眉村ちあきの音楽隊は完全に組み合わせの勝利ーー中野サンプラザで見た、現在のミュージシャンとしての真価
完全に組み合わせの勝利である。2021年9月17日に中野サンプラザで開催された眉村ちあきのワンマンライブ『眉村ちあきの音楽隊』は、越智俊介(Ba / Shunské G & The Peas、CRCK/LCKS)、兼松衆(Key)、qurosawa(Gt / POLLYANNA)、小西遼(Sax / CRCK/LCKS)、吉田雄介(Dr / tricot)という猛者が揃ったステージ。1週間前には、今回のバンドメンバーとともに演奏した「悪役(Band ver.)」のMVも公開されていた。
さらに9月12日には新曲「モヒート大魔王」がリリースされたが、こちらのアレンジには共編曲としてNuma(沼能友樹)が参加。こうしたミュージシャンとの邂逅のなかで迎えたのが、この日の中野サンプラザだった。
今回のバンドの中でも、小西遼や越智俊介といったCRCK/LCKSのメンバーの参加は、期待を大きく膨らませてくれた。いわゆるジャズ畑のミュージシャンたちだ。その期待が現実のものとなったのは、オープニングでバンドによるセッションが始まった瞬間だ。開演してすぐに、ということである。まるでジャズファンクのような演奏のなか、眉村がステージに登場。そして、リリースしたばかりの「モヒート大魔王」を披露した。
バンドは、特にリズムセクションがブラックミュージックの影響が濃い演奏。そして眉村は、まるで新しい遊び場を見つけた子供のように伸びやかに歌う。もちろん彼女はシンガーソングライターでありトラックメイカーなのだが、この日はボーカリストとしての魅力が全開となっていた。
「Individual」は、新しいメロディが次々と登場して、メロディの反復が極端に少ない構造が特徴的な楽曲だ。どう演奏するのだろうか……と思っていると、バンドはそのまま演奏してみせるというストレートな荒技をしてみせた。しかも、眉村のラップパートで演奏にタメが入ったのは刺激的だ。
眉村のアカペラから、バンドが一気に演奏に入る集中力を見せたのが「I was born in Australia.」。サビ以外はほぼファンクであり、その演奏で歌いこなす眉村にも見惚れてしまった。
「壁みてる」や「夏のラーメンワルツ」はさながらジャズナンバー。兼松のピアノのみで「DEKI☆NAI」を歌う眉村はゴスペルシンガーのようであり、中野サンプラザホールがカーネギーホールに感じられた瞬間でもあった。「本気のラブソング」も伴奏は兼松のピアノのみ。眉村のボーカルが、強烈な透明感と陰影をともに併せ持つことを感じさせた。歌っているのは〈ハゲてもハゲてなくても〉という歌詞なのだが。
qurosawaとのデュオで歌われたのが「奇跡・神の子・天才犬!」。qurosawaのギターには、どこかブリティッシュな響きがあった。
そして、この日の白眉だったのが「おばあちゃんがサイドスロー」だ。この楽曲で主軸を成すベースラインは越智による生演奏に。そして、兼松の鳴らすキーボードがバーニー・ウォーレルばりにPファンクを感じさせたのには驚いた。細部のサウンドによって、楽曲の印象は大きく変化していた。