲、もういいか」って飛ばされることもあるじゃないですか。曲のなかに「お?! なんやこれ?」みたいなフックあったほうがいいし、「兄弟 Ⅱ」でもそれを入れたという感じですね。

近石涼 - 『最低条件』(official MV)

ーー2曲目の「最低条件」は、〈君がそこにいることが僕の在る最低条件で〉というサビの歌詞自体がフックになってると思います。

近石:ありがとうございます。この曲はアルバムの最後に作った曲で。アルバムの制作が進んで、収録曲が出揃ったときに「自分のテリトリーの端っこの曲が多いな」と思ったんです。「自分の真ん中にある曲がほしい」と思って制作したのが、「最低条件」なんですよね。思い付いたフレーズを録ってあるボイスメモを聴き返して、「君がそこにいることが〜」というフレーズをもとにして作っていきました。

ーー近石さんの真ん中にある曲というのは、どんなイメージなんですか?

近石:これは僕の感覚なんですけど、「ライブハウスブレイバー」みたいなリアルな気持ちを歌った曲は、聴く人が共感してくれることはあっても、曲のほうから寄り添っていけない気がしていて。「最低条件」はもっと余白があるし、聴く人によって捉え方や思い浮かべる人が違うと思うんですよ。誰かに聴いてもらうことで初めて完成する曲だし、そういう曲が自分の芯なのかなと。まあ、余白を作り続けると届きづらくなるので、バランスは大事なんですけど。

ーーリスナーの反応が重要な曲という言い方もできる?

近石:そうですね。この曲を初めてバンドセットで歌ったとき、〈僕がここにいることが僕の在る最低条件で〉という歌詞が、ステージで歌っている自分の姿と重なったんですよ。〈君がそこにいることが〜〉は目の前にいるお客さんのことだなと思ったし、“余白”がちゃんと機能して、自分に返ってきた感覚があって。いつ歌っても自分にマッチするだろうし、聴いてくれる人も、そのときの状況によっていろんな捉え方をしてくれるんじゃないかなと。みなさんの感想が聞きたいですね。

近石涼 - 『ハンドクラフトラジオ』(official MV)

ーー「ハンドクラフトラジオ」は、学生時代に授業で作ったラジオと、音楽への愛着、友人たちへの思いを綴った楽曲。カントリー調のサウンドとノスタルジックな歌がしっかり調和してますね。

近石:アレンジもスムーズだったんですよ。最初にバンドでアレンジしたときは、くるりの「ロックンロール」みたいな感じだったんですけど、その雰囲気を残しつつ、この形になりました。さっき「『兄弟 Ⅱ』は『Chameleon』の意味合いを示した曲」と言いましたけど、アルバムの形を作っているのが「最低条件」で、下地の色が「ハンドクラフトラジオ」というイメージだったんです。楽しいときでも悲しいときでも、いつでもスッと聴けるというか。

ーー近石さん自身にも馴染んでいる曲なんですね。

近石:そうですね。作ったのは3年前くらいなんですけど、弾き語りの自主制作盤(『歯型』)にも入っているし、ライブでもずっと歌っていて。「歌いすぎてるな」という感じもあるんですけど(笑)、アルバムのマスタリングで改めて聴いたら、やっぱりスッと入ってきたので。

ーーそして「room 501」、ひとつの部屋のなかにいる“君”と“僕”の繊細な関係を描いた楽曲。ネオソウル系のアレンジですが、アルバムのなかではいちばん洋楽テイストが強いのかなと。

近石:この曲、まさかアルバムに入るとは思ってなかったんですよ(笑)。もともと2枚目の自主制作盤(弾き語りフルアルバム『ハオルシアの窓』)のシークレットトラックに入っていた曲で、おまけみたいな感じで、打ち込みでパパッと作ったんです。ビートが一定で、同じコード進行を繰り返すループっぽい曲だったんですけど、アルバムに収録するにあたって、「違うアレンジにしないと、前のバージョンの価値がなくなりそうだな」と思って。「ネオソウルのテイストを入れてみたらどう?」というアイデアをもらって、「それでいきましょう!」という感じでした。

ーー意外な形に発展した、と。

近石:こんな曲になるとは思ってなかったです(笑)。最後のほうに合唱が入ってるんですけど、それも意味があって。「room 501」の主人公の願いを“幻”として描きたくて、“実際にはいない人の声”を表現しています。

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