<TALTO>江森弘和氏が語る、マカロニえんぴつ躍進の鍵と多様性の大切さ「それぞれの人生のストーリーを感じられるのが面白い」

<TALTO>マカロニえんぴつ躍進の鍵

ガールズバンドの次世代を担うヤユヨ

ーーそして次なる気鋭の若手として、ヤユヨがとてもいいバンドだなと感じているのですが、彼女たちとの出会いについても伺えますか。

江森:ヤユヨは去年6月くらいにeggsで試聴していて出会ったんですよ。後から『未確認フェスティバル2019』にエントリーしているのを知って、準決勝前にすでに落ちちゃってたんですけど、逆に声かけできるからラッキーと思って(笑)。連絡を取っていろいろ話してる間にあまり悩まず、ほぼ二つ返事で一緒にやろうということになりました。彼女たちがまだ大学2年生だっていうのもあるんですけど、最初は僕はあくまで俯瞰で見ながらアドバイスだけして、自主音源制作やライブハウスとのやり取りなどもメンバーに経験させて、まずは自分たちだけで1から作っていくことや、失敗も含め今のうちに経験してもらおうと思ったんです。「さよなら前夜」っていう曲のMV監督も、あえて自分たちで探してみてもらったりとか。もちろんコーディネートとしては入りましたが。

 ボーカルのリコは20歳なのに岡崎京子とか90年代の漫画が好きって言うんです。そこをヒントにしつつ、僕も90年代でいうとウォン・カーウァイの映画が好きだったので、関連画像とかいろいろ調べていって。「これアー写にいいね」って思うヒントを見つけて、カメラマンに送って構図とか相談しながら、寝転んでるアー写が撮れたりしたんです。それからあれよあれよとジョンソン・エンド・ジョンソンの書き下ろしのタイアップが決まったり、『モヤモヤさまぁ~ず2』(テレビ東京系)のタイアップが決まったりとか、いろいろ動きが出てきたので良かったなと。<TALTO>としても、1枚目のアルバムで異例な売れ方をしてると思いますね。

ヤユヨ「さよなら前夜」MV
ヤユヨ「いい日になりそう」MV

ーーヤユヨは<TALTO>の中では珍しいギターロックバンドですよね。<[NOiD]>にいても違和感がないバンドだから、その采配が面白いなと感じていました。そこについてはいかがですか。

江森:ヤユヨにはリコとぺっぺ、2人ソングライターがいるんですけど、ぺっぺはサニーデイ・サービスとか初恋の嵐が好きなんです。だからガールズバンドでああいうリフを弾く人はあまりいないなって思うし、逆にリコはaikoさんが好きだから、作る曲もポップス寄りのイメージです。声質に清涼感があって懐かしさもあり、万人に好かれる要素を持っているなと。「さよなら前夜」のMVが非常によく見られているので、一見青春パンクっぽいイメージに映るバンドなんですけど、いい化学反応が起きていて<TALTO>らしいバンドなんじゃないかと思ってますね。

ーーそういう意味では、ガールズバンドとしては空席のポジションを狙っていける存在かもしれないですね。

江森:そうですね。ヤユヨって、水カン(水曜日のカンパネラ)とかあいみょんとか、インディーシーンでいうとカネコアヤノさんとか、そういうところに近いと思ってるんですよ。カルチャーを匂わせる佇まいがあるというか。あいみょんもファッションやカルチャーが付随してブランディングされているじゃないですか。SNSを見ていても、リコの古着の雰囲気から「昭和と令和の融合」と書かれていて、なるほどなと思いました。今のリスナーはそういうのを見つけるのも早いですよね。音楽と同時にカルチャー的な要素も一緒に動くと幅が広くなるので、個人的にはそういうところにもこだわってるつもりです。

ーー昭和と令和の融合......マカロニえんぴつにも通ずる言葉だなって思いました。

江森:そうかもしれない。ヤユヨって、ちょっとマカロニの妹分みたいなところがあるんです(笑)。ソングライターが複数人いるところとか。マカロニも今でこそメンバー全員曲が書けますけど、最初は全然書けなかったところから5~6年かけてずっと制作会議して鍛錬してきたんですよね。ユニコーンがみんな書けるから、時間があるうちにそこを目指して行こうぜって言い続けて、メンバーの努力で全員書けるようになっていって。

ヤユヨ「七月」MV

ーーそうだったんですね。今日は4バンドのストーリーがいろいろ繋がった気がしました。これからの2020年代、<TALTO>として注力していきたい課題や目標はどういったものですか。

江森:それぞれのバンドの状況次第で目標は違います。年齢や経験が重なってくると売れることだけが目標じゃないバンドもいるだろうし、一方でマカロニみたいに今の時代に求められるバンドもいることで、レーベルとして資本を蓄えつつも、いろいろとチャレンジできると思うんです。その上で、さっきの話にも繋がりますけど、リスナーの期待をいい意味で裏切りたいですね。認知されればされるほど「<TALTO>ってこういうレーベルだよね」って言われるのはありがたいですけど、それだとやっぱりずっと続けることは難しい。例えばカクバリズムにはソロシンガーもいればインストバンドもいて、幅の広さや引き出しの多さがちゃんとあるので、自分も常に模索しようと思ってますね。レーベルで集う『TALTOナイト』も毎年やっていて、コロナの影響で来年できるかわからないけど、5周年になるから2ステージ作ってやってみたいなと思ってます。あとは、<murffin discs>の中で<TALTO>だけがレーベルコンピCDを作ってるんですけど、バンドの共作で1曲作ったり、お互いの曲をカバーし合ったり、<TALTO>はそうやってフットワーク軽く面白がれる現状があるので、新しくヤユヨが加わった分、新しい血を入れてこれからも続けていきたいですね。

 メジャーもインディーズレーベルもいろいろ模索してる中で、<murffin discs>にはSUPER BEAVER、sumikaがいて、初期から在籍しているCzecho No Republicや中堅のSAKANAMONがいて、若手のマカロニえんぴつが先輩を脅かすような存在になってきて、新人のヤユヨも上がってきている。志賀の血、永井の血、そして自分の血を通して、それぞれの感性で発掘しつつ、オーディションも継続しているので、レーベル全体としての多様性が保たれていると思っていて。それは<TALTO>だけでもできてると思うんですけど、いつか限界が来る不安があるので、新しい血が入ってもっと豊かな多様性を形成していくことで、いい循環が生まれていくのかなって思いますけどね。そこには期待しています。

murffin discs オフィシャルサイト
murffin discs Twitter

連載「次世代レーベルマップ」バックナンバー

Vol.5:<コドモメンタル>今村伸秀氏
Vol.4:<[NOiD]>永井優馬氏
Vol.3:<TRUST RECORDS>綿谷剛氏 
Vol.2:<murffin discs>志賀正二郎氏
・Vol.1:<small indies table>鈴木健太郎氏 前編後編

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