ビッケブランカ、あいみょん、ヨルシカ……繊細な感情が描かれた今年の“春ソング”に注目
3月17日にビッケブランカがリリースしたニューシングルの表題曲「ポニーテイル」は、彼が王道のJ-POPに挑んだ新曲であり、この季節にぴったりの春ソングにもなっている。本稿では、「ポニーテイル」をはじめとした桜に象徴される叙情的な風景、繊細な揺れる感情を描いた“春ソング”の魅力を紹介する。
ビッケブランカ「ポニーテイル」
「まっしろ」(ドラマ『獣になれない私たち』挿入歌)、「Ca Va?」(Spotify TVCM曲)、「Black Catcher」(TVアニメ『ブラッククローバー』第10クールOPテーマ)などが配信、ストリーミングを中心にヒットを記録。その後もドラマ『竜の道 二つの顔の復讐者』オープニング曲「ミラージュ」、岡崎体育とのコラボ曲「化かしHOUR NIGHT」(ビッケブランカ VS 岡崎体育名義)などをリリースし、日本のポップシーンで確固たる存在感を得ているビッケブランカから、ニューシングル『ポニーテイル』が到着。表題曲は、ビッケブランカ史上もっともストレートな春のラブソングに仕上がっている。
「ポニーテイル」の軸になっているのは、軽やかで華やかなトラック、そして、切なさと愛らしさが滲み出るメロディ。独創的なアイデアを注ぎ込んだ先鋭的なポップチューンで知られるビッケブランカだが、この曲では(おそらく初めて)J-POPの王道とも言えるスタイルに正面から挑んでいる。キャリアのなかでは明らかに新機軸だが、SMAPやモーニング娘。への愛を公言している彼にとっては“原点回帰”という言い方もできそうだ。
春の穏やかな風景と“君”に対する思いが交差する歌詞も印象的。特に〈一生散らない花をあげる だからどんな悲しみも 全て君のために〉というロマンティックなフレーズは多くのリスナーの心をしっかりと捉えるはず。「ポニーテイル」によってビッケブランカは、ポップスクリエイターとしての新たな扉を開いたと言っていいだろう。
あいみょん「桜が降る夜は」
〈桜が降る夜は 貴方に会いたい、と思います〉というサビのフレーズが聴こえてきた瞬間、頭のなかに春の夜の光景が鮮やかに浮かび上がり、かつて経験した(はずの)恋の感情が蘇ってくる。あいみょんの新曲は、“これこそポップの魔法!”と呼びたくなる、可憐にして生々しい恋愛ソングだ。
恋愛リアリティーショー『オオカミ』シリーズ最新作『恋とオオカミには騙されない』の主題歌に起用された「桜が降る夜は」。あいみょんはこの曲で、〈「4月の夜はまだ少し肌寒いね」〉と語り合う“貴方”と“私”の微妙な関係を描いている。もっと近づきたいという気持ちを抱えながら、一歩踏み出せないでいる“私”。いろいろなことが曖昧だが、体ごと恋していることだけはわかっているーー繊細な叙情性とリアルな肉体性が自然と混ざり合う歌詞は、まさに彼女の真骨頂。打ち込みを軸にしたカラフルなサウンドと、感情の機微とリンクしたボーカルのバランスも素晴らしい。
ヨルシカ「春泥棒」
「音楽を盗作する男」を主人公にしたアルバム『盗作』に続くヨルシカの新作EP『創作』には、春をテーマにした5曲を収録。本作に収められた「春泥棒」は、大成建設のCMソングとしても話題を集めたポップナンバーで、『盗作』と『創作』をつなぐ役割を担っている。
盗作家の男が妻と桜の花を眺めながら、あれこれと考えを巡らせる様子を描いた「春泥棒」。桜の花を散らす(=盗む)春の風をモチーフにしつつ、限りある妻の命に思いを馳せ、〈あと花二つだけ もう花一つだけ〉というラインに結びつけるこの曲は、“桜=儚さの象徴”という日本の伝統的な美意識と、現代的なポップスとしての魅力を見事に融合させている。叙情的な切なさを滲ませるメロディライン、アコギの響きを活かしたバンドサウンドを軸にしたn-bunaの創造性、そして、楽曲に込められた風景や感情を生き生きと描き出すsuisのボーカルも絶品。二人の化学反応から生まれるヨルシカの音楽は、いまも新たな進化を続けているようだ。