Ken Yokoyama、90’sパンクカバーアルバムの本当の意義 “あの時代、あのシーン、あの連帯感”を越えた思い

Ken Yokoyama、渋谷Spotify O-EASTレポ

 12月なのでみんなアウター装着。傍目には普通のおじさん、おばさんたちである。しかしクロークに荷物を預けた後がすごい。ほぼ全員、がっつりTシャツ短パン(さすがに下はスポーツタイツ着用の人が多かった)。もはやドレスコード、一張羅と呼びたいフォーマルの装いだ。

 そのTシャツも目に楽しく、歴代のKen Yokoyamaシリーズ、秘蔵のHi-STANDARD、もちろん本日出演のSTOMPIN’ BIRDが多数。それ以外で目立つのはNOFXだったが、あえて選んだ渋めのチョイスもチラホラあって、それらを見つけては喜んでいる私自身も立派に90’sキッズである。最初に登場し、開始30分でフロアを完全沸騰状態に持っていったSTOMPIN’ BIRDのTOM(Vo/Gt)が最大の祝辞を送ってくれる。

「全然90年代が終わんねえジジイ、ババアに、カンパーイ!」

 まさにそんな宴だった。90年代パンクに特化したカバーアルバムを携えたツアー。ライブ自体が通常の形ではなかった。まずKen Yokoyamaの登場が違う。普段はSEもなく4人がふらっと現れるのだが、今回はFatboy Slimの「The Rockafeller Skank」を出囃子にしたスタート。景気のいいビートに煽られて一曲目から怒涛のシンガロングに包まれるフロアは、3曲目「4wheels 9lives」あたりですでにクライマックスを迎えている。異様とも言える盛り上がりが、このツアーのテンションを物語っていた。

 初日からそんな感じだった。あの頃の、俺たちの、90’sパンクがまとめて聴ける。そんな期待がそれぞれの秘蔵Tシャツに表れ、あの曲やって、この曲やって、と好き勝手なガヤが飛び交っていたのが初日の渋谷 CLUB QUATTROだった。そこから10本の全国行脚を経て、選曲や曲順もいよいよブラッシュアップされていったファイナル公演だ。最初のSTOMPIN’ BIRDからダイバーがオーバーフロー気味だったのもやむなし、だったかもしれない。

 もちろん通常の空気に戻せるのはベテランの余裕。新作から「My One Wish」などをしっかり聴かせ、本日が誕生日だった二階席の小学生には特別のバースディソングを贈り、個人的なラブソングの隣には最高のメッセージソングが並べられる。今思うこと、その場で思いついたこと、ずっと言い続けたい大切な言葉が、優先順位もないまま次々と届くのだ。予定調和にならない空気の作り方はさすがであり、大合唱が続いた「I Won’t Turn Off My Radio」は完全なハイライトの様相。そしてこの曲が終わった後、いったんメンバーはステージを退出。横山の「まだやること、あるよな?」という一言を残して。

 暗転。大音量で響くはBeastie Boysの「Sabotage」である。90年代ストリートカルチャーを代表するこの曲をSEとして始まる第二部が、最新アルバム『The Golden Age Of Punk Rock』のカバーコーナーだ。曲名を連ねるよりも、「まずDESCENDENTS! 次にBAD RELIGION!! さらにNOFX!!!!」と書いたほうが伝わるだろうか。あの名曲、というだけでなく、あのシーンの一部に確かに自分もいた、といった追憶が混ざり合う熱狂だ。万人に伝わる話だとは思わないが、説明せずとも頷き合える同世代ファンの一体感が凄まじい。カバー3曲が終わった後にはFAT印のタオルが複数掲げられ、フロアからはごく自然とNOFXコールが沸く。なんだ、この光景。

 もはや主役はKen Bandではなかった。ただ、横山自身がグッと親指を立て、「かっけぇよなぁ」などとNOFXファンに戻っているのだから、今はKen Yokoyama名義も必要ないのかもしれない。第二部で登場したのは「あの時代、あのシーン、あの連帯感」を語り続けるためのバンドであった。事前のセットリストを無視した展開も多く、「スカの曲ならLESS THAN JAKEかSuicide Machines、どっちがいい?」というリクエストは甲乙つけがたい声量によって2曲ともプレイ。「ワンツー、ワンツースリーフォーやって!」のガヤに対しては、何の話だという顔をする人など皆無、いきなり予定にはなかったFACE TO FACEが始まっていく。すげぇ。もはや10代に戻って全曲シンガロングするだけだ。

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