森朋之の「本日、フラゲ日!」vol.92
ゆず、小林武史ワークス、竹原ピストル、BTS、超特急……多角的に“歌”を楽しめる新作
今回のテーマは”このアーティストの歌がリスナーに響く理由”。歌詞の表現、譜割りのおもしろさ、ボーカルとトラックのバランスなど、“歌”の魅力を多角的に楽しめる新作を紹介します!
「ずっと“ゆず”が好きで、学生のときに弾き語りでコピーしたこともあって……」と語るアーティストは非常に多い(いきものがかりやSEKAI NO OWARIなど)。それはもちろん「聴くだけじゃなくて、この曲を歌ってみたい」という気持ちをリスナーに抱かせるからだが、前作『TOWA』以来、約2年3カ月ぶりのオリジナルアルバムとなる本作『BIG YELL』にも“歌いたい願望“を誘う楽曲がずらりと並んでいる。耳に馴染みやすいメロディライン、自然なイントネーションで綴られる譜割り、そして、蔦谷好位置、TeddyLoid、釣俊輔などの売れっ子プロデューサーとともに制作される飽きのこないサウンドプロダクション。思わず口ずさみたくなる親しみやすさこそが“ゆず“の魅力なのだと再認識させられる新作である。
サザンオールスターズ、Mr.Children、SEKAI NO OWARI……約30年の間に数々のビッグアーティストの楽曲をアレンジ、プロデュースしてきた小林武史の、近作のワークスをまとめたアルバム『Takeshi Kobayashi meets Very Special Music Bloods』。東京メトロのCMシリーズの楽曲(絢香&三浦大知/「ハートアップ」、back numberと秦 基博と小林武史/「reunion」)を中心に、昨年開催された芸術祭『Reborn-Art Festival』のコンセプトソング(Reborn-Art Session(櫻井和寿 小林武史)/「What is Art?」)などが収録された本作を聴けば、“歌”の魅力を極限まで引き上げる小林の凄腕を実感できるはず。特に印象的なのは、歌の世界観を生き生きと描き出すイントロ、そして、ボーカルを引き立てるカウンターメロディの妙。その根底に“言葉と人に寄り添う”姿勢があることは言うまでもない。
以前インタビューした際に竹原ピストルは「ドサ周りをやってたときは“ひと月に○本ライブをやれば、収入がこれくらいで……”みたいなことばかり考えていた」と語っていた。つまり彼は基本的に“歌は仕事”と捉えていて、そのスタンスは“どうすれば客に伝わる歌になるか?”という発想につながっている。その中心にあるのは、一発で聴き手の心を捉える(まるでキャッチコピーのような)フレーズだ。本作『GOOD LUCK TRACK』収録曲でも、<あなたがいてくれる限り ぼくは限りない>(「ぼくは限りない〜One for the show〜」)という言葉でオーディエンスへの思いを伝え、<はじめから何も持ってなかったのに/失くしたも何もないだろうによ>(「ゴミ箱から、ブルース」)とリスナーの感情を激しく焚き付ける。伝達力の強さと速さを兼ね備えた歌詞の力こそが、竹原ピストルの武器なのだと思う。