ポール・マッカートニー武道館公演レポ “高額チケット”に見合うプロフェッショナリズムを見た

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©有賀幹夫

 京セラドーム大阪で1公演、そして東京ドームで3公演と続いたポール・マッカートニーの「アウト・ゼアー ジャパン・ツアー」のファイナルが4月28日に日本武道館で行われた。ウワサの100000円公演、である。いや、それはSS席の価格で、他にも80000円のS席、60000円のA席、40000円のB席、そして25歳以下限定抽選という条件付きのC席2100円というチケットもあった。が、高額であることに変わりはなく、そして、そのことを批判するファンは少なくなかった。ファンでさえそうなのだから、もともとライヴへ行く気などない人、ポールに興味のない人にとって、武道館のチケット代がSNSの格好のネタとなったのはいうまでもないことである。

 しかし結論をいうと、今回のポールの武道館公演の価格設定は決して高いものでなかったと、個人的には断言したい。理由は2つあって、まずはポールの徹底したプロフェッショナリズム。現在のポールは年齢的なこともあって、2日連続でライヴをブッキングすることはない。だから、武道館は心配だった。武道館の24時間前、ポールは東京ドームのステージに立っていたのだ。喉は大丈夫なのか、単純に体力的にどうなのか、気にしないわけにはいかなかった。しかし、その例外的スケジュールの課題をポールは楽々とクリア。絶対に観客には疲れを感じさせない、あえて観客の前では水を口にしない、いつものポールを見事に演じ切ったというわけである。この方、たしかに世間一般の72歳よりも体力があるけれど、疲れを知らない超人というわけではない。

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©有賀幹夫

 誤解を恐れずにいうなら、ライヴにおけるポールは徹底したプロフェッショナリズムゆえ、あまりにさらっと、しれっとしているのである。だれもが知る曲、だれもが聴きたいと願う曲を次から次へとさらっと、しれっと歌うのである。ただ、この攻撃力は大変にすさまじいもので、そもそも、「キャント・バイ・ミー・ラヴ」でライヴが始まったこと自体、おそろしかった。そのあとも観客を昇天させる曲がじゃんじゃん飛び出すことは想定内だったからで、加えて、現在のツアーの軸となっているセットリストにはない「武道館スペシャル」。ドーム4公演ではやらなかった「ワン・アフター・909」や「ゴット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ」や「バースデイ」、さらには、これまで一度たりともライヴで披露したことのない「アナザー・ガール」といったビートルズ・ナンバーでファンをしっかりと驚喜、そして狂喜させたのだからポール、お見事。

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©堀田芳香

 そしてもうひとつ、武道館のチケット代が決して高いものではなかったと断言したい理由が「もしもの未来」である。じつは観客全員に無線制御型のペンライト、フリフラが主催者側から配布されていたのだけど、このことはポールには内緒にされていた。だから、終盤の「レット・イット・ビー」のときにフリフラで彩られた光景を目にしたポールは、自分の知らない演出に驚くしかなかった。あの頭の回転の速いポールが、両手を頭に乗せたまま、お礼の言葉を探すほど感動していたのである(ひょっとしたら涙をこらえていたのかもしれない)。さらにアンコールの「ヘイ・ジュード」では、アリーナ席に日の丸、ステージ正面の南スタンド席にユニオンジャックを浮かび上がらせるフリフラ演出もあり、大喜びのポールは何度も何度もお礼を述べた。

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©堀田芳香

 いや、ステージからだけではなかった。なんと終演後の深夜、ポールは主催のキョードー東京にコメントを送っていた。以下がその全文である。

「初めてここ武道館に立った日のことを思い出しながら、今夜の素晴らしい観客の前で演奏することができ、とても心動かされ、感極まる体験でした。49年ぶりに武道館に戻ってくることができて、とても興奮したと同時に、これまでの日本のショウでも最高のものだったと思います。とてつもなくクレイジーで、最高な夜でした」

 ポールがこのようなアクションを起こすのは大変にレアである。なにがいいたいのかというと、期待である。これまで以上の、これまでにない日本に対する好印象を持ったポールが、ツアー活動の地に再び日本をチョイスする可能性は、少なくとも、今回の来日以前よりはあるのではないか。そこで、「もしもの未来」に対する投資という考え方をすれば、武道館のチケット代が法外だったとはどうしても思えないのである、どうだろうか。

(文=島田 諭)

■2015年4月28日 日本武道館公演セットリスト

1. キャント・バイ・ミー・ラヴ
2. セイヴ・アス
3. オール・マイ・ラヴィング
4. ワン・アフター・909
5. レット・ミー・ロール・イット~フォクシー・レディ
6. ペイパーバック・ライター
7. マイ・ヴァレンタイン
8. 1985年
9. 恋することのもどかしさ
10. 夢の人
11. アナザー・デイ
12. ダンス・トゥナイト
13. 恋を抱きしめよう
14. アンド・アイ・ラヴ・ハー
15. ブラックバード
16. NEW
17. レディ・マドンナ
18. アナザー・ガール
19. ゴット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ
20. ビーイング・フォー・ザ・ベネフィット・オブ・ミスター・カイト
21. オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ
22. バック・イン・ザ・U.S.S.R.
23. レット・イット・ビー
24. 007 死ぬのは奴らだ
25. ヘイ・ジュード
<アンコール>
26. イエスタデイ
27. バースデイ
28. ゴールデン・スランバー~キャリー・ザット・ウェイト~ジ・エンド

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