竹原ピストル、歌うたいであり続ける意志 「ガキんちょの頃の“一番になってやる気持ち”がいまだに残ってる」

竹原ピストル、歌うたいであり続ける意志

 竹原ピストルのニューアルバム『STILL GOING ON』が8月25日にリリースされた。配信シングル「リョウメンシダ」「きーぷ、うぉーきんぐ!!」(映画『BLUE/ブルー』主題歌)を含む本作は、彼の原点であるアコギの弾き語りを軸にした作品。「ネイキッド」「剥き出し」と称すべきボーカル、リアルな体験に基づいた歌詞、ライブ感に満ち溢れたサウンドを体感できるアルバムに仕上がっている。その制作プロセスを軸に、コロナ禍以降の音楽活動、シンガーソングライターとしての現在のモードなどについて語ってもらった。(森朋之)

コロナ禍でより強く感じた“応援してくれる人たちへの感謝”

ーーこれまで竹原さんは日本中を旅して、歌を直接届けることでオーディエンスとつながってきたわけですが、コロナ禍でライブができなくなってしまったこの1年半、振り返ってみてどうでした?

竹原ピストル(以下、竹原):去年に関しては、隙あらば無観客配信ライブをやっていて、ライブ本数自体はそんなに変わってないんですよ。あと、ドラマとか映画とか、役者の仕事もたくさんいただいて。配信ライブと、いつまで経っても不慣れな役者の仕事でいっぱいいっぱいだったし、あっという間に過ぎていきました。言い方が難しいんですけど、有意義な1年だったと思います。

ーー竹原さんにとって、配信ライブの面白さとは?

竹原:端的にいうと、「有観客ライブだったら長すぎるよな」みたいなグダグダのMCも含めて(笑)、完全に自分の間(ま)だけでやれるのが面白いんですよね。あと、お客さんが目の前にいると「みんなが知っていそうな曲をやったほうがいいかな?」という気遣いが生じたりするんですけど、配信ライブの場合は、その瞬間に歌いたい曲だけを歌える気軽さもあって。

ーー普段はやれない曲も歌えると。

竹原:そうですね。昔の曲を掘り返して、「結構いいじゃねえか」と思った曲を歌ったり。新しい曲もいいですけど、昔の曲を聴き直す作業も楽しくて。ツアーが途中で中止になったのはもちろん残念だったけど、この状況だからやれたことも多かったんですよ。あと、歌うたいの仲間も全然ヘコんでなくて、「一緒にやろうよ」って誘ってくれて。一番感じたのはやっぱり、応援してくれる人たちへの感謝ですよね。こんな状況でも歌うたいでいさせてくれるお客さんは、本当にありがたいなと。日頃の恩返しじゃないけど、「この人たちに楽しんでもらえるために歌おう」という気持ちがさらに強くなりました。「のし上がってやる」みたいなものは一旦落ち着いて、「応援してくれる人たちに喜んでほしい」っていう。

ーーどんな状況であっても、やるべきことをやるというスタンスは、ずっと変わっていないんですね。

竹原:はい。それは自分だけじゃなくて、ほとんどのミュージシャンが同じだと思います。そのときにやれることをやるしかないし、自分の場合はラッキーなことにそれが楽しくて。「これまで通りのライブじゃないと満たされない」と思っていたら消耗したかもしれないけど、そうじゃなかったので。当然、早くコロナが収束してほしいとは思ってますけど、収束した後も配信ライブは続けると思います。(コロナ禍が)長いですけどね、いい加減。

ーー8月5日に名古屋ダイアモンドホールでワンマンライブを開催しましたが、手応えはどうでしたか。

竹原:感動しましたね。スタッフもお客さんも感染防止を徹底して、1曲歌い終わるたびに、「ドン!」と拍手を返してくれて。すごいなと思いました。

ーーコロナ禍で、曲を書くペースはどうでした?

竹原:変わらなかったですね。ツアーをやっていないと書けなくなるタイプかと思ってたんだけど、全然そんなことなくて、いいペースで書けていました。とはいえ、新しい『STILL GOING ON』に入ってる曲は、途中で中止になった前回のツアー中に書いた曲が多いんですけどね。自由に旅して、あちこち回りながら歌っていた時期の曲といいますか。

ーー弾き語りを中心にしたアレンジも、目の前で歌っているような臨場感があって。『STILL GOING ON』は弾き語りでやろうと決めていたんですか?

竹原:最初から決めていたわけではないですね。いつもそうなんですけど、アルバムを作るときは、まず「次のアルバム、こんな感じになります」とスタッフに伝えるために弾き語りでデモテープを作るんです。「こんな曲をこんな曲順で」という設計図みたいなものなんですけど、今回は「このままでいいな」と思ったんですよね。普段だったら「ここにベースやドラムを入れて……」とか「トランペットが合いそうだな」とか、(頭のなかで)音が鳴るんですけど、今回はそれがなくて。

ーーどうして「弾き語りのままでいい」と感じたんでしょうね?

竹原:うーん……それは考えたことがなかったけど、たぶん、いろんな曲調があったからかもしれないです。旅の歌、歌うたいの歌が多いんですけど、ビートの種類はかなりバラバラでバリエーションがあるので、弾き語りでもちゃんと色分けができているなと。

ーー確かにリズムは多彩ですよね。アコギと歌でこれだけ幅広いリズムを表現できるのも、竹原さんの特徴だと思います。

竹原:1曲1曲、「この曲はなんとなくこんな感じで」と作っているだけで、意識してやっているわけではないんですけどね。一定のテンポで弾くのが苦手なので、そこを意識して分けるのは、僕のスキルではしんどいというか。もちろんビートは大事だし、「もっとこんな感じで弾きたい」というイメージもあるんですが。ステージの上で録音して、トラックを作ったりする……あれ、カッコいいですよね。

ーールーパーを使ったパフォーマンスにも興味があると。

竹原:あ、そうです。憧れてるんですけど、たぶんできないと思います(笑)。

「グダグダしてた時期に見ていた景色は、いまだに歌になる」

ーーでは、収録曲について聞かせてください。まずアルバムの1曲目「とまり木」は、バーのカウンターで一人で飲む男が主人公ですね。

竹原:この曲も一昨年くらいに書いたのかな。舞台は下北沢なんですけど。

ーー〈“ここまでを来れたんだ/ここからを行けないわけがねーさ”〉というフレーズは、先が見えない今の状況にも合っている気がしました。

竹原:そうかもしれないですね。だけど、こういう気持ちはずっと持ってるんですよ、タイミングを問わず。「ここまで来れたんだから、行けるだろうよ」っていう。歌を始める前の生活があまりにもグダグダだったから、「あのときに比べれば」という気持ちもあるし。

ーー野狐禅を始める前、ということですか?

竹原:はい。何がやりてえのかもわからず、ウジウジ、グダグダした日々が続いていて。やっと「これだ!」と思えたのが音楽活動だったんです。生きていればしんどいときもあるけど、「あのどうしようもない日々を越えられたんだから」と思えば、また頑張れる。平たく言えば「あの頃があったから、今の自分がある」という話なんだけど、温かい気持ちで思い出すことはできなくて。タイムマシーンであの頃の自分に会ったら、「いい加減にしろよ」ってぶん殴りたいです(笑)。

ーーわかる気がします(笑)。よく「人生に無駄なことはない」なんて言うけど、そんなことないですよね。

竹原:そうだと思いますよ。ただ、グダグダしてた時期に見ていた景色、抱えていた葛藤みたいなものは、いまだに歌になりますからね。いい思い出ではないけど、せめて歌にすることで、未来に向けた糧にしたいと思ってるんでしょうね。

ーー今の話を聞くと、「なにもしないがしたい」という歌がさらに染みてきますね。がむしゃらに頑張っていても、こういう気持ちになることもあるだろうし。

竹原:「なにもしないがしたい」は、このフレーズが先に出てきたんですよ。これをサビにして、そこまでの隙間を埋めていったんですけど、そういう書き方が好きなんです。パズルを埋めるような感じというか、「どういうシチュエーションが合うか」と考えて、恋愛の歌がいいかなと。

ーー「これを歌いたい」ではなく、まず言葉が先にあると。

竹原:そうですね。書き方としては、その方が多いです。「あっかんべ、だぜ故郷」もそうで、このフレーズを前からメモってたんですよ。“故郷(ふるさと)”と言っちゃってるんで、お題としてはかなり絞られてるんですけどね(笑)。故郷に帰ったときに見たものとか、感じたことを歌うしかないので。

ーー〈俺はこの街を見放して、この街は俺を見放した。〉という強いフレーズもあって。穏やかな気持ちで故郷を歌う態度とは真逆ですね。

竹原:どうしても捻くれちゃうんですよね。悔しいけど、生まれ育った土地だから愛着もあるんですよ。いつかは故郷のいいところを歌えるようになるかもしれないけど、今はそれができなくて。自分に限らず、故郷って特殊な場所だなと思いますね。

ーー同じことを感じている人は多いと思います。曲を書くとき、「共感してくれる人がいるだろう」と思うことはありますか?

竹原:あ、それはないです。どれだけ自分にしっくりくるかが大事で、「共感してくれるだろうな」みたいなことは考えないので。「自分はこう歌いたい」がすべてというか。たとえば、CMソングや映画の主題歌を作らせてもらうときは、依頼してくれた人たちを喜ばせたいと思うし、それが自分の喜びでもあるんですよ。でも自分の曲を作るときは「こうじゃないとイヤだ」ということを全部通しますね。お客さん、応援してくれる人に対しても、「自分がやりたいことを“いい”と感じてくれるはずだ」と思っているので。

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