本日休演はもう“京都のバンド”ではない 岩出拓十郎が明かす、レコーディングや歌への意識の変化

本日休演 岩出拓十郎、録音への意識変化

女性コーラスと歌詞の結びつき

ーーサウンド面で大きな効果が感じられるのは女性の声だと思うんです。中津さんと桜井さん。二人とも、感情を極力押し殺したような無表情なボーカル・コーラスで、特有の白痴美のような印象を加えてくれてますね。

岩出:ゆらゆら帝国の『ゆらゆら帝国のめまい』が好きで、ああいう女性コーラスのイメージがありました。特に中津さんの声って近い感じがしたし、「夏の日」とか自分が歌う感じ じゃないなと思える曲もあったのでお願いしました。「ウソの旅」もデュエットだったら意味深になって面白いかなって。

ーー実は前から感じていたことなんですが、岩出くんのボーカル表現ってかなりユニセクシュアルではないかって思うんですよ。男でも女でもない、どこの誰かもわからない。でも表情に乏しいというより、むしろ何かが蠢いている印象が強い。生物的な生命力がある。

岩出:キーが高くて自分では歌えない曲を作って、キーを下げるよりも女性に歌ってもらった方が良さそうだなという時が結構あって。ラブワンダーランドはその発想がもともとありました。知らない女性が出てくる感じって匿名感があって、ちょっと“黒い”というか、民族音楽的なイメージとも繋がる。PUFFYとかもそうだけど、ダブルの女性ボーカルのそういう不思議な感じが好きなんです。あと、よく聴いてたラヴァーズ・ロックのコンピレーショ ンの影響もあります。Love JoysとかFamily Loveが好きでした。

ーーそういう指向性は、岩出くんの持っている素地のどういった側面を象徴していると思いますか?

岩出:うーん……童謡っぽい曲ってところですかね。俺、基本的にメロディを簡潔にしたいんですよ。譜割を細かくしないで太くしたい。そういうところが、匿名的で感情のあまりない女性コーラスと相性がいいのかなって思いますね。もともと自分が書く上では男性的な歌詞が好きじゃないというか。どういうものが男性的な歌詞なのかはわからないですけど、「俺が〜」みたいな歌詞をあまり書かないですね。

ーーホモソーシャルな歌詞ではない。

岩出:中学、高校と男子校だったし、ホモソーシャルな環境にずっといたんですけどね。た だ仲の良い友人たちだけでの閉じたホモソーシャル的な環境では、相手の考えていることは別にあまり話さなくてもわかるという感じになり、むしろ一人称はなくなっていくこともあるような気がします。歌詞でそれが現れているかは自分ではわかりませんが、意識としてはあります。「夏の日」はラブワンダーランド「永い昼」の延長線上にある曲で、「永い昼」と同じく埜口の死の景色が一つのモチーフなんですが、もはやそれだけじゃない曲になってきていて、葬いモードからは抜け出して、もっと内在化したというか。「埜口ならどう言うだろう?」「こんなことしたら埜口は怒らないだろうか?」みたいなこととか、そういうことが心の中でわかる気がする。人の死を受け入れるっていうのはそういうことかもしれません。今回のアルバムは、埜口はもとより、佐藤(拓朗)すらいないですから。

ーー結成時のメンバーは岩出くんと有泉くんだけになった。

岩出:でも、今朝、佐藤が夢に出てきましたけどね(笑)。みんなで練習してて、なぜかThe Beatlesのコピーをみんなでやってて、「ああ、楽しかったな」って感じ。そういう夢を見るってことはどこか寂しいのかもしれないですけど、前とは違った形でやっていっているので、それを頑張っていきたいですね。東京に戻ってきたのも一つの節目で。そろそろ有泉や樋口にも何か曲作りに関わってほしいんですけど、どうも守りに入っている感じがして(笑)。やっぱり自分だけ1人で作ってるのは寂しいというのもある。最近はリフを一人3つ作ってくるっていうのをお題にしてますね。新曲にするための断片になればと思って。

ーー今回のアルバムは100%岩出くんの引き出しですか?

岩出:曲はそうですね。「ロンリネス」の歌詞の一節は、河内宙夢くん(京都在住のシンガーソングライター。岩出はアルバム『河内宙夢&イマジナリーフレンズ』をバックアップ、プロデュースしている)が手伝ってくれました。去年の春から夏前にかけて、まだ東京に戻る前ですけど、一時期京都の河内くんの家に居候してて。コロナもあってどこにも出られずだったから、いろんなことを話して深い部分を共有できたりしました。

ーー確かにこれまでの作品の中で、最も密室感のある、ライブとはストレートに直結しない作品でもあります。

岩出:ああ、ある意味ではそうですね。音色なんかは密室感があるかもしれないです。 「アレルギー」の7インチシングルのバージョンでは打ち込みの音を使ったんですけど、あれは実際は打ち込みというか樋口が手でパッドを打って、ギターとベースも一緒に録りました。

「過去の自分たちからも学ぶということ」

ーーそういう意味では、ライブアルバムも同時に出すことはとても辻褄が合う。「2枚合わせて本日休演」というような、互いに補完するような関係の2枚になっていて。

岩出:そうですね。ライブバンドというのは自負していたので、ずっとライブ盤を出したいと思っていたんですよ。で、メンバーがこの3人になった一区切りとして出したいなと。ただそれだけじゃなく、改めて昔のライブ音源を聴いてみると、これからやりたいことや何かのヒントがたくさん含まれていると気づきましたね。過去の演奏のこういうところがいいから、フィジカルな部分を自分たちで再認識して、スタジオワークでもできるようにしたいというか。最初から演奏を構築してできたものというより、自分たちのフィジカルな演奏の特徴がむしろ曲のポップなフックになっていて、もっとこれからもそういう部分は意識的に発展させていけるなと思いましたし、そういうフィジカルとポップのバランスという部分に自分たちのルーツも現れている気がして、改めて得るものがありました。

ーー「ごめんよのうた」はこの中では最も古いライブ音源ですね。2015年、京都VOXhallでのイベントに出た時のものです。

岩出:これね、途中の部分を当時結構サラっとやっちゃってて。今だともっと引っ張ったりすると思うんですけど、こうして聴くとむしろ自然でいいなって思ったりするんですよね。

ーー引っ張らないけど、淡白でもない。間(ま)を生かした演奏ですよね。

岩出:そうです。「ごめんよのうた」のソロとか、まさに間があって。そういうのがライブ盤では如実に出てるから、そこを生かしたり、逆のことをしてみたり……。いろいろととっかかりになりそうな発見がありますね。ただ、このライブ盤は今回の『MOOD』と並行して作業していたので、まだ新作の方には反映されてないんですけど、次のアルバムには生かされるかもしれないなって思います。

ーー私はこのライブアルバムの演奏をすべて生で観ているんですけど……。

岩出:大ファンじゃないですか(笑)。

ーーそうですよ。その上で感じたのは、スタジオとライブ、そして岩出くんが最初に頭で描いている、言わばデモ段階の3つの関係性の深さなんですね。その3つの関係性がかなりはっきりと干渉し合って、作品完成へと導いているバンドだなということなんです。それらが確実に遠因関係にあることを証明するのが「アレルギー」という曲で。実際、「アレルギー」は今回出す3種類の作品(アルバム『MOOD』、ライブ盤『LIVE 2015-2019』、7インチシングル『アレルギー』)のすべてに入っているけど、どれもが全然違う。

岩出:なるほどね。一番最初のデモの時は7インチバージョンのような感じで、シンセが少し入ってて、ちょっとプリンスみたいな感じ。で、それをバンドでやってみたらポストパンクみたいになっていって、『MOOD』のバージョンに落ち着いた。その途中段階のライブ盤ではデモの音源を再現しようとして、何も考えないでやってライブで荒ぶってポストパンク的になっていく過程。7インチではポストパンクみたいな感じではなく、最初のデモをイメージした感じにしようとしてて……そんな関係性がありますね。まあ、あの曲自体は「山本精一がプリンスやってる」みたいなイメージで作りましたけど(笑)。でも、確かにそのあたりの関係性を意識的に考えながら曲を完成させていきたい感じはありますね。昔の演奏やデモから得られるヒントも生かしながら次に繋げていきたいです。過去の自分たちに学ぶ部分はたくさんある、ということですね。

本日休演『MOOD』

■作品情報
本日休演『MOOD』
2021年2月10日(水)リリース/¥2,200+税
<収録曲>
01.ウソの旅
02.アレルギー
03.何もない日
04.Hey Baby Love
05.線路
06.全然、静かなまま
07.砂男のテーマ -Midnight Desert Surfin'-
08.ロンリネス
09.天使の沈黙
10.夏の日

本日休演『LIVE 2015-2019』
2021年2月10日(水)リリース/¥1,400+税
<収録曲>
01.アラブのクエスチョン
02.アレルギー
03.秘密の扉
04.何もない日
05.けむをまこう
06.全てにさよなら
07.すきま風の踊り子
08.ごめんよのうた

本日休演 HP

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