関取花、“自分らしさ”を肯定する大切さ 様々な出会いの中から咲いた『新しい花』

関取花、“自分らしさ”を肯定する大切さ 様々な出会いの中から咲いた『新しい花』

 関取花のメジャー1stフルアルバム『新しい花』は、文字通り、彼女のキャリアに新たな意味づけを与える作品となった。インディーズ時代の名作『君によく似た人がいる』が、自身の人生と真正面から対峙し、内面を深く掘っていった末に生み出されたアルバムだったとすれば、今作『新しい花』は考えすぎることなく、軽やかな身のこなしのまま“関取花らしさ”を開放したアルバムだと言える。そしてその先で生まれたのは、〈あなたはあなたのままでいい〉(「美しいひと」)という、明確な“他者への肯定”のメッセージだ。

 これまでの関取花の音楽では、ダメでどうしようもない自分や、それを取り巻く日常を1つのネタとして捉え、「それでも必死に肯定しよう」とするエネルギーによって、胸を打つドラマを生み出していた。しかし、今作で関取は胸を張って自分自身を愛し、その優しい眼差しを他者にも向けている。過去に縛られながら歌ってきた1人のシンガーが、10年間のキャリアと様々な出会いを根っこから肯定し、今この瞬間も大切に抱きしめることで、真の意味で未来に足を踏み出すことができたアルバム、それが『新しい花』だ。何度でも何度でも、花は咲くことができる。新しい春の季節を迎えた関取花のインタビュー、ぜひじっくりと読んでみて欲しい。(編集部)

「私は私のままでいい。それが一番いいものになる」

ーーメジャーデビュー以降のEP2作の良さも活かしたまま、はっきりと「肯定」のメッセージを受け取れる作品だと思いました。メジャー1stアルバム、どのような想いで向かっていったんですか。

関取花(以下、関取):まさにおっしゃる通りですね。今までアルバム全体のコンセプトとか、考えて作ったことがなかったんですよ。でき上がったものに対して、「こういうメッセージがあるんだな」「この1年こういうマインドだったんだな」とか、自分の作品に後から教えてもらうような感じだったんです。でも、今回は初めてアルバムを作る前からクリアなビジョンがあって。それは「私は私のままでいい」っていう自分に対する肯定であり、そこから「あなたはあなたのままでいい」っていう他者に向けたメッセージにもつながっていったんですよね。

ーーそうした肯定が浮かんできたのはどうしてだったんでしょうか?

関取:まず、このコロナの期間って自分にとってすごく大きな意味があったんです。今までを振り返ると、単純に仕事の物量に追われたりとか、みんなのイメージする私として応えなきゃいけないっていう気持ちに駆られて、目の前のものを打ち返すのに必死だったんです。まだ私の見た目が浸透していないから、ボブヘアは絶対に崩しちゃいけないとか、変なこだわりもあったくらいなんですけど、コロナで自分と向き合う時間が増えたことで、ある変化があって。感覚としては、来た球に対して打たなきゃってずっと必死だったのが、好きなタイミングで振れるようになったし、ちゃんとフォームを整えた状態で打つことができるようになった感じなんですよね。

ーーなるほど。

関取:きっかけを考えると、昨年の初夏に「今をください」でドラマ主題歌書き下ろしの話をいただいて、そこから明確に手応えが変わったんです。昔だったら「ドラマのタイアップだからこうしなきゃ」って考えていただろうし、もともとのリクエストも自分の「はつ恋」みたいなテンションの曲ってお願いされたんですけど、家でドラマの台本を読み終わって、何も考えずにギターを持ったら「今をください」がスッとできたんです。結局それが採用されたんですけど、自分が何をすべきかよりも、どうしたいかということに向き合ったから、「私は私のままでいい。それが一番いいものになる」ということに気づけたんですよね。

関取 花「今をください」(アンサング・シンデレラ ANOTHER STORY ~新人薬剤師 相原くるみ~ 主題歌)

ーー自分も「今をください」に大きな変化を感じたんですけど、それは関取さんがこれまで「今」という時間軸を題材にしてこなかったからだと思うんです。

関取:その通りです。「今=流行り廃り」という発想がどこかにあったんですよね。でもそれは、まだ自分自身の立ち位置が不安定だったからで。私らしさを出すために、「今という流行り廃りに乗らない」「普遍的で永遠なものしか歌わない」ということに囚われすぎていたと思います。インディーズで出した『中くらいの話』というアルバムも、流行り廃りとは真逆にある絵本みたいなコンセプトで作りたくて、周りに迎合したくないっていう気持ちが強くありましたね。

ーーそこまでに強いこだわりがあったのに、ひょんなことから「今」に目を向けることができた。その最も大きな要因は何だと思います?

関取:ドラマの内容的にも、限られた場所・限られた運命の中で生きている2人が、いかに「今」を楽しんでいくかが焦点だったんですよね。あと、ぼんやり曲を書きながら思ったのは、思っている以上に世の中って流動的で、ものすごいスピードで流れているのに、ひとたびコロナみたいなことが起きたら一気に止まって、みんなどうしたらいいか分からずに右往左往しているんですよね。いろんな情報を取り入れやすくなった世の中だけど、それゆえに迷っちゃってるんじゃないかなって。だったらそうじゃなくて、今自分が生きている半径1メートルの範囲に、ちゃんと手を伸ばすことがすべてじゃないかって自然と思えたんです。

ーーそれはアルバムに流れる空気を象徴していますよね。「新しい花」の〈確実な未来など ないってもう知ったから/今さら何も怖くはない〉という言葉も、やはりコロナの影響から?

関取:コロナも大きいですけど、そこはいろいろあったんですよね。私は自然体でナチュラルにやるよりは、今何が必要なのかを考えながら物事をこなしていくタイプで。音楽以外にどういう仕事を引き受けるかについても、やりたいかやりたくないかじゃなくて、「これからのために自分がやるべきか否か」っていう長期的な視野で考えていたんです。だけど最近その計算をやればやるほど空回ることも増えてきて……。

 でも、ここ1〜2年、いろんな媒体で書き物の仕事をさせていただいている中で気づいたのは、何も考えないで書き出した方がよっぽどいいものが書けるっていうことだったんです。最初のうちはオチをどうしようか、考えて計算してから書き始めていたんですけど、「今日は風が気持ちよかったな。じゃあ風の話でも書くか」くらいで書き始めた方が、いい反響をもらえるようになったり。担当の方が「今回の花ちゃんのコラムすごくよかった!」と言ってくださるのも、私が何も考えないでスルッと書けた時だったりしたので、文章も音楽も、それこそ人生だって、計算したところで確実な答えなんて出るわけじゃないなって実感しました。書き物のお仕事からはものすごく影響をもらってます。

関取 花「新しい花」(日本テレビ系「スッキリ2月エンディングテーマ」)

「Tシャツとジーパンになった感じ」

ーー昨年のEP『きっと私を待っている』も、あまりオチを考えないで作られたと話していましたよね。文筆業で自分を出せるようになってきた分、逆に音楽が軽やかで風通しよくなってきているんじゃないかと思ったんですけど、そこはどうですか。

関取:それもあります。自分を証明できる場所が音楽以外にもあるって、すごく有難いことなんですよね。たとえ音楽で出し切れなくても、他にも自分を出せる場がオフィシャルにあるっていうだけで安心したんです。

ーーそれこそ1〜2年くらい前までの関取さんって、「あらゆる仕事は音楽家としての自分を知ってもらうため」という気持ちで活動されていましたよね。でも、今は文章と音楽、両方が軸になっている感覚なんでしょうか。

関取:まさにそうですね。今までは音楽をやることにすべてのアイデンティティがあって、そのために文章を書いたり、テレビやラジオのお仕事をさせていただいたりしていて。入口はどこでもいいけど、出口は“関取花の音楽”であって欲しかったし、それこそが私の人生の豊かさだと思っていたんです。でも、いろんなお仕事をしたり、コロナ禍に直面した中で……自分は個人事務所なので、ライブができない中でお給料が下がったりしたんですよね。それで「これからどうする?」となった時に、普通にバイトしたいなって思ったり、大学に行ってみたいかもとか考えたりして、自分には音楽しかないという発想が意外とないことに気づいたんです。なので、音楽は関取花という人間を豊かにするための材料の一つでしかない、という考え方に変わりました。文章も音楽も、テレビやラジオのお仕事も、普段ただ散歩してることも、すべては同じ円の中にあって、その真ん中に私という人生がある。「音楽をやっていなくても私は私だ」っていう発想に変われたのはかなりデカいですね。

関取花 「逃避行」

ーーかなり印象的なお話でしたけど、関取さんってミュージシャンでありながら、生活者としての視点をしっかり持っていますよね。街で普通に生活している人にも届く、平易な言葉選びにこそ関取さんの個性が詰まっていますし、“ザ・ミュージシャン”な在り方に固執しなくても豊かになれるんじゃないかっていう気持ちは、これまでの楽曲にも散りばめられていたように思います。

関取:その意識はずっとありますね。大学を卒業した後も、必ず月1回は一般の会社に勤める友達と会うようにしていますし、同業者とだけ付き合う日々には絶対しないって決めていて。実際に曲を聴いてくれるのはミュージシャンじゃないですからね。ミュージシャンズ・ミュージシャンもカッコいいけど、私はそのヒーローになりたいわけじゃない。自分の音楽なんて日用品であり嗜好品でしかないからこそ、そばにある時にはちゃんと安心できて、生活に寄り添えるものでありたいなって思います。

ーー今回、実感を伴ってそのことに気づけたんですね。

関取:すごくクリアになった感じがします。「音楽のためにやっているんだ」と思ってバラエティ番組に出ても、気づいたらミュージシャンの自分とは全然違うキャラクターになっていたりするんですよ。それはバラエティの場でちゃんと協調性を持って仕事したいって思うからで、社会人の友達を尊敬しているからなんですけど、裏側にはミュージシャンとしての捨て切れないプライドがあったから、そのバランスがうまく取れていなかったんだと思います。その迷いを取っ払うために事前に準備をしたり、話のロジックを組み立てて対応するしかなかったのが、今は「私という人間さえいれば、あとは勝手についてくるでしょ」と思えるようになったので、気楽ですね。

ーー関取さんって、リリースするたびに一つずつ鎧が脱げて軽やかになっていく感じがしますよね。

関取:本当にそうです。今作でTシャツとジーパンになった感じ! これが一番動きやすくて好きな格好じゃんってようやく分かったので、今後は「どういう生地感やサイズなら似合うのか」「どんなデニムを選ぼうか」みたいな、遊び心を持ってより似合うものを探していく感じなのかなって。でもベーシックの格好は、今作で固まった感じはあります。

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