ヒトリエ、バンド史を更新し前進していく“自信と覚悟” 新たなスタート地点に立った配信ワンマンライブレポート
10月5日19時30分より、『ヒトリエ BEST ALBUM RELEASE 生配信ライブ “4”』が行われた。
赤いライトに照らし出され、ステージに静かに入ってきた3人。シノダがギターをかき鳴らして歌い始めたのは「ポラリス」だ。密度の高いアンサンブルに、言い表しようのない緊張感が漲っている。〈誰も居ない道を行け〉という歌詞がまるでヒトリエ自身の在り方を示すかのように鳴り響く。「ヒトリエです、よろしくどうぞ!」。シノダの叫びが、ライブの始まりを告げた。
4月に初のベストアルバム『4』をリリースし、5月から7月にかけてバンド史上最多本数となる全国ツアーを開催するはずだった彼ら。だが新型コロナウイルスの影響でアルバムは発売延期となって8月19日にリリースされ、ツアーは全公演中止になってしまった。4人のヒトリエの軌跡をすべて詰め込んだベストを経て、彼らはライブの場でその歴史にどう向き合うのか、そしてその先でどんな未来を見せてくれるのか。リリースツアーはヒトリエという物語のターニングポイントを刻むものになったはずだが、その実現は叶わなかった。だが、ライブができないという状況のなかでも、ヒトリエは確実に前に進んでいた。この初の配信ライブから伝わってきたのは、新たな形になったヒトリエが、ヒトリエの音楽を生まれ変わらせていくスリルと情熱だった。デビュー作『ルームシック・ガールズエスケープ』のオープニングナンバー「SisterJudy」、続けて同作の曲順どおり「モンタージュガール」。イガラシ(Ba)とゆーまお(Dr)が目を合わせ、シノダは腕を振り回し、序盤から触れたら切れそうなサウンドが矢継ぎ早にぶっ放すと、「どんどん行きましょう!」と煽るシノダ。「シャッタードール」のシノダの緩急自在のボーカリゼーションがフロントマンとしての存在感を強烈に示し、wowakaのボーカロイド曲をバンドで再構築した「日常と地球の額縁」ではイガラシの暴れ回るベースラインとゆーまおのダイナミックなドラムが楽曲の世界観をいっそう鮮やかに描き出す。
ベストアルバムのリリースライブであるという性質上、当然「歴史を振り返る」という視点は入り込んでくるし、ヒトリエの場合その「歴史」とはつまり「wowakaがいた日々」のことにほかならないから、どうしたって複雑な感情は巻き起こってくる。1年半が経ち、ツアーやライブも重ねてきたというのに、「なぜここにwowakaがいないのか」と相変わらず心のどこかで感じてしまう。だがこのライブで画面から伝わってきたのは、その歴史を今の3人の生き様でアップデートし、前に突き進むという思いだった。「3人のヒトリエ」の存在意義が、これまでとはまったく違う意味で今の彼らの中にあることが、「Loveless」の長いアウトロでひたすらに音を重ねていくその姿には表れている。今年1月のファンクラブ限定イベント以来、約9カ月ぶりというブランクに、「9カ月も空くと、ギターソロでぴょんぴょん飛び跳ねるとこんだけ息が上がる」と正直な感想を述べるシノダ。「はしゃぎすぎた……」と言いながら、それすらも楽しんでいるようだ。「でけえ音出すってたまんないっすよ」というのは、掛け値のない本音なのだろう。