Toua(とうあ)、“非日常”なMV撮影に密着! 本人&スタッフが語るクリエイティブへの姿勢「枠から外れてる感じが私らしい」
あの人とこの人は違う。この世に同じ人なんて誰もいない。あらためて言うことも馬鹿馬鹿しいが、言うは易く行うは難し。人類の歴史は自分と違う誰かを忌避し続けた記録の集積だ。しかも現在進行形でアップデートされている。Toua(とうあ)はその連鎖を止めようと活動するひとりだ。2024年7月に発表したデジタルシングル「I am I」はパワフルな自分賛歌だった。「“Toua(とうあ)ができるなら自分もできる”と思ってほしい」。がんばれば誰もがキラキラ輝ける。自分が自分を愛することを諦めないで。同じ目線から語りかけるToua(とうあ)の言葉は力強い。
Toua(とうあ)が前述の楽曲を含む初のEP『I am I』を11月27日に発表した。テーマは“I、MY、ME、MINE”。「MY Routine」はラッパーのなかむらみなみが作詞し、「MEmories」はMEZZ、Carpainterが作曲。Toua(とうあ)の記念すべきデビュー曲「若者(ヤング)」は「若者 -MINE remix-」としてTREKKIE TRAXのメンバーがリミックスした。
本作から「MY Routine」のMVが12月6日に公開された。リアルサウンド編集部は都内各所で行われた撮影現場に潜入。本稿ではToua(とうあ)本人や監督、プロデューサーの言葉を交え、Toua(とうあ)のクリエイティブが構築されていく過程をレポートする。
「MY Routine」のMV撮影は前日の雨が嘘のような快晴の日に行われた。チームは朝の4時に集合。我々は3つ目のロケ地である海の森水上競技場から合流した。監督を務めるのは「I am I」のMVも制作した清水恵介。『THE FIRST TAKE』や、音楽ドキュメンタリー番組『おかえり音楽室』(NHK総合)といった国内の重要な映像コンテンツの制作でも知られるトップクリエイターだ。清水はEPのアートワーク全般のクリエイティブも担当している。
今回のMVについて清水はこう話してくれた。「僕は『MY Routine』を聴いて、Toua(とうあ)さんは朝のルーティンを楽しんでるんだなって感じたんです。そのワクワク感や気持ちを映像で表現するために想像を膨らませていったとき、ベッドがいろんなところにある画が思い浮かんだんです。『ドラえもん』(テレビ朝日系)のどこでもドアみたいに、起きたらいろんなところに行けるベッドというアイデアです。Toua(とうあ)さんにご提案したら面白がってくれたので、プロデューサーの上江州(和麻)さんにお声がけして、さらにふたりでアイデアを出し合ってロケーションを決めていきました」
プロデューサーの上江洲の役割は「演出のアイデアを具現化させる」こと。曰く「カメラマンやスタイリストといったスタッフィングに始まり、ロケ地選び、そして最終的な納品までを管理します。簡単に言うと私の役割は制作進行の責任者です。『I am I』のMVでも清水さんと組ませていただきました。清水さんはクリエイティブディレクター兼MVディレクターでもあるので、ロケ地のアイデアなどは一緒に会話しながら進めていきました。清水さんがイメージしたディティールを現実に落とし込むことが私の仕事です」。高級レストランにベッドを持ち込んでパジャマで歩くシーンは上江洲のアイデアだという。Toua(とうあ)のプロジェクトは清水と二人三脚で進めているようだ。
筆者は今回初めてアーティストがMVを撮影しているところを見学した。現場にいるスタッフは20名程度。勝手な先入観で、アーティストが稼働するMVの撮影現場はもっと殺伐としていると思っていた。だがこの現場はまるで違った。スタッフは全員無駄なく動いてるが和やかでとても雰囲気が良い。そんな感想をストレートにぶつけてみた。
すると上江洲は「それは僕自身も感じていました。現場に誰もサボってる人がいないんですよね。みんな一生懸命なんです。Toua(とうあ)さん、監督、僕、スタッフ全員が同じ熱量で取り組めるとこういう雰囲気になるんですよ」と教えてくれた。さらに清水は「Toua(とうあ)さんはご自分でYouTubeもやっているからか、映像制作にすごく協力的なんです。前回の『I am I』はすべてスタジオで撮影しましたが、こちらの希望にとことん付き合ってくれるんです。あとToua(とうあ)さんのプロジェクトは基本的にスピーディーに進行します。今回はTouaさんの1日を切り取るニュアンスも出したかったので、まる1日拘束させてもらって濃い撮影をさせてもらっています。演者は過酷だし、気合いも必要です。僕もたくさんMVを撮ってきましたが、一般的にこんなに長く撮影に時間をとってくださる方は少ないです。事務所のASOBISYSTEMさんも積極的に協力してくださるので、クリエイターからすると、こういうチームをご一緒できるのは冥利につきる面がありますね」と話してくれた。
現実には見ることのできないシーンを楽しむことができるのも、MVの魅力のひとつ。まず我々が現場に到着すると、「横断歩道上にベッドが置かれている」という人生で初めて目にする光景に遭遇した。横断歩道だけでなく、桟橋や水辺など、なんでもない日常風景に“ベッド”というアイテムを加えるだけで、目の前の景色が次々と極上の舞台に変身していく。強烈な違和感でインパクトを作り出す遊び心溢れるアイデアとそれを実現させるクリエイティブチームの力に感動を覚えた。
今回のMV撮影は、東京アメリカンクラブ、我々が立ち会った海の森水上競技場など複数のロケーションで行われている。特に屋外での撮影は時間との戦いだ。日の差し方も刻一刻と変化していき、太陽が沈むまでにシーンを撮りきらなければならない。そんなプレッシャーのかかる状況下でも、Toua(とうあ)はほとんど撮り直しを行うことなく、演技やダンスをキメていく。ときにスタッフと談笑し、和やかな雰囲気ながらも集中力を切らさないプロとしての姿をそこに見た。モニターで自身のパフォーマンスをチェックする際の真剣な表情も記憶に残った。
密着のなかでも特に印象的だったのが夕暮れのシーンだ。ほんのわずかな時間で重要なシーンを撮影しなくてはならない。水辺にベッドを設置した撮影では安全を考慮して、演者以外は全員救命胴衣を着用した。現場は海風がかなり強く、斜陽にともなって気温も下がっていた。ダウンジャケットを着込んでいても体感温度は凍えるほど寒い。Toua(とうあ)も早朝からの撮影、パジャマにハイヒールという薄着でのパフォーマンスで体力を消耗していたはずだ。適宜休憩を挟んでいたものの、そろそろスタッフにも疲れが出てくる頃。しかし清水と上江洲を中心に現場は集中した。プレッシャーのかかる場面だが、モニターごしに見るToua(とうあ)は東京湾に沈みゆく夕陽をバックに堂々とした立ち姿でさまざまな表情や動きを演じきり、場の期待に応えてみせた。
清水は「夕陽のシーンが過酷なのはわかっていましたが、僕らはここからさらに編集をしていくので、そのときに足りない画がないようにすべてやりきりました。それは現場全員が同じ気持ちだったと思います。Toua(とうあ)さんは寒いなかで何ひとつクレームを言わずにやってくれるので本当に助かってます。本質的に作ることがすごく好きなんだと思います。ご自身もYouTuberで映像制作をされている。僕らはToua(とうあ)さんをリスペクトしてるし、Toua(とうあ)さんも僕らを尊重してくれていると感じますね。Toua(とうあ)さんとのお仕事はクリエイティブのキャッチボールが瞬発的にたくさん起こります。こちらが突然投げたボールでも、Toua(とうあ)さんはすぐ噛み砕いて自分のフィルターを通した表現で返してくれる。その意味でも毎回驚きがありますね」
現場は全員がチームとして有機的に動いてるような印象を持った。みな自分たちの役割を把握して、指示がなくてもどんどん進行していく。清水と上江洲は現場を仕切る立場としてどんなことを意識しているのだろうか。
「スタッフは本気で仕事をしてくれます。一方、僕らは全体を客観的に俯瞰する立場です。常に最後に出来上がるものを想像しながら、今何をしてほしいかを見極めて伝える必要があります」と清水が話したところで、「普段こんなことあまり話せないので不思議な気持ちです」と柔和な笑みを見せた。その言葉を受けた上江洲は「清水さんは制作物のゴールをイメージしながら現場を見ていて、僕はToua(とうあ)さんご本人を含めて、現場に集まってくれたプロフェッショナルたちが最大限のパフォーマンスを発揮できる環境をプロデュースすることを意識していますね。モチベーションを高める雰囲気を作ったりとか」と説明してくれた。
そして最後にふたりのToua(とうあ)に対する期待を聞いてみた。上江洲は「僕はToua(とうあ)さんが大好きです。めちゃめちゃ個性的なキャラクターで、この人にしかできないと思わせる何かを持っている。このプロジェクトにジョインさせてもらってからずっと楽しいです。普通じゃないことができる。日本はもちろんですが、海外にも広まってほしい。そのために何が必要か、みたいなことも日々考えていますね。だからいつも清水さんにあれこれ口出ししてしまうんです(笑)」とプロデューサーらしい意見を語ってくれた。
清水は「僕の意見もほぼ近いのですが、Toua(とうあ)さんは時代のアイコンだと思います。誰かの決められた価値ではなくて、自分の好きなことに重きを置いている。Toua(とうあ)さんのこういうスタンスは今後もっと時代から求められると思います。世代は違いますが、一緒にいるとおおいに刺激を受けます。そんなToua(とうあ)さんを際立たせるビジュアルやMVを今後も作っていきたいです」と言葉に力を込めた。
編集部が目撃した画がどのようなパーツになり、作品の一角を成しているのか。清水も「編集でかなり変わると思う」と話した。その変化は、公開されたMVで確かに感じることができた。最後はToua(とうあ)へのミニインタビューで本稿を締めたいと思う。【インタビュー最後にプレゼント情報あり】