関取花、“自分らしさ”を肯定する大切さ　様々な出会いの中から咲いた『新しい花』

文・取材＝信太卓実

「自分1人では絶対に咲けないんだなって気づいた」

ーーすでに10年以上のキャリアがある上で、新しい着こなしを手に入れられたのは素晴らしいと思います。その新しさのひとつとして、冒頭で言及した“他者への肯定のメッセージ”が挙げられると思うんです。「私の葬式バンドver.」が収録されたこともあって久しぶりに『いざ行かん』を聴き返していたんですけど、例えば「だからベイビー」って他者に向かっているようで、最終的には自分自身に言い聞かせるような曲だったじゃないですか。

関取：おっしゃる通り、「だからベイビー」は自分へのラブソングを書こうと思った曲なんです。その時は自信がなくて自己否定ばっかりだったから、本気で自分へのラブソングを書いて、自分を励ましてあげるためのものでした。今回とは全然違うんですよね。

ーーそうですよね。今回は「女の子はそうやって」「美しいひと」あたりに他者への強い肯定が込められていますけど、〈あなた〉や〈女の子〉という言葉で、明確に外に向かって行けたのはどうしてだったんですか。

関取：これまでは自分にしか興味がなかったんだと思うんですよ。必ずしもそれが悪いことではないと思うんですけど、年齢を重ねたのもあるし、声が出なくなったり手が動かなくなったりいろんなことがあった中で、やっぱり周りの人があっての自分なんだってことを痛感して。10年前、デビュー曲の「花」は、「あなたから水や光をもらい、私は少しずつ1人で花になっていきたいよ」っていうところで止まっている曲だったんですね。でも、10年間音楽をやってきて、バンドセットでやるようになったり、お客さんの顔一つひとつが頭に残るようになったり、地方のラジオ局の方が熱心に曲をかけてくださったり......やっぱり自分1人では絶対に咲けないんだなってことに気づいて。「花ちゃん、こういうのも似合うかもよ」とか、「そんなに無理しなくていいよ」と周りに言ってもらえることでいろんなものが削ぎ落とされて、今、やっと私らしい花が咲いたなっていう自信ができたんです。だから、やっと他者に目が向いた。ただ同じ場所で揺れてるんじゃなくて、もっといろんなものを見たいっていう興味が湧いたんですよね。

ーー〈そして自分を好きになれた時満開の花が咲く〉（「女の子はそうやって」）、〈あなたがあなたを愛せた時／夜空は優しく微笑んでくれるから〉（「美しいひと」）と歌われているので、きっと関取さんがご自身のことを愛せたんだろうなって、聴きながら想像していたんです。今までは肯定することに対して、もっと頑張ってもがいていましたよね。

関取：今まで他者にエールを送るような曲をなんで書けなかったかというと、自分自身がちゃんと乗り越えてきたんだっていう自信がなかったからなんですよね。まだ探り探りだったし、誰かに対してメッセージを送るって、ともすればすごく押し付けがましくて無責任だっていう印象もありましたし。でも、今は自分の経験談がしっかりあるんですよね。私はもともと嫌いな自分を好きになるために音楽を始めて、10年間やってきたっていう葛藤の歴史と、その中で出会った人々がちゃんと刻まれたことで、今こうして自分を肯定できているから。「私という例があるから大丈夫！」って胸を張って言えるようになったのは大きいですね。今だから書けた内容だなって。

ーーしかも結果的にものすごく普遍的な楽曲になっていますよね。

関取：私もそう思いました。スルッと出てきた曲たちですけど、刹那的すぎたり個人的すぎる内容でもなく、誰が聴いても投影できるものになったのは面白いなって。

ーーやっぱり今作のあらゆる部分に、「今をください」以降の発想の転換が影響しているんですね。

関取：本当にそうですね。「今をください」からは歌い方も圧倒的に変わっていて。うまく歌おうとか考えすぎずに、音に身を委ねて、今の私が歌いたいように歌うっていうやり方に変わってると思います。

「13曲で一つのストーリー」

ーー王道のJ-POPバラード「スローモーション」はかなり新しい挑戦でしたけど、これも歌い方の変化から生まれた曲なんですか。

関取：「スローモーション」はメジャーデビューした2019年の冬に、なんとなくのメロディとタイトルと歌詞ができていて。なんで作ったかというと、メジャーデビューしたし、冬にあざとく泣かせるメジャーっぽいポップバラード作ったろ！　っていう、ただそれだけで（笑）。

ーーははははは。

関取：「こういうのがいいんでしょ。やったるわ！」くらいの感じだったんですよ（笑）。でも、歌詞まで切ない共感系の恋愛ソングに振り切るのはプライドが許さなくて、すごいドロドロの許されない恋みたいな歌詞にしていたんです。そしたらスタッフさんに聴かせるうちに、「こんなにいいメロディのバラードなんだから、タイアップ取りたいよね」っていう欲も出てきて（笑）、ドロドロの歌詞じゃタイアップ取れないぞって言いながら何回も書き換えて......とにかく、こいつが一番に手を焼いた子で、めちゃめちゃ大変だったんですよ！

ーーはい、伝わりました（笑）。

関取：結局満足いく形にならないから寝かせたんですけど、このまま死なせちゃうのはもったいないなって。もう見える景色と冬という季節は決まっているから、それこそオチを考えずに行こうと思って、パソコンに向かって「冬」「スローモーション」のワードから5〜6千字の小説を書いてみたんです。

ーーへぇ！

関取：誰に見せるでもなく書いていたら、歌詞がすごくクリアになってきて。結局私は、表参道の交差点あたりから、表参道ヒルズにあるPASS THE BATONという大好きなリサイクルショップの間での、数百メートルの景色や心情変化を書きたかっただけなんだなって気づいて。そしたら見えてこなかった比喩表現とか、細かいディティールがパパパッと浮かんできて、あとは早かったですね。

ーー面白い。まさに「今をください」以降のモードになれたから完成できた曲なんですね。

関取：はい。本当にもう、一生書けないまま死んでいくと思ってましたから（笑）。アルバム新録曲のアレンジでは、「スローモーション」だけプロデューサーの野村陽一郎さんに入ってもらっていて。陽一郎さんは私がインディーズの頃から一番お世話になってる方で、派手なストリングスに苦手意識があるとか、あざとすぎるベルの音は自分じゃやらないとか、私の音の好みも熟知してくれていて。だからこそ今回、「逆にどこまで行く？」って話し合いながら、「もともとはこういうコンセプトの曲だし、ベル入れましょう！」みたいになったんですけど。

ーーそのアレンジにはびっくりしましたよ。

関取：さじ加減見ながら、「これはもうベル入れた方がいい！」ってことになったので（笑）。歌い方も、「もっと雪がフワって舞う感じに歌った方がいいよ」とかディレクションしてくださったんですけど、陽一郎さんという、大切なお花を育ててくれる水であり光みたいな人に出会えたからこそ、できた曲だなって。結果的に、最初の狙い通りに届くのも面白いなって思いました。

ーーメロディでじんわり泣ける1曲で、アルバムの中でも新鮮な立ち位置でした。

関取：でも、信太さんみたいに、私の天邪鬼な部分まで理解してくださっていると分かりやすく聴けると思うんですけど、人によってどう聴かれるかは、やっぱり不安な部分もあるんですよね。だから特に今回は、アルバムを通して聴いて欲しいなって思います。1曲だけ聴くと「花ちゃん、メジャー行って変わったね」って言われるかもしれないけど、「いやいや、実は裏に狙いとか挑戦があるから、実はあまり変わってないんだよ」みたいな。13曲で一つのストーリーとして受け取ってもらえたらいいなって。

ーーそんなストーリーの締めが「私の葬式バンドver.」ですけど、7年前の楽曲とは思えないくらい今作にハマっていました。改めて聴くとどうでしたか？

関取：この曲を『いざ行かん』というアルバムに収録した時って、「いつかこういうお葬式をしてもらえる人になれたらいいな」っていう願望でしかなかったんですよね。まだ当時は、大きい声で胸を張って「私こういう葬式で行きたいから、よろしく！」とまでは言えなかった。でも今は、もし私がライブ中にぽっくり倒れたとしても、周りのバンドメンバーが私の思い描くお葬式をやってくれるだろうなと思うんです。鍵盤の谷ぴょん（谷口雄）なんて、私のいろんな時期を見てきてくれているし。今はただの願望じゃなくて、「周りがこういうお葬式をしてくれるような人間に、私はなれているな」と思えたので、「やっと自分の曲になったぞ。よろしく！」っていう気持ちになれたんですよね。

ーー歌詞も今の歌い方に合わせてマイナーチェンジされていますけど、当時の弾き語りバージョンを聴いてみるとどうですか？

関取：「暗っ！」と思ってびっくりしました。マジでお経を読んでるみたいな（笑）。

ーーはははは。今の関取さんだったら、明るいアレンジのバンド録音がしっくりきますね。

関取：やっぱり私1人じゃ自分の曲にできなかったな、という想いも込めてのバンドバージョンですね。いろんな人に支えられて、メンバーやお客さんと一緒に成長してきた曲なので。ライブでみんなの反応を見て、歌い方こうしようかなって思ったり。手拍子も別に私がしようって言い出したわけじゃなくて、ライブ中にバンドメンバーが知らない間に煽ってくれて、今はみんなやってくれるようになったので。みんなのおかげで成長できた自分が詰まっている曲だから、今回のアルバムの最後にぴったりだなと思いますね。