King Gnuが見せつけた、熱量剥き出しのロックバンドとしての佇まい 時代を根から揺らす初武道館ワンマンをレポート

King Gnu、時代を根から揺らす初武道館

 King Gnuのライブにある熱っぽい空気が好きだ。バンドの演奏を前にした観客が「今、すごいものを目撃している」という実感を得る。そこからさらに「近い将来、もっとすごいものを目撃することになる」と予感する。ハイになった誰かの上げた声や歌が複数集まり、歓声やシンガロングになる。曲が始まるたびにわあっと歓声が上がり、シンガロングが会場の温度をさらに上げる。こういった具合に、King Gnuのライブでは、「彼らと同じ時代に生きている」という目撃者の興奮がいつも会場を覆っている。

King Gnu

 11月25日、日本武道館2デイズの2日目。本来は今年2月からスタート予定だったが、一部の公演を中止したり、一時は全面的に開催を見合わせたり、その分、振替公演や追加公演を設定したり……と、細かい調整を重ねながら、ようやく実現した全国ツアーの一公演。感染症対策のため、観客が発声できない今の状況では、熱狂の立ち上がり方はかつてと違っていたが、熱源がステージであることには変わりなかった。本編中、MCは一度のみ。ひたすらに4人の演奏で観客の視線を惹きつける、ストイックなライブだった。シンガロングは起こらずとも、観客はそれぞれリズムに合わせて身を揺らしたり、ステージをじっと見つめたりしながら、バンドの演奏を楽しむ。その視線の熱さはメンバーにも伝わったらしく、前半11曲の演奏後、井口理(Vo/Key)は「いいバイブス出てきてますね。みなさんの熱さと温かさにあてられて、集中できるというか。楽しくできてます」と語った。MCは、普段のような飾らないテンションではなく、井口と新井和輝(Ba)が(個人的な話ですが、と前置きしながら)武道館のステージに立つにあたっての想い、恩師への感謝などを言葉にする。今日はMCですらも真っ向勝負だ。

King Gnu
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井口理(Vo/Key)
新井和輝(Ba)
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勢喜遊(Dr/Sampler)
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井口理(Vo/Key)
新井和輝(Ba)
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勢喜遊(Dr/Sampler)
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 セットリストはアルバム『CEREMONY』収録曲だけでなく、これまでのディスコグラフィを網羅したもの。例えば、「破裂」が常田大希(Vo/Gt)のギターのみのアレンジになっているなど、音源とは異なるライブアレンジもふんだんに。加えてステージ上では、一人のプレイに誰かが呼応し、という演奏上での化学反応が次々と起こっていく。また、アンコールでは、12月2日リリースのシングル収録曲で、現在ドラマ『35歳の少女』主題歌としてオンエア中の新曲「三文小説」を披露。緊張感を伴いながら、光へ向かい、やがて溢れ出すこの曲は、ライブだとなお映える。そのドラマティックさゆえ歌劇のような感触があり、観る側の集中力も引き出される。

 こうしてライブを観ていると改めて思い知らされる。King Gnuは、極めて特異なバンドだと。

 まず、たった4人にも関わらず、広い会場を豊かに鳴らす交響楽団のような佇まいをしている。特に印象に残っているのは「Hitman」の厳かさ。常田が鍵盤で鳴らすピアノ風の音色と井口が鍵盤で鳴らすオルガン風の音色が重なり、上物がグッと厚くなるのだが、それを支えるリズム隊も頼もしい。神々しいサウンドに、この2日間がKing Gnuにとって初の武道館ワンマンである事実を忘れそうになるほどだった。そして、熱量を剥き出しにするロックバンドとしての佇まいが人々を熱狂させる。「Teenager Forever」はまさにその象徴だ。さらに、楽曲には、歌を堂々と響かせる歌謡曲としての佇まいも。井口の歌は年々存在感が増しているため、あえて“歌手”と呼びたくなる感じがある。特に「Vinyl」や「The hole」における歌唱は素晴らしく、中音域のふくよかさに進化を見た。加えて、ブラックミュージックやジャズから、腰から揺らすグルーヴや即興芸術の感性も吸収。それら多様な要素から成るマーブル模様の構成比が曲ごとに変化していく。

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