ピノキオピー特別対談③:ARuFaとの会話から探るアイデアを生み出すモチベーション

ピノキオピー×ARuFa特別対談

ARuFa「ピノキオピーさんの歌詞のバランス感覚はめちゃめちゃすごい」

ーーARuFaさんは、それこそ中学生の頃から様々なコンテンツを作り続けていますが、自分自身を飽きさせないようなアイデアを生み出すためには、どのようなことを心がけていますか?

ARuFa:すみません、またお茶こぼしたので拭きながら答えても大丈夫ですか?

ーー大丈夫です。

ARuFa:自分の中にあるものだけでアイデアを生み出そうとしてしまうと、どうしても自転車操業になっちゃうんですよね。僕がいつもやっているのは、日常で起きる不満など、外部からの刺激を種にしてアイデアを考えるという手段ですかね。例えば「このコップ、不安定でお茶がこぼれやすいな」と思ったら、じゃあコップをヤジロベエに改造したらどうだ? みたいに、反転してアイデアを考えるようにしています。そういう意味では、もし世の中に対しての不満や、不便だなと思うことが一つもない、完璧な世界になってしまったら、僕の創作活動も終了するかもしれないですね。

ピノキオピー:確かに、不便なこと、煩わしいことがあるからこそ、そこから一つネタが思いつくところはあるのかもしれない。

ARuFa:以前、「家の中でケバブを食べたい」と思ってクルクル回る魚釣りのオモチャを買ってきて、その回転を利用して肉をハロゲンヒーターで炙るということをやったのですが(※2)、それも「ケバブって外でしか食べられないの、不便だよね」というモチベーションから始まった記事だったと記憶しています。

ピノキオピー:なるほど、そこから来ているのか! 最終的に「おもしろ」に着地しているけど、やっていることは不便を便利グッズで解決する発明家と一緒なんですね。

ARuFa:これがもし順序が逆になって、「あの魚釣りのオモチャを使ってケバブを焼いたら面白いんじゃないか?」になっちゃうと、おそらく変な力みが出てしまって、記事の内容も変わっていた気がします。やっぱり、純然たるモチベーション、「もっとこうなっていたら……」という動機で動いた方が、自分の本当の気持ちが乗っかるような気がしています。

ピノキオピー:さっきの「やっていることに嘘がない」という話にも繋がりますね。「本当の気持ち」が乗っているかどうかはとても重要だし、それは作品にちゃんと反映されますし。外側だけとか、見ためだけで面白いことをやろうとすると、それだけになっちゃう。

ARuFa:そう、文脈が大事ですよね。ちなみにその時はちゃんとケバブが出来て純粋に嬉しかったです! 嬉しかったので記事の締め切りも破りました。

ーーピノキオピーさんも、音楽を作る時に「やっていることに嘘がない」ことは重要視していますか?

ピノキオピー:していますね。まずは自分が本当に思っていることが根底にありつつ、ただ、それをいろんな人が見たときに「どう見るか?」をものすごく俯瞰で確かめるようにしています。そうやって多角的に、いろんな側面を出していくやり方。「本当の気持ち」をただただ主観で書いてしまうと、おそらく隙の多い作品になってしまうと思うんですよ。「いや、それはこうじゃない?」と、突っ込まれにくくするというか、誰がどの立場から見ても分かりやすくしていく作業も大切なのかなと思っていますね。

ピノキオピー
ピノキオピー


ーーミクロな視点とマクロな視点、両方があってこそ訴求力のある作品になっていくというか。

ピノキオピー:最近は、ミクロな視点で主観的に引っ張っていくような作品が多いですよね。むしろそっちの方が、一定の層に向けてインパクトや訴求力はあるのかもしれないけど、同時にアンチも生まれやすいというか(笑)。「こいつ、何言ってんだよ?」みたいに、嫌な感情を持ってしまう人もいると思うんですよね。もっと言えば、そのツッコミも「込み」でコンテンツ化している表現も多いけど、それってサンドバッグを提供しているようなものじゃないですか。

ARuFa:確かに。 

ピノキオピー:そういう表現もあっていいと思うんですけど、僕自身がやりたいことではないんです。

ARuFa:それでいうと僕も、なるべくツッコまれる隙を少なくすることと、多角的に見て楽しめるコンテンツにするということには気をつけていますね。とはいえいちいち但し書きや注意文を書いてしまうと興醒めしてしまうので、例えば画像で補填しておくとか。

 以前、「場所によって『トイレの落書き』の質は変わるのか?」(※3)という記事を書いた際に、カフェに協力してもらってトイレ内にノートを置き、お客さんに自由に落書きしてもらったんですよね。でもそれをそのまま記事上で紹介すると、ネットで「客に無許可で落書きをネットにあげるな!」と言われることが予測できたので、そのノートの近くに「内容はネットで紹介させていただくかもしれません」と書かれた紙が貼ってある写真をさりげなく掲載することで、気になった人だけがそこを見て安心できるような仕組みにしました。 

ピノキオピー:いつも、めちゃめちゃインパクトのあるコンテンツを作りながら、実はそうやって細かい配慮もしているARuFaさんのバランス感覚に改めて感銘を受けました。バランスを考え過ぎてしまうと「結局、何が言いたいの?」という作品になってしまいがちですが、ARuFaさんの作るコンテンツは訴求力もありつつ拡散力もあるのがすごいなと。

ARuFa:でも、バランス感覚でいうと僕はピノキオピーさんの歌詞のバランス感覚はめちゃめちゃすごいと思っているんですよ。さっきおっしゃっていた、「言いたいこと」もちゃんと主張しつつ、突っ込まれないようにもする。おそらく、ここまでなら出来る人って結構多いと思うんですけど、ピノキオピーさんの場合はそれをしつつ、韻を踏んでいたり、言葉の響きを大事にしていたり、聴き馴染みがめちゃめちゃいいんですよね。歌詞を意識しなくても、内容が音と一緒にスッと入ってくるというか。しかも、毎回必ずチャレンジングなことも試しているのがすごい。

 僕はよく楽曲を「お弁当箱」にたとえているんですけど、お弁当箱ってご飯やおかずみたいな要素を詰め込み過ぎると蓋が閉まらなくなるじゃないですか。ピノキオピーさんのお弁当箱は、「よくこれだけの種類のおかずが溢れずに配置されているな」とびっくりするんですよね。めちゃめちゃ綺麗な幕の内弁当なんです。

ピノキオピー:嬉しいです。おっしゃるように、いつもおかずの配置をものすごく考えながらお弁当=楽曲を作っています。言いたいことを言い過ぎると整わなくなるし、整い過ぎると言いたいことが薄まってしまう、そこの按配を毎回迷いながら作っているので、そこに気づいてくれているところも含めて、僕の方こそARuFaさんには「信頼」しかないです。

ーーところで、3月24日にリリースされたARuFaさんの新曲「さんさーら!」に、ピノキオピーさんが参加しているそうですね。

ARuFa:そうなんです。僕、今年30歳になるので、20代最後の思い出に、またキャラソンを1曲お願いしたいなと思ってお願いしました。曲を田中秀和さん、歌詞をピノキオピーさんに作ってもらったんですけど、とても楽しかったです。ピノキオピーさんに対しては、今まで話してきたように信頼しかないので、お互いに尊重し合いながら思ったことを言い合うという、すごくいい関係性の中で制作することができました。

ピノキオピー:面白かったし、楽しかった。ARuFaさんから来る修正点も、その理由がすごく腑に落ちるし。ライターでもあるから言葉のこだわりもすごく強くある人なんですけど、ずっと気持ちよく作れましたね。

ARuFa:クリエイター同士って譲れない部分がぶつかるとバチバチのクリエイトボクシングで口論に発展することがありますけど、僕らの場合は「お、そのパンチいいね~!でもこうしたらもっと威力が増えたりして?」みたいな感じで一緒に質を高め合う感じでした。

ピノキオピー:僕らもいつかクリエイトボクシングする日も来るんですかね?

ARuFa:メリケンサック買っておきます。

ARuFaオリジナルソング「さんさーら!」

ーーピノキオピーさんもARuFaさんも音楽以外の分野に色々挑戦していますが、それが役に立ったところはありますか?

ARuFa:一つの分野に注力すると、そこが行き詰まったときに逃げ場がなくなってしまうというか。単純に楽しいと思ったことは色々やっておくと良い気がしますね。あと、ずっとそういうスタンスで続けていると、今までやってきたこと全てが繋がって活きる瞬間があるんですよ。僕は中二からブログを始めて、その中で「飛び道具」的に音楽や動画を作ったことが、今の活動にすごく役立っていますし。ピノキオピーさんも昔、絵を描いていたからMVを作るときに絵も描けるし、動画も自分で出来るから無敵ですよね。

ピノキオピー:無敵ではないです(笑)。ずっと一人でやるのは大変で、本当は誰かに手伝ってもらいたいんですけどね。一人でやっていると引き出しの限界もあるし、自分がやっていることが他人から見られた時どうなのか、それを確認するきっかけがなくて。そういう意味で、今回のベストアルバムでいろんな人とコラボ出来たのは良かったし、誰かと何かを一緒にやるって、すごく大事だなと改めて思いました。

ーー今後、お二人でやってみたいことはありますか?

ARuFa:僕はずっと、仲良くしていたいです。

ピノキオピー:僕も同じく、ずっと仲良くしていたいです(笑)。数少ない理解者の一人なので。

ARuFa:じゃあ一緒に小さいカフェとか経営しましょう。

ピノキオピー:わかりました。

ARuFa:よぉし、じゃあこれからも友達でいてくれよな!

ARuFa
ARuFa

(※2)https://r.gnavi.co.jp/g-interview/entry/2060
(※3)https://omocoro.jp/kiji/104444/

合わせて読みたい

・ピノキオピー特別対談①:DECO*27と語り合う“ボカロの過去・現在・未来”
・ピノキオピー特別対談②:クリプトン佐々木渉氏と考える“初音ミク”と“ボカロシーン”

ピノキオピー
『PINOCCHIOP BEST ALBUM 2009-2020 寿』

■リリース情報
ピノキオピー
『PINOCCHIOP BEST ALBUM 2009-2020 寿』
発売日:2021年3月3日(水)
価格:¥3,800+税
品番:UMA-9139-41
仕様:初回仕様限定盤三方背BOX付き3CD+P.32ブックレット

<Disc1>
01. 愛されなくても君がいる
02. すきなことだけでいいです
03. おばけのウケねらい
04. ニナ
05. すろぉもぉしょん
06. アップルドットコム
07. からっぽのまにまに
08. モチベーションが死んでる
09. 頓珍漢の宴 – MV edit –
10. マッシュルームマザー
11. きみも悪い人でよかった
12. ぼくらはみんな意味不明
13. 10年後のボーカロイドのうた

<Disc2>
01. セカイはまだ始まってすらいない
02. はじめまして地球人さん
03. ありふれたせかいせいふく
04. 腐れ外道とチョコレゐト
05. 空想しょうもない日々 – MV edit –
06. 内臓ありますか
07. ボカロはダサい
08. 祭りだヘイカモン – MV edit –
09. ゴージャスビッグ対談
10. アンテナ – re-rec –
11. ラブソングを殺さないで
12. eight hundred
13. 君が生きてなくてよかった

<Disc3>
01. マッシュルームマザー – ZANIO & PinocchioP live remix – / ZANIO & ピノキオピー
02. ニナ – Jumping remix – / ピノキオピー
03. ラブソングを殺さないで – JAPAN EXPO remix – / ピノキオピー
04. すきなことだけでいいです – DECO*27 & TeddyLoid remix – / DECO*27 & TeddyLoid
05. ぼくらはみんな意味不明 – nu metal remix – / 鬱P
06. アップルドットコム – Sickness remix – / ARuFa
07. ヨヅリナ – doze off remix – / ササノマリイ
08. 祭りだヘイカモン – 姦し remix – / 梨本うい
09. はじめまして地球人さん – nakatagai remix – / 椎名もた
10. 内臓ありますか – ATOLS remix – / ATOLS
11. すろぉもぉしょん – sasakure.UK remix – / sasakure.UK

『PINOCCHIOP BEST ALBUM 2009-2020 寿』特設サイト

■関連リンク
ピノキオピーオフィシャルHP

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