『Work Hard, Love Hard』インタビュー
MABUが掴んだ“変わらない自分らしさ” EXILE ATSUSHIとのレコーディング秘話も明かす
MABUが4月9日にデジタルEP『Work Hard, Love Hard』をリリースした。本作はMABUにとって約1年ぶりとなる新作であり、コロナ禍の2020年を経て感じたことが赤裸々に綴られた作品でもある。と同時に、各曲にEXILE ATSUSHI、Leola、KOWICHI、Yo-Seaといった客演アーティストが参加。MABUが音楽として表現したいことが、ナチュラルな想いと高度なテクニックによって具現化された4曲にもなっているのだ。初のBillboard Live TOKYOでのライブも控え、成長の真っ只中にいるMABUの心境を聞いた。(編集部)
「弱い自分も受け入れられるようになった」
ーーMABUさんにとってメジャー初のフィジカルアルバムとなった『BRIGHTEST DOPE』から約1年が経とうとしています。あの作品以降、何か気持ちの変化などはありましたか?
MABU:やっとメジャーシーンでアルバムを出せたという喜びを感じることができました。ただ、新型コロナウイルスの影響でプロモーションやライブの機会がほぼほぼゼロになってしまったので、天から地へ一気に落とされたみたいな感じもあって。皆さんそうだったように僕も少なからずメンタルをやられたところもあったし、行き場のないフラストレーションを感じていたのが正直なところです。
ーーそこから何が気持ちを奮い立たせてくれたのでしょう?
MABU:やっぱりファンの皆さんの存在です。活動ができなくても、SNSを通じて「MABUくんの曲を聴いて毎日頑張ってます」っていうメッセージを医療従事者の方をはじめ、いろんな方からいただくことができたので、俺がバッド入ってる場合じゃねぇよなって。1人でも聴いてくれる人がいるのであれば、身を削ってでもその人たちを元気づけるのが俺の役割だろうと。そう思うようになってからは徐々に新たなモチベーションも生まれてきたし、気持ちが変化した俺のことを見てくれていた周りの方もポジティブに動いてくださるようになって。それが結果的に今回のEPに繋がっていった感じでした。
ーーEPに向けて動き始めたのはいつ頃だったんですか?
MABU:本格的に動き出したのは2020年の後半、10月~11月くらいでした。ただ、「君とChill」に関しては、去年の夏くらいにはすでにあって。コロナ禍を過ごすみんなを新曲で楽しませたいなっていう思いからInstagramのIGTVでリークしてたんです。その反響が良かったので、今回新たにYo-Seaくんをフィーチャーした形でEPに収録したんです。パッケージにするなら元のやつよりパワーアップした状態で届けたかったので。
ーーEP全体に関しては、何か思い描いていたイメージはありました?
MABU:1stアルバムの『BRIGHTEST DOPE』はかなりエッジーな楽曲が揃ってはいたけど、自分の中では良くも悪くもメジャーシーンに寄せた部分も結構あったんです。なので今回は、割とストリートの感じを強めるというか、インディーズでやってた頃みたいに自分がナチュラルにやりたい楽曲を正直に作っていこうっていう思いはありました。とはいえコロナ禍を通して自分の中でのマインドの変化もあったので、Leolaちゃんをフィーチャーした「Shooting Star feat.Leola」のように、ちょっと角が取れた優しいMABUみたいな、新しい表現もできたかなとは思うんですけど。
ーー優しい表情を出してもいいと思えるようになったのは、何かきっかけがあったんですか?
MABU:やっぱりコロナ禍での自粛がデカかったです。今までは夜な夜なクラブに行ったり、仲間と集まってパーティすることで寂しさや孤独感を紛らわせていたんですけど、それができなくなったことで、より人が恋しくなったというか。しかも、そういう弱い自分も受け入れられるようになったんです。精神的にちょっと成長したっぽくて(笑)。結局、弱い俺もMABUだし、イケイケな俺もMABUだから、どっちを表現してもいいじゃんっていう、いい意味での開き直りが生まれたんだと思います。
ーーその二面性は本作の大きなテーマにもなっていますよね。夢を掴まんとするゴリゴリにハードなMABUさんと、人を愛することを大切にするMABUさんが同居していて。
MABU:そうですね。それが今の自分が伝えたい2つの主軸というか。夢と愛は切っても切り離せないものだと思っているので、その思いは『Work Hard, Love Hard』っていうタイトル含め、1枚のEPとして上手く表現できたのかなと思います。
ーー1stアルバムでは「メジャーシーンに寄せた部分があった」とのことでしたが、ご自身の中でのメジャーとアンダーグラウンドの棲み分けは現状どうなっているんでしょうか?
MABU:そこは結構難しいんですけど、以前よりはだいぶシンプルな考え方になっている気はします。結局はメジャーシーンにいてもアンダーグラウンドにいても、俺は俺で変わらないと今は思っていて、振り返ればそこに気づけた2020年でもあったのかなって。人間は常に変化するものだし、次の作品でどんな表現をするかは自分でもわからないじゃないですか。そこがシンガーソングライターの良さでもあるわけだから、「いつでもどんなときでもMABUが作る曲はMABUでしかない。みんな聴いてよ!」って感じです。
ーーそういうマインドになる前は、メジャーへの偏見みたいなものもあったりしたんですか?
MABU:だいぶありましたよ。ストリートシーンでも自分はかなり尖ってたタイプの人間なんで(笑)。でも、ATSUSHIさんに見出してもらったことで今の自分がいることは絶対に揺るがないし、それをきっかけに入ったメジャーシーンにはインディにないすごい部分がたくさんあって、正直食らったところもありましたから。同時に、俺がアンダーグラウンドで培ってきたものがメジャーでも通用するじゃんって思えた部分もあった。その結果メジャーデビュー2年目にして、いい具合にそのバランスが取れ始めたのかなっていう印象はあります。
変にメジャーとかアンダーとか言ってる時代でもないかなとも思うし、カッコいい曲はメジャーだろうがインディだろうが関係なくカッコいいって捉えてくれるリスナーさんも多くなってると思うんで。自分が魂込めて作った曲でいい結果を勝ち取れば、それを気に入ってくれたファンの方はずっとついてきてくれるはずだと信じてるので、引き続き頑張っていきたいです。
「EXILE ATSUSHIさんとの信頼関係がガッチリしてきた」
ーーでは今回のEPの収録曲について伺っていきましょう。まず1曲目はATSUSHIさんをフィーチャーした本作のタイトルナンバー「Work Hard, Love Hard feat. EXILE ATSUSHI」です。
MABU:この曲は今年に入ってから作りました。普段から気に入った曲があるとATSUSHIさんと共有し合ってるんですけど、俺がクリス・ブラウンとヤング・サグが共演した「Go Crazy」のMVを送ったときに「MABUとこういうストリート感のある曲やりたいわ」って言ってくれて。で、速攻でデモを作ったんです。最初はもっとパーティっぽいギャルチューンにするつもりだったんですけど、2020年に溜め込んだフラストレーションのせいか、自然とメッセージ性のある内容になっていきました。今、自分の夢や目標に向かって頑張っている人の背中を押せる曲でもあるし、同時に自分自身に対して歌ってる部分もあります。特に〈Money firstじゃ超えられねぇ〉っていうラインは自分で書いておきながらすごく突き刺さります。「MABU、ブレんじゃねぇぞ!」っていう(笑)。
ーー曲に関してはどう作り上げていくスタイルなんですか?
MABU:曲のイメージが自分の中で固まった段階で、そのイメージに合いそうなトラックメイカーさんとスタジオに入ります。そこでトラックを流してもらいながら、自分がトップラインとリリックをフリースタイルで作っていくことが多いです。「Work Hard, Love Hard」に関してはUSのトレンド感を出しつつ、ATSUSHIさんと2人で歌うのでコード感をしっかり表現できる方という判断でD&HというチームのDon(Dimension)さんにお願いしました。俺の歌いたいラインを上手く汲み取ってくださる方なので相性バッチリ、今回もイメージ通りの曲になりました。
ーーリリックはATSUSHIさんのバースも含め、すべてMABUさんが書かれていますね。
MABU:普段からプライベートでもいろんな話をしているので、こういうトピックの場合はこんなことを考えるんじゃないかなって想像しながら、ATSUSHIさんのバースも書かせていただきました。「MELROSE 〜愛さない約束〜」というATSUSHIさんの曲のフレーズを使ってみたりもして、自分なりの愛情を込めて書かせていただきました。歌詞を見てもらったとき、「いやーバッチリだね。最高!」と言ってくれたんで、自分が想像したことはあながち間違ってなかったなって(笑)。
ーーATSUSHIさんとのレコーディングはいかがでしたか?
MABU:コラボは2018年の「Summer Won’t Be Back feat. EXILE ATSUSHI」以来でしたけど、やっぱりいろんな部分で勉強になるレコーディングでした。ただ、前回は「ATSUSHIさんと一緒に歌える、ヤベェ!」みたいな感じで、若干オドオドしてる自分が絶対にいたはずなんです(笑)。そこから月日を経たことで、今回はどっしり構えて臨めたところがあったような気もします。なんなら「ATSUSHIさん、ここはこう歌っちゃってもいいんじゃないですか?」みたいなことを言ってる自分もいて。
ーーボーカルに関してディレクションする部分もあったわけですか。
MABU:そうですね。ATSUSHIさんも「あ、マジ? じゃあそっちもやってみるわ」みたいな感じで受け入れてくださったりして、ATSUSHIさんとの信頼関係がよりガッチリしてきた喜びが感じられたのもすごく嬉しかったです。本当にもう、めちゃくちゃ感謝しかないです。
ーーMABUさんのボーカルも最高にカッコいいですよね。ATSUSHIさんに飲まれることなく、ご自身のカラーをしっかり表現されていて。
MABU:ありがとうございます! 歌とラップ両方できることが自分の最大の持ち味だと思っているので、ブリッジの部分ではがっつりラップもさせていただいて。全体通して、すごくバランスの取れた曲に仕上がったと思います。
ーー2曲目は「中目とかに家を買う feat. KOWICHI」。川崎を代表するラッパーのKOWICHIさんが参加されていますね。
MABU:KOWICHIさんとは2015年からお付き合いさせてもらっていて。見た目は怖そうなんですけど(笑)、めちゃくちゃ優しくて魅力的な人なんです。今回コラボの話をしたら、二つ返事でOKしてくださいました。リリックは2人で書いてるんですけど、俺が書いた内容から全体の空気をちゃんと読み取ってくれた感じで。仕上がったリリック見たときには「KOWICHIさん、やっぱりわかってくれてんな!」と思いました。
ーー成り上がりをテーマにしたリリックが痛快ですよね。
MABU:以前、KOWICHIさんとやった「Teach Me How To Love feat. KOWICHI & Young Hastle」という曲はギャルチューンだったので、今回はちょっと路線を変えてみようっていうことになって。こういうギラギラした成り上がり的な内容の曲は、俺自身も今まであまやってこなかったので楽しかったです。自分の好きなダ・ヴィンチとかモナ・リザとか、首に入れてるタトゥーのモチーフ、ラファエロのキューピッドなんかをリリックに落とし込みながら、わりとスラスラ書けた感じでした。
ーーMABUさんは曲中で「アリーナまで行くつもりだ」と宣言されてもいて。
MABU:以前、EXILEのバンドマスターをされているキャプテン(佐野健二)と飲んだとき、「お前なら絶対アリーナ埋められるから気合い入れて行けよ」って思いきり肩パンされたことがあって(笑)。それ以来、自分が大きなステージで歌ってる姿を想像しながら寝るようにしてるんです。この曲ではそのエピソードを盛り込んでみて。俺自身、ヒップホップ畑で育ってきたので、ファミリーや仲間はシカトできない部分なんです。だから今回は〈キャプテンが言ってた〉って自然と書いちゃってました(笑)。
ーーKOWICHIさんがフィーチャーされたことでヒップホップ色が強くなっていますけど、J-POPシーンにもしっかり刺さるサウンドメイキングがなされている印象もあって。そのあたりのバランス感覚もMABUさんらしいところのような気はしますよね。
MABU:日本のリスナーの方でも楽しんでいただけるキャッチーさはありつつも、サウンドにはUSトレンドを意識したドープさもありますからね。ストリートとJ-POPの真ん中に落とし込みたいっていう気持ちは常にあります。