矢野顕子、芳醇なアンサンブルで響かせた“音楽を鳴らす喜び” 新曲尽くしとなった一夜限りのBlue Note TOKYO公演

矢野顕子、新曲尽くしのBlue Note TOKYO公演

 『矢野顕子 featuring 小原礼・佐橋佳幸・林立夫『音楽はおくりもの』リリース記念ライブ』がBlue Note TOKYOにて一夜限りで開催された。

 矢野顕子のニューアルバム『音楽はおくりもの』には、“Arranged and Produced by 矢野顕子、小原礼、佐藤佳幸&林立夫”とクレジットされている。この2〜3年の間に何度もコンサートを共にするなかで作り上げてきたアンサンブル、そして、技術と人間性に対する信頼をもとに本作は制作された。この4人で演奏する喜び、そのなかで生み出される音楽の豊かさは、この日のライブからも存分に味わうことができた。

 矢野顕子(Vo/Pf/Key)のインプロビゼーション的なイントロ、林立夫(Dr)のカウントから始まったのは、『音楽はおくりもの』の1曲目に収められた「遠い星、光の旅。」(作詞:糸井重里 作曲:矢野顕子)。〈おおぐま こぐま オリオン さそり〉というフレーズとともに豊潤なグルーヴが立ち上がり、佐橋佳幸(Gt)のボトルネックによるギターソロ、矢野のジャジーな演奏が絡み合う。

 さらに「わたしのバス (Version 2)」(作詞・作曲:矢野顕子)へ。歌に寄り添いながら起伏のあるビートにつなげる小原礼(Ba)のベースライン、正確無比でありながら、心地よい“タメ”を作り出す林のドラムがとにかく気持ちいい。矢野、佐橋、小原が声を合わせるフレーズ〈エンジンは愛で まわしてます〉がもたらす愛らしさ、力強さ、健気さも心に残った。

 最初のMCでは、「『音楽はおくりもの』というCDを出しました。もちろん皆さんはすでにお聴きになっている前提で、今日はこのCDのなかから、新曲のみで爆走いたします」(矢野)と挨拶。「(アルバムは)4人が力を合わせて作ったので、皆さんにもその意気込みを感じていただけたらと思います」という言葉に対し、会場からは大きな拍手が巻き起こった。

 この後も『音楽はおくりもの』の収録曲が次々と披露された。切ないノスタルジアをたたえたメロディと洗練されたコード構成、アンサンブルが共鳴する「わたしがうまれる」(作詞:糸井重里 作曲:矢野顕子)、“ドドンパ”の懐かしいリズムとともに、新しいことに興味津々な(矢野の姿を想起させる)歌詞の「なにそれ(NANISORE?)」(作詞:糸井重里 作曲:矢野顕子)と続けて披露。

 「次の曲はバンドからの要望が強く、今、みんなに聴いてもらいたい曲です」という言葉に導かれたのは、「魚肉ソーセージと人」(作詞・作曲:矢野顕子)。〈魚肉ソーセージ〉は、“いつもそばにある大切なもの”のモチーフ。“母が魚肉ソーセージと野菜をさっと炒めたありあわせのごはん”は幸せや安心の象徴だが、この曲のなかで矢野は〈ひとりひとりは ひとりを生きる/夫婦でも 5人家族でも〉と歌う。人は本来、孤独を抱えている。でも、だからこそハグしてあげたいし、助けてあげたいーーこの曲には矢野顕子の人生観が強く反映されているのだ。生きることの本質を描いた歌を、あくまでも軽やかに描き出し、オーディエンスの心と身体をほんわりと解放してくれるところも、この人らしい。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「ライブ評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる