映秀。×カツセマサヒコ、音楽と文学で紡ぐ誰かを救う言葉 「僕らが見ていた景色はほとんど同じだった」

前作から約3年という長い時間をかけて作り上げた、シンガーソングライター映秀。による通算3枚目のアルバム『音の雨、言葉は傘、今から君と会う。』は、これまで以上にバラエティに富んだ多彩なサウンドにより、聴く者を新たな音楽体験へと誘う意欲作だ。
UiLLoUやTennysonら新たなプロデューサー&アレンジャー陣を迎え、ポップスやジャズ、ファンク、そして伝統民謡などジャンルを越えた多彩なサウンドにより新たな地平を切り開く。作詞においてもこれまでにないアプローチに挑戦し、中でも注目を集めているのが小説家カツセマサヒコとの共作曲「youme」と「瞳に吸い込まれて」だ。
映秀。の温め続けた楽曲が、カツセの言葉を得てどのように形を成したのか。互いの視点が交錯する中で生まれた制作プロセスは、音楽と文学が織りなす新たな表現の可能性を示唆する。2人の対談では、コラボの裏側だけでなく、ふたりが共有する「ものづくり」への情熱と創造性に迫った。(黒田隆憲)
カツセマサヒコとの共作が映秀。に与えた作詞への気付き

ーーそもそもお二人は、どんなきっかけで交流が始まったのですか?
カツセ:僕が映秀。さんを知ったのは、確かYouTubeで流れてきた弾き語りの動画だったと思います。いい声の人がいるなと思って注目していたら、その後すぐデビューが決まったと知りました。僕も2020年に初めて小説を出したので、映秀。さんとはデビューのタイミングが近かったと思います。それから僕がラジオのレギュラー番組を持つことになって、ゲストとして来てもらったのが最初の出会いです。
映秀。:その後、ご飯に行ったりイベントに呼んでもらったりして、自然と交流が続きましたね。
カツセ:それで去年の夏頃に、渋谷で蕎麦を食べていたら、映秀。さんが「いい曲ができたんだけど、歌詞に悩んでいる」って話をしたんです。雑談だと思って聞いていたら、帰り道に突然ギターを取り出して、新曲のフレーズを渋谷の往来で弾き語りし始めた(笑)。真っ昼間の渋谷ストリームの辺りで、ですよ? 「やめて、才能を無駄遣いしないで!」って冗談交じりに止めたくらいです。
映秀。:あははは。あの時はメロディを聴いてもらっただけで、本格的に作詞をお願いしたのはその1カ月後くらいでしたね。
カツセ:正直最初は、「せっかくいい曲なんだから、自分で振り絞って書いてくれ」と思っていました(笑)。でも映秀。さんから直々に「自分には書けない表現がある」と言われ、もしかしたら僕に手伝えることがあるのかもしれないなと。それで一緒に作詞することになったんです。

ーーまずは「youme」を共作したそうですね?
映秀。:実はこの曲、3年前に僕が失恋した時にできたメロディなんです。
カツセ:え、そうなの? 知らなかったよ。
映秀。:(笑)。すごく気に入っていたんですけど、大好きなものほど形にするのが怖くなり、ずっと温めていました。
カツセ:その感覚、めっちゃわかる……。僕も小説を書き始めるとき、最初の1行の時点ではまだ無限の可能性を感じるんです。でも、2行目、3行目と書き進めるうちに、その可能性がどんどん狭まっていく怖さがあって。なので映秀。さんが、しばらく頭の中で「寝かせていた」気持ちはよくわかります。
映秀。:そうなんです。しかも、カツセさんにデモをお渡しした時には歌詞を一度完成させていたのですが、あえてそこを〈ラララ~〉と歌詞なしのハミングに差し替えたんですよ(笑)。「youme」という言葉に込めた「夢」のイメージをベースに、カツセさんと一緒に形にしていきたいと思ったので。
カツセ:「夢」にもいろんな意味があるよね、多面的だよね、といった話から始めた記憶があります。寝るときに見る「夢」もそうだし、自分が叶えたい「夢」や過去の記憶のような「夢」もある。そのどれを切り取るのか、どんな角度で表現するのか、デモを渡された時には自由度が高すぎて、書くより会話する時間が長かったと思います。
ーー実際に共作をしていくなか、お互いどんなところに感銘を受けましたか?
映秀。:カツセさんはものすごくロジカルに考える方で、例えば「Aメロが具体的ならBメロは感情的に」と具体的に指摘してくださるんですよ。曲の流れや視点の位置を確認しつつ、「カメラの動かし方」を考えるアプローチとか新鮮でしたね。自分の歌詞でも「これって誰の視点なんだろう?」とか普段あまり考えたことがなかったので、それで気づくことも多かったです。
カツセ:映秀。さんの楽曲は、彼自身が主人公になることが多いですよね。でも今回は、僕の視点が加わったことで、ちょっと立体的な歌詞になったのではないかと。視点を切り替えたり言葉にしたりする作業が、映秀。さんの音楽に新しい奥行きを加えたんじゃないかなと思います。それと、映秀。さんは本当にメロディを大切にする人で、まずは音ありきで、それから丁寧に当てはまる言葉を探していく、という歌詞制作のアプローチが新鮮な体験でした。
映秀。:今回、一緒にやらせていただいたモチベーションのひとつが「学びたい」でした。もちろん、いい作品を作るのが一番大事でしたが、「自分とは違うやり方や視点を吸収したい」という思いもすごく強くて。実際、カツセさんとの話し合いを通して、視点の切り替え方や描写の抽象度をどう調整するか、言語化しながら進めることができて勉強になりました。


















