eill、23歳で迎えた大きな変化 「やっと自分の心を受け止められるようになった」

eill、23歳で迎えた大きな変化

 eillがメジャー5thデジタルシングル「23」(トゥエンティースリー)をリリースした。この曲は2019年にインディーズでリリースした1stアルバム『SPOTLIGHT』収録の「20」の続編とも言えるナンバーで、タイトル通り23歳のeillが現在の視点で描いた不安や葛藤、喜びが高らかに歌われている。ゴスペル調の壮大なボーカリゼーションとコーラスメイクなど、アレンジ面でも彼女の新境地と言える要素が詰まった一曲だ。しかも今作ではジャケットビジュアルの写真撮影とミュージックビデオの監督までをも初めて自身で手掛けている。この点からもeillの「23」への思い入れの強さが読み取れるだろう。去年4月のメジャーデビュー以降、人気アニメやテレビドラマなどの大型タイアップにも恵まれ、まさに順風満帆に映るeillだったが、その一方で実は人知れず幾つもの葛藤を抱えていたという。前回リアルサウンドに登場した2ndメジャーシングル「hikari」以降のリリースを振り返りながらeill史上極めて重要な一曲となった「23」誕生の経緯を語ってもらった。(内田正樹)

「hikari」は曲に込めた思いが成就した

eill(写真=林直幸)

――最近テレビをはじめメディアへの露出がさらに増えてきましたね。

eill:そうですね。友達のお母さんから「観たよ」とか「どんどん遠くに行っちゃう気がする」みたいな声が届いたりするんですけど私自身は何も変わらずで(笑)。

――たまたまテレビの情報番組でのトークを目にしましたが、こうしてインタビューで話す時と同じ雰囲気で。あまり緊張はしませんか?

eill:いえ、あれでもかなり緊張しているんです。話している間に徐々にほぐれて。歌の収録は本当に緊張する。もうガチガチです。カメラが自分にグワーッて寄ってくると後ずさりしちゃう。カメラ目線とか決められなくて(笑)。

――リアルサウンドでは配信シングル「hikari」以来のインタビューです。「23」の話題の前に、まずはあらためて「hikari」から今回の「23」までのリリースを振り返りたいのですが。

eill:「hikari」はドラマ(※オリジナルナンバーに抜擢されたテレビドラマ『ナイト・ドクター』)の最終回でもとても素敵な使い方をしていただいて。5人の主要キャラクターたちの魂が「いつか光になれば」と思いながら作った曲を、まさにそういう風に劇中で使っていただけて本当にうれしかった。曲に込めた思いが成就したというか、楽曲が目に見える形で光になったような。初めての感覚でしたね。

eill | hikari (Official Music Video)【フジテレビ月9ドラマ「ナイト・ドクター」オリジナルナンバー】

――次いで配信リリースした「花のように」については?

eill:自分で感じたのは、楽曲自体もサウンドも「SPOTLIGHT」の頃のような懐かしさも少しありつつ、大人になった部分も備わった曲になったなって。「SPOTLIGHT」以降の応援歌みたいなナンバーを待っていてくれたファンの人もいたと思うので。その答えというか、自分の変わり続ける心をしっかり描けたと思います。

eill | 花のように (Official Music Video)

――そして映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』の主題歌として、竹内まりやさんが1984年に発表された「プラスティック・ラブ」をカバー。こちらも配信リリースされました。

eill:元々すごく好きな曲でした。特に高校生の頃にずっと聴いていて。それこそ海外でシティポップブームみたいなのがパッと盛り上がった頃で、通学路で繰り返し聴いていました。

eill(写真=林直幸)

――「プラスティック・ラブ」はまさにそのブームの火付け役となった曲ですが、シティポップはよく聴いていたんですか?

eill:そんなには。その頃はジェス・グリン、Mura Masa、Charli XCXといったUKものにハマっていたので。でも「プラスティック・ラブ」は別格でしたね。あと、私の母が大好きなので松任谷由実さんは聴いていました。家に弾き語り集みたいなのがあったので「中央フリーウェイ」を弾いたり。おしゃれな高校生ですよね。自分で言ってて何だかムカついてきたぞ(笑)。

――別にムカつかなくても(笑)。「プラスティック・ラブ」の編曲はYaffleさんが手掛けています。

eill:まりやさんのオリジナルの都会的で冷たいけど弱くて、でもその弱さも何だかカッコいい感じの歌詞がものすごく好きだったので、Yaffleさんにも「歌詞がよく聴こえるようなアレンジにしてほしい」とお願いしたら、まさに思い描いていた完成形が届いて。やっぱりYaffleさんすごいなあって。

――たしかにこのトラックはYaffleさんの音捌きとeillさんのボーカルが相まってアンニュイさもありつつ極めて今日的な「プラスティック・ラブ」になっている点が素晴らしいなと感じました。

eill:ありがとうございます。これまでにもたくさんのアーティストにカバーされていて、しかも例えばクラブでかかってもノれる曲ですよね。それをいまeillが歌うなら、より曲の芯みたいなものが見え隠れするような感じで歌ってみたかった。だからキーもあえて少し低くして、私自身が無理なくしっかり歌えるようにしました。素敵な曲になってとてもうれしいです。

eill | プラスティック・ラブ (Mariya Takeuchi 'PLASTIC LOVE' Cover)

理屈じゃないパワフルなパッションがあった20歳

eill(写真=林直幸)
ーー今回の「23」は、2019年にインディーズでリリースした1stアルバム『SPOTLIGHT』収録の「20」と呼応する関係性にあるナンバーですね。年齢と言えばアデルも自身の年齢をアルバムタイトルに冠していますが、やっぱりとてもパーソナルかつエポックメイクな作品というスタンスが感じられます。

eill:以前から年齢の曲はシリーズ化させたいなと思っていたので。「花のように」の後にそれをスタッフに話したら「リリースしようよ」と言ってもらえて。

――「20」のリリックには〈なにも怖くはないよ〉とか〈WE 無敵な20〉といった「ハタチ、無敵だぜ」みたいなフレーズが書かれていますが、実際、当時はこのリリック通りの心境だったんですか?

eill:実は悩んでいましたね。1stアルバムが出せたものの「eillってどんなジャンルなの?」とか、いろんな方面からいろんな言葉をもらっていろんな話をして。嫌いなものははっきりしていたんだけど、何が好きかもよく分からないし、自分がどこに向かいたいとかどうなりたいとか本当によく分からなくて。だから「分からないのが大正解」みたいな感覚で音楽を作って、「これが私にとっての正解なの」という気持ちで書いたのが「20」でした。いま読むと〈“史上最強の20s”〉のリリックすごいですよね(笑)。でもそういう気持ちもちょっとはあったんです。今よりも自信に溢れていた(笑)。理屈じゃないパワフルなパッションみたいなものがものすごくて。いま考えるとちょっとムキになっていたのかもしれないけど「絶対に大丈夫! だけどめっちゃ不安!」みたいな。それも何が怖くて何が不安なのかも分かっていなかったんですけどね。ともかくそんな気持ちがこの先も延々と続くのだろうなあと当時の私は思っていたんです。

――しかし「20」の後、eillさんはメジャーデビューも含めてかなりの速度感で「23」までの時間を駆け抜けることになったわけで。経験値も上がった反面、知識と経験が邪魔をするじゃないけど、「20」の頃は「分からないからこそ無敵」と歌えたことに対して「23」では幾つか「分かった」というか「見えてきたこと」があるのかなあとリリックを読んで感じたのですが。例えば「20」では〈WE 永遠の20〉と歌っていたけど「23」では〈永遠がなんだ〉と歌われていて。

eill(写真=林直幸)

eill:まさにそうですね。自分が好きなものと嫌なものも明確に分かってきて、怖いものも苦手なものも分かるようになったからこそ、自分が逃げている瞬間にも気付くようになってしまった私がいて。「いま、私、逃げてるな」、「どうしていまそこに飛び込めないの?」という感覚にハマってしまい、気付くと自分に自信が無くなってしまっていた。私は「SPOTLIGHT」で初めて自分と向き合って、翌年の「片っぽ」で自分がそれまでの人生で逃げていた問題に向き合った。つまり音楽で自分の問題を乗り越えてきた。「23」も私がいまの私を乗り越えるために書いた曲でした。「20」も「23」もいまを全力で生きようとしている点は同じなんだけど、本当に考え方が変わったというか。「20」の頃は分からな過ぎた未来が「23」では自分の中だけでだけど、何となくなく道筋が見えてきたような気がして。「いましかないぞ!?」とか「自分に嘘ついたりとかしている暇なんてないぞ!?」みたいな気付きもあって。

――いまお話を聞いていて「ん?」と思ったのですが、eillはそんなに最近の自分に悩んでいたんですか?

eill:めっちゃ悩んでました。ちょうど「23」を書く前にかなり落ち込んだ時期があって。私はあまり自分を評価することができないから、自分の理想に自分が追いつけていない感覚の速度感で自分が自分を振り回してしまっているというか。eillというアーティストと自分の心が上手くリンクできない瞬間がたまにあって。それは初期の頃も何度かあったんですけど。実はまさに前回のリアルサウンドのインタビューがその真っ最中のタイミングだったんですが。

――そうだったんですか。どこをどうというのは難しいと思いますが、eillはまだeillというアーティストに合格点をあげられませんか?

eill:そうですね。もしかしたら一生そうかもしれないけど。

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