ももいろクローバーZの歴史を紐解く 第2回:メジャーデビュー~早見あかり脱退

ももいろクローバーZ『田中将大』
ももいろクローバーZ『田中将大』

  メジャーアイドルのなかでもトップ人気を誇りながら、その地位に甘んじることなく常に人々の好奇心を刺激し、全力でおもしろいことを追求し続けている、ももいろクローバーZ。そんなももクロのヒストリーを紐解きながら、あらためてフループの魅力を掘り当てていく、この短期連載。第2回は、メジャーデビューから早見あかり脱退までを振り返っていく。

「アイドル戦国時代」を象徴する「怪盗少女」の歌詞

 「いま、会えるアイドル」、「週末ヒロイン」として活動するももいろクローバーは、ライブパフォーマンスはもちろんのこと、奇抜な企画でファンとの一体感を生み、さらにグループのフォーマットのひとつにプロレスを敷くなどコア層の心理も上手にくすぐった。「アイドルだけど、アイドルらしからぬおもしろさを持っている」と誰かに話したくなるような仕掛けを仕込み、人気、実力ともに高く評価された。

 2009年8月のインディーズデビューシングルから約1年後、ユニバーサルが手をあげてメジャーデビューの話がまとまった。2010年3月3日にメジャーデビューの公開調印式が明治記念会館でおこなわれ、シングル『行くぜっ!怪盗少女』のリリースを発表。『ももいろクローバー・メジャーツアー2010 春の最強タッグ決定戦~炎の約28番勝負~』」を経て、5月5日に発売された『行くぜっ!怪盗少女』はオリコンチャートのデイリー1位、ウィークリー3位を記録した。

【ももクロMV】行くぜっ!怪盗少女 / ももいろクローバーZ(MOMOIRO CLOVER/IKUZE! KAITOU SYOUJO)

 「行くぜっ!怪盗少女」の、6人全員の名前を列挙する歌い出しはとにかくシビれた(この部分は、後の出来事にも大きな意味を持つことになる)。〈笑顔と歌声で世界を照らし出せ〉というサビは、「アイドル戦国時代」と呼ばれる現象が広がった2010年の象徴的な歌詞であり、アイドルの存在が世の中の希望になったり、多くの人にとって大切なものになったりするような、そんな明るい未来を想像させた。

 一方、マネージャーの川上アキラは自著『ももクロ流 5人へ伝えたこと 5人から教わったこと』で、レコード会社のスタッフからは別の曲が提案されたことを明かしている。「ももいろクローバーは、いろんな仕掛けを重ねてきたグループです。ですからギミックの詰まった『怪盗少女』でないとダメだと思っていました。普通の曲でいいなら、もっと歌のうまいアーティストが他にたくさんいる」と川上が訴え、同曲でのメジャーデビューにこぎつけた。

エビぞりなどアクロバティックなライブで話題に

 メジャーデビュー直前のももクロのライブは、今思い出してもゾクッとくるものがあった。メンバー、ファンのテンションはともに異様なほどカオス感があり、会場全体に熱やら何やらよく分からないものが渦巻いていた。これがメジャーに向かうアイドルの現場の勢いか、と実感できた。代名詞である「全力」を押し出してパフォーマンスするメンバー。全身全霊でエールを送るファン。双方に「ここで自分の身体が壊れても悔いはない」というほど強烈なエネルギーがみなぎっていた。

 話題となったのは、百田夏菜子の驚異的な跳躍力を駆使したエビぞりをはじめとする、グループ全体のパフォーマンス時の身体性だ。東京大学大学院准教授・安西信一は著書『ももクロの美学 〈わけのわからなさ〉の秘密』(2013年)のなかで、HMV渋谷店の店員による「このジャンプがアイドル史を更新する」という有名なコピーを引き合いに出しながら、「わが国のメジャーな女性アイドル・グループで、ここまで全力で、体全体を酷使した長時間の連続パフォーマンスを、全員で行うものはいない」と絶賛している。

 さらに同著では、読売新聞ONLINEで掲載された川上の「(ももクロとして外せないことは)練習に裏打ちされたパフォーマンスですね。どこのグループにも負けないというのはあります。体育会系のところはあります。それも地区大会レベルではなく、全国大会レベルの」というインタビュー記事を引用し、そのアクロバティックなパフォーマンスの魅力を解説。

 雑誌『Quick Japan Vol.95』(2011年)ではライター・さやわかが、「アイドルとしては尋常でないほどハードなダンスを踊り続けることで、また決められた振り付けの中で目配せ的に配置されたコミカルな動作をすることで、彼女たちはパロディ化された「いわゆるアイドル像」からはみ出して、生々しい肉体、十代の少女の現在を人々の前に描き出す」と評した。

 テレビの向こう側にいて、そして偶像と呼ばれて手が届かなかったアイドルという存在。しかし「いま、会えるアイドル」として私たちに近づいてきたばかりか、そんな彼女たちは目の前で大量に汗をかき、前髪が額にべったりとくっ付き、荒い息を吐き、実に人間的な生命力を感じさせた。ももクロの台頭は、新しいアイドル像を想起させた。

 5月30日には『MUSIC JAPAN』(NHK総合)の「アイドル大集合SP」に出演。アイドリング!!!、AKB48、スマイレージ、東京女子流、バニラビーンズ、モーニング娘。、そしてももクロのラインナップ。当時のアイドルシーンの中核として認められた瞬間だった。このテレビ出演の効果で、より多くのファンがライブにやってきたという。8月には第1回『TOKYO IDOL FESTIVAL』、『アイドルユニットサマーフェスティバル2010』にも出演した。

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