中村佳穂、歌との関係を確かめるようなパフォーマンス 『竜とそばかすの姫』出演も発表したLINE CUBE SHIBUYA公演レポ

中村佳穂『うたのげんざいち』レポ

 渋谷の中心地にあるコンサートホール、LINE CUBE SHIBUYAは、様々なミュージシャンが演奏してきた歴史的な建物、渋谷公会堂をリニューアルして生まれた。緊急事態宣言で音楽を奏でることが規制されているなか、由緒あるホールに、中村佳穂がやって来た。

(写真=森健二)
(写真=森健二)

 彼女が人前で演奏するのは約1年半ぶりのこと。会場が暗転するとステージに中村が一人で登場。演奏を始める前にハンドマイクを持って観客に話しかけた。活動を自粛するなかで感じたことを率直に語ったが、そこで印象に残ったのは、ライブのリハーサルを新しいバンドメンバーと初めて一緒にやった時、メンバーの演奏する喜びで「音が乱反射していた」こと。そして、時代が大きく変わる時、人はどんな歌を歌うのだろう、と思い続けて、今まさにその時にいることに気づいた、ということ。そして、最後に「今、この時代に歌えて幸せです!」と笑顔で締めくくった。それはまるで、これから始まるコンサートに向けての選手宣誓。そして、キーボードに向かって即興で演奏を始めると、彼女の中から堰を切ったように音楽が溢れ出した。

(写真=川島悠輝)

 中村の演奏中にバンドメンバーが登場。西田修大(Gt)、越智俊介(Ba)、伊吹文裕(Dr)、林田順平(Vc)といった面々が中村を取り囲んで「GUM」を演奏する。力強いビート、印象的なシンセのフレーズ。2018年にリリースされたアルバム『AINOU』のなかでも最高にダンサブルで高揚感に満ちたナンバーだ。そこから、オリジナルよりロック色を強めた「アイアム主人公」に突入。つんのめるようにリズムに各パートが複雑に絡み合うパズルのような曲をバンドは豪快に演奏し、歌、ラップ、スキャットを混ぜわせた中村のボーカルもアクロバティック。まさに音の乱反射だ! と思って見ていたら、前の座席では子供が発光するスニーカーをバタバタさせて大喜び。その全身で音楽を楽しんでいる無邪気な姿がステージ上の中村の姿と重なる。

 「アイアム主人公」を見事な演奏で決めた中村は思わずガッツポーズ。そこでメンバーを紹介してR&Bやヒップホップを独自の感覚で取り入れた「きっとね!」が始まる。西田の熱いギターソロから始まり、各メンバーがソロを聴かせて曲を通じてバンドを紹介するような演出だ。メンバーそれぞれが腕利きのミュージシャンであると同時に、即興にも柔軟に対応できるプレイヤーであることが伝わってくる。それは自由奔放な中村の歌と演奏と並走するには必要な条件なのだろう。

(写真=森健二)
(写真=森健二)

 続く「SHE'S GONE」では中村とチェロの林田の掛け合いから静かに始まる。冒頭からアップテンポな曲が続いたが、ここでは幻想的な雰囲気で歌をじっくりと聴かせた。演奏が終わってバンドメンバーが一旦ステージからはけると、ここからは中村のソロコーナー。ステージ向かって右端にグランドピアノが置いてあり、弾き語りで歌い始める。『AINOU』から「永い言い訳」「忘れっぽい天使」。そして、この日、演奏した最も古い曲、2014年に発表した1stミニアルバムに収録された「口うつしロマンス」と3曲を続けて歌ったが、メドレーのように3曲は繋がり、気がついたら次の曲になっている。中村の澄んだ歌声がスポットライトに光を駆け上っていくようで、聖歌やアリアのような荘厳な雰囲気も漂う。

 そして、バンドがステージに戻ってくると、女性コーラスバンド、Colloidがゲスト参加してコンサートはクライマックスを迎える。なかでも、Colloidのポリフォニックなコーラス曲「胡蝶の夢」をイントロにして始まる「LINDY」。そして、ラストナンバーとなったこの日リリースされたばかりの新曲「アイミル」は、躍動感溢れるリズムやコーラスの力強さなど、アフリカ音楽やワールドミュージックからの影響を感じさせて、中村が『AINOU』以降に新しい世界を見つけたことが伝わってきた。『AINOU』のモダンで緻密に作り込んだサウンドと比べると、大地や風の感触が伝わるようなプリミティブでフィジカルな歌。それは中村が音楽の源に触れようと手を伸ばしているようにも思えた。

(写真=森健二)

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