ビッケブランカ、あいみょん、ヨルシカ……繊細な感情が描かれた今年の“春ソング”に注目
Awesome City Club「勿忘」
現在大ヒット中の映画『花束みたいな恋をした』。有村架純が演じる絹、菅田将暉が演じる麦が、音楽や映画など共通のカルチャーを通して意気投合。切なくも美しい5年間の恋愛模様を描いたこの作品にインスパイアされた楽曲がAwesome City Clubの「勿忘」だ。
1番の歌詞をatagi、2番をPORINが書いたという「勿忘」は、映画のストーリーに寄り添うように、いまは失われてしまった恋人同士の姿を映し出している。強く結びついていたはずの二人の心はいつの間にか離れ、違う人生を歩み始めるーー〈春の風を待つあの花のように 飾らない心でいられたら〉というサビのフレーズには、この楽曲に込められた後悔と愛しさが端的に表れている。オルタナR&Bのテイストを取り入れたアレンジ、モリシーの感情的なギターソロなど、音楽的な聴きどころも満載。3人体制になったAwesome City Clubにとっても、大きなターニングポイントになる楽曲だと思う。
優里「桜晴」
「かくれんぼ」「ドライフラワー」がSNS、配信、ストリーミングを中心に大ヒットを記録し、一気にブレイクを果たした優里。新曲「桜晴」は、両親、友達への感謝を胸に、新たな場所に旅立つ姿を描いた卒業ソングだ。
最初に聴こえてくるのは、ノスタルジックな雰囲気のピアノの音色。生楽器の響きを活かしたオーガニックな音像のなかで優里は、桜の花びらが舞い散る風景のなかで、“母の声”、“父の姿”という言葉を散りばめ、別れと出会いが交差する季節を叙情たっぷりに歌い上げる。その根底にあるのは、どんなにつらいことがあっても、しっかり一歩を踏み出そうとする意思だ。
曲の中心にあるのはもちろん、優里の歌声。曲が進むにつれて力強さを増し、〈今日は うまく笑えない そのままでいいよ〉というサビのフレーズとともに濃密な感情を解き放つボーカルからは、シンガーとしてのさらなる成長が伝わってくる。
■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。