エルトン・ジョンの交友関係から生まれた『The Lockdown Sessions』 デュア・リパら新鋭たちと照らす音楽の未来
〈僕は老人だけど、若者だ 長らく歳をとっていないからね〉(Elton John & SG Lewis 「Orbit」)
御年74歳のレジェンド、エルトン・ジョンは、 まだまだ第一線を走っている。なんと、2021年にはデュア・リパとのコラボ曲「Cold Heart (PNAU Remix)」がキャリア8度目、16年ぶりの全英No.1に輝いた。このヒットによってマイケル・ジャクソンやデヴィッド・ボウイとのタイ記録を更新し、UKチャート史上初の「(1970年代から2020年代にかけて)6つのディケイドで連続トップ10入り」の快挙までも果たしている。続けて「Cold Heart (PNAU Remix)」が収録された32ndアルバム『The Lockdown Sessions』も全英1位を達成。デビュー50周年となる2019年に公開された伝記映画『ロケットマン』も好評を博していたわけだが、本人も驚くように、70代でのチャートトップへの帰還は驚異というほかない。
このサプライズヒットの鍵は、アルバムそのものにあるだろう。実はこの『The Lockdown Sessions』、ピアノバラードは勿論、モダンなダンスミュージックからMetallicaのカバーまでサウンドジャンルはバラバラ、実験的ミックステープのようですらある。そして、すべてコラボレーションで占められているのだ。スティーヴィー・ワンダーやスティーヴィー・ニックスといった大御所も参加しているが、同時に、TikTokバイラルから脚光を浴びたリル・ナズ・XやSurfacesといった新進アーティストも数多く並ぶ。
異例の成功を遂げた『The Lockdown Sessions』は、多くの後輩から慕われるエルトンの人徳、そして創作姿勢から生まれたと言える。まず、近年の彼が「今の人生(そのもの)」と語っているのが、若手アーティストへの支援だ。膨大な新譜を聴き込む生活を送り続ける貪欲なリスナーでもあるそうで、2010年代から開始したApple Musicのラジオ『Rocket Hour』では、まだ一般的なラジオでもかかっていなかったサム・フェンダー、チャンネル・トレスといった才能を紹介している。加えて重要なのは、エルトンに感謝する後輩たちが、その人徳をも熱く語る点だ。エミネムの薬物依存治療を支えたことは有名だが、近年では、TVパフォーマンスがバッシングされていた新人時代のラナ・デル・レイに「ただ君を助けたい」と電話をかけて親交が始まったエピソードも明かされている(※1)。
『The Lockdown Sessions』自体、エルトンの交友関係から生まれたアルバムだ。まず、新型コロナウイルスの影響でツアーが延期されたパンデミック危機下で、近隣に住む人気ソングライター、チャーリー・プースと意気投合したことからバラード「After All」が完成した。その後、Surfacesとフィールグッドポップ「Learn To Fly」をリリースしたことで、Gorillazなどからコラボ依頼が殺到していき「これは一つのアルバムになる」とひらめいたのだという。
なかでもエルトンの人望を感じさせるのは、多様なクィアアーティストたちの存在だろう。「One Of Me」を共作したリル・ナズ・Xは、オープンリー・ゲイとして活躍する若手のラップポップスターだが、「身の安全のため」にヒップホップにおける差別については口を閉ざしている。そんな彼に代わって同コミュニティの問題を語りながら、後輩の勇気を讃えてきたのがエルトンなのだ。「Chosen Family」でデュエットを果たしたリナ・サワヤマに対しても、同曲が収録された『SAWAYAMA』を「2020年ベストアルバム」と絶賛したことが話題となったが、サポート自体はアルバム発表前より行われていたという。『The Lockdown Sessions』は、オープンリー・クィアアーティストが躍進する近年の音楽シーンを象徴している。しかしながら、これだけ才あるメンバーが集まったことは、クィアコミュニティ支援に励み続けるエルトンの人生の反映であり、自然な帰結でもあるだろう。その軌跡を指し示すのが、Pet Shop Boysのカバー「It’s a Sin」だ。Years&Yearsとのコラボレーションとなったこの曲がお披露目された『BRITアワード』でのパフォーマンスは、2人のみならず、ドラァグクイーンたちも参加する豪華絢爛なエンパワメントステージとなった。