シティポップ(再)入門:竹内まりや『VARIETY』 「プラスティック・ラブ」は異色だった? 代表的な作風を確立した1枚

 彼女の数ある楽曲のなかでも、最もよくあるタイプが、いわゆるオールディーズ風のセンチメンタルでどこかノスタルジックなポップスだ。冒頭に収録された先行シングルの「もう一度」に始まり、少しフィリーソウル風のアレンジを取り入れた「本気でオンリーユー (Let's Get Married)」、The Beatlesにオマージュを捧げた「マージービートで唄わせて」、大滝詠一のようなウォールオブサウンドを取り入れた「ふたりはステディ」などが、いわば竹内まりやの代表的な作風である。この後続々と発表していくヒット曲や、他のシンガーに提供した楽曲も大抵はこの系統である。

「もう一度」
「本気でオンリーユー (Let's Get Married)」
「マージービートで唄わせて」

 もうひとつ彼女らしさを挙げるとなると、ウェストコーストロックタイプということになるだろう。デビュー当時から「名古屋のはっぴいえんど」といわれたセンチメンタル・シティ・ロマンスをバックバンドとして起用していたこともあり、爽快なAORやサザンロック的なサウンドを取り入れている楽曲もいくつか見られる。ペダルスティールの音色が心地良い「One Night Stand」や少しハードなサウンドが新鮮な「アンフィシアターの夜」などが挙げられる。当時の彼女のライブのイメージは、おそらくこういったサウンドだ。

 『VARIETY』はそのアルバムタイトルの通り、バラエティに富んでおり、上記のタイプだけにくくれるわけではない。「水とあなたと太陽と」のようなボサノヴァスタイルを取り入れたナンバーもあれば、王道のバラードナンバー「シェットランドに頬をうずめて」なんていう完成度の高い楽曲もある。ただいずれにしても、どこか懐かしさのある楽曲を歌うというのが、竹内まりやの特徴であり、「プラスティック・ラブ」のようなモダンなコンテンポラリーサウンドに乗せた、夜が似合う楽曲は他にはない。あえていうなら当時のR&Bバラードを思わせる「Broken Heart」が近いが、いずれにせよこれまでの彼女の歴史の中で、「プラスティック・ラブ」は突出して、新しいタイプの竹内まりやを提示する楽曲だったのだ。そしてそれだけではない完成度の高いポップスが並んでいるのが『VARIETY』なのである。

 言うまでもなく「プラスティック・ラブ」は素晴らしい楽曲だが、この曲だけで竹内まりやを語るのはもったいない。「プラスティック・ラブ」で竹内まりやを知ったという方には、ぜひ『VARIETY』というアルバムをトータルで楽しんでいただきたい。そこからまた新しい音楽体験が始まるはずだ。

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