ポール・マッカートニー、最新作をより味わい深く聴くために 過去2作含む“マッカートニー”シリーズの歴史を辿る

ポール・マッカートニー、最新作をより味わい深く聴くために 過去2作含む“マッカートニー”シリーズの歴史を辿る

 本日12月18日、ポール・マッカートニーのニューアルバム『マッカートニー Ⅲ』がリリースされた。本来であれば今夏にはThe Beatles最後期の姿をとらえたドキュメンタリーフィルム『The Beatles : Get Back』が公開され、関連する音源などが出て大騒ぎになるはずだったが、新型コロナウイルスの影響により一年延期。そんな暗く、重くなる心を癒やすように急遽リリースされることになったのが『マッカートニーⅢ』というわけで、“Rockdown”(lockdownをRockとしている)をきっかけに、過去途中まで書いていた曲や、時間がなく完成させていなかったものに改めて取り組み作り上げた。というと在庫整理的なイメージを持たれるかもしれないが、これがとても急造とは思えないほど深く、思慮に富んだ部分と、現代最高峰のソングライター、ポールならではの美しいメロディを持った曲がたっぷり詰まった傑作となっている。

Paul McCartney – McCartney III (Official Album Trailer # 2)

 『Ⅲ』と言うからには、当然『Ⅰ』(正式タイトルは『マッカートニー』)も『Ⅱ』もあるが、どちらもポールにとって大きな曲がり角に位置する作品だけに、この2作からの流れを意識すると『Ⅲ』の味わいもさらに深くなる。

 『マッカートニー』が出たのは、今から50年前(!)の1970年4月。The Beatles脱退宣言直後のことで、普通だったら初ソロとくれば気合いと力の入ったものと思われそうだが、実際はスコットランドの自宅に4トラックレコーダーを持ち込んで、ほぼ一人で録音されリラックスしたものに。現在のレコーディング常識では、一人ですべてを担うなんてまったく普通だが、デジタル録音など考えられない時代においては、マルチプレイヤーであったポールだからこそできたことだ。しかも1stソロだというのにインストが5曲もあり、田舎ののんびりとした雰囲気が漂い、多くの局面で激動する時代の空気感とは異なるが、美しいメロディを持つ「エヴリナイト」や「ジャンク」、この後ウイングスで花開いていくポールならではのダイナミックな展開が見事な「メイビー・アイム・アメイズド」など聴きどころも多く、簡素な音だからこそ、仲間との亀裂、次に進むべき方向を模索する姿が浮かび上がり、今現在聴いた方が心に響く部分もある作品だ。

Paul McCartney – Maybe I’m Amazed (Official Video)

 そんな『マッカートニー』から約10年後の1980年に『マッカートニーII』はリリースされた。機材は4トラックから16トラックへと進化したが、前回同様、ほぼ一人でレコーディングされ、シンセサイザーを駆使したサウンドがチャートをにぎわしていた時代なだけに、冒険心あるアプローチの楽曲も聴くことができる。

Paul McCartney – Coming Up (Official Music Video)

 このときもまた、ポールは結果的に一人にならざるを得ない状況だった。1970年代にウイングスを結成し、約10年にわたる活動は順調ではあったものの、大きなつまずきとなったのが、1980年1月に実現するはずだったウイングスの初来日公演での騒動だ。公演のため成田空港に到着したポールの荷物から大麻が見つかり、大麻不法所持で現行犯逮捕。そのまま日本にて9日間拘留されたのち強制送還された。送還後、ポールは自宅にこもるなかで最初はデモ作り程度に考え、そのまま一人で制作を進めたのが『マッカートニーII』となる。

 ウイングスのナンバーとしてもおかしくなく、実際ヒットもした「カミング・アップ」に始まり、当時大流行のエレポップ風な「テンポラリー・セクレタリー」など、その内容はバラエティに富んだものに。ポールならではの美しいメロディの「ウォーターフォールズ」、「ワン・オブ・ディーズ・デイズ」もあれば、日本人にはちょっと複雑な「フローズン・ジャパニーズ」のような曲もある。おそらく、約10年続いたウイングスを停止し、次への思いを固めるきっかけとなったのだろう。

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