Mr.Childrenから届いた“讃えあおう”というメッセージ 「Birthday」など最新3曲を聴いて
新型コロナウイルスが猛威を振るい、SNS等は現状批判で溢れている。そんな中、Mr.Childrenが「Birthday」「君と重ねたモノローグ」、続けて「The song of praise」と、新曲3曲を発表した。これらの曲が制作されたのは、ウイルスが蔓延する以前のことだろう。しかし奇しくも、現状を見越したかのように、Mr.Childrenは批判するのではなく「讃えあおう」というメッセージを私たちに届けているように聴こえた。
1曲目の「Birthday」は、『映画ドラえもん のび太の新恐竜』(2020年8月7日公開予定)の主題歌として、今年漫画連載50周年を迎えたドラえもんと同じく50歳を迎えた桜井和寿が書き下ろした一曲である。湧いてきた熱い思いも、シャボン玉のように一時的なものだろうと〈加速度を緩めてきた〉日々。〈無意識が悟った通り 僕は僕でしかない いくつになっても 変われなくて〉という感覚は、50歳の桜井の等身大の姿だろう。Mr.Childrenは2002年に「蘇生」という曲で〈でも何度でも 何度でも ぼくは生まれ変わって行ける そしていつか捨ててきた夢の続きを〉と歌っている。そして今回は〈何度だって僕を繰り返すよ そう いつだってIt’s my birthday〉と、変わらない自分を受け止めながらも、生まれ変わり続けるという姿勢に変化していると感じた。〈そうだ まだやりかけの未来がある〉と若さ溢れるキラキラとした「蘇生」も好きだが、「Birthday」の〈消えない小さな炎を ひとつひとつ増やしながら 心の火をそっと震わせて〉のように、静かだが、熱い、歳を重ねた彼らだからこそ紡げる言葉だと思うと感慨深い。それでいてメロディは終盤にかけて燃え上がるように熱く展開されていき、心に火が宿っていくような感覚を覚えた。
心の火をひとつひとつ増やして。〈飲み込んだ幾つもの怒りを ひとつひとつ吹き消し〉て。そんなイメージを膨らませると、Mr.Childrenの「かぞえうた」という曲が思い出される。本曲は東日本大震災発生直後の2011年4月に発表され、〈ひとつふたつ もうひとつと ゆれてる ともしびににた きえない きぼうのうた〉と、何もない暗闇から、希望を一つ一つ数えていく歌であった。彼らの変わらぬスタンスを感じると同時に、震災と同様、国内全体に不安が立ち込める今に、「Birthday」は強さを持って響き渡る。
最後に、この曲で印象的だったのが以下の歌詞である。〈毎日が誰かのbirthday ひとりひとり その命を 讃えながら今日を祝いたい そして君と一緒に歌おう〉。最終的にこの曲は、「君」と共にある、というところに行き着く。実際本曲は〈it’s your birthday〉と締めくくられるのだ。実はこの「讃える」というワードは、続く新曲「The song of praise」(直訳は「讃える歌」)でも使われていて……という話は後ほど。
「Birthday」と両A面シングルとして発表された「君と重ねたモノローグ」はまさに、「君と共に僕があること」を歌っている。長年のファンである筆者には、これは「君=リスナー」に向けた歌にように聴こえるのだが、そうであってほしいという曲解であろうか。正解の解釈などないという点に甘え、この解釈で書き進めさせていただこうと思う。
冒頭の〈また会おう この道のどこかで〉は、桜井がライブの最後にほぼ毎回言う「また会いましょう!バイバイ!」とリンクする。そして最後の〈果てしなく続くこの時間の中で ほんの一瞬 たった一瞬 すれ違っただけだとしても 君は僕の永遠〉という歌詞は、昨年のツアー『Mr.Children Dome Tour 2019 Against All GRAVITY』で「楽しい時間は永遠には続かないが、たまに奇跡的に心の中に永遠に刻まれるんじゃないかという一瞬がある。そんな一瞬をみなさんと作っていけたら」というMCと繋がっているように思えるのだ。
そもそも「モノローグ」とは、主に演劇や映画などで登場人物が相手なしに一人で語り、観客に思考や感情を伝える技法、という意味だ。アーティストが作る楽曲とは、まさに彼らの感情を表出させた「モノローグ」であると言えるだろう。そしてリスナーもまた、曲を通して様々な感情を抱き、心の中で「モノローグ」するものだと思う。本曲は、アーティストとリスナーがモノローグを重ねてきた、という歌なのではないだろうか。
〈僕を閉じ込めていたのは 他でもない僕自身だ その悔しさと その希望に気付かせてくれたのは君〉〈比べてはいつも 諦めることだけが上手くなって それでも前を向けたのは 君と重ねたモノローグが 孤独な夜を切り裂きながら この心強くするから〉という部分には「こちらこそいつもありがとう」という気持ちになる。彼らはこれだけの大スターになっても、隣の芝は青く感じる、〈僕だってそうなんだ〉(「名もなき詩」より)という弱さを見せてくれるところも、彼らの魅力の一つだと思う。〈いつしか僕も歳を取り 手足が動かなくなっても 心はそっと君を抱きしめてる〉などと歌われると寂しくなってしまうので、これからもリスナーと共に〈大空を 風の詩を聴きながら 飛んで〉いてほしい。