矢野顕子×上妻宏光、“やのとあがつま”ならではの芳醇な演奏 ふたりの“民謡”の味わい深さを堪能する一夜に

やのとあがつまが鳴らす“民謡の味わい深さ”

 やのとあがつまは、矢野顕子と上妻宏光のユニット。民謡をベースに、矢野のピアノ&ボーカル、上妻の三味線&ボーカルがこの二人にしか表現することのできない「新しい音楽」を奏でる。2020年に1stアルバム『Asteroid and Butterfly』をリリースしたが、その後に予定されていたツアーはコロナ禍でキャンセルを重ね、2021年の初夏に短いながらツアーとして実現することとなった。

 5月21日、東京公演の舞台は、上野の東京文化会館大ホール。建築家・前川國男が意匠を凝らした、圧巻と呼びたい空間を静かに嗜んでいる客席。その灯りが落ちて、矢野顕子、上妻宏光、そしてもうひとりのメンバーと呼んでもいいであろう、シンセサイザーの深澤秀行がステージに登場した。

 1曲目はアルバムに収録された、やのとあがつまのオリジナル曲「会いにゆく」。この1曲目からふたり(+深澤秀行)のアンサンブルの妙、声の響きと音響の佳さが染み出してくる。以前、上妻とのユニットに至るプロセスを矢野顕子に取材した際に「上妻さんは(三味線だけではなく)声がとてもいい」と指摘していたのを思い出す。

深澤秀行

 2曲目は、熊本民謡「おてもやん」。1番の歌詞はオリジナル、2番は矢野による英語詞に仕立てられた民謡。いや、民謡のようで、これが「やのとあがつま」なのだ。自在かつ緻密に練られた三味線を弾きまくる上妻宏光と、自在に、そして恐らくこの日のために磨き上げたであろう歌の起伏を聴かせる矢野顕子。仮にアルバムに接しないままにライブを見ているお客さんがいたとしても、この1曲でこのユニットの凄みを感じたに違いない。

 「おてもやん」に始まって、この日に披露されたいわゆる民謡は、「弥三郎節」「あいや節」「こきりこ節」「田原坂」「津軽じょんがら節」「淡海節(引き潮から満ち潮へ)」「斎太郎節」「小原節」。矢野、上妻ともに縁の深い津軽民謡を軸に、誰もがどこかで聴いたことがあるサウダージに満ちた旋律が再構築される。民謡そのものには触れる機会が少ない人でも、生活感と祝祭感に裏打ちされた歌詞にDNAのようなものがざわつくから不思議だ。

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