<TALTO>江森弘和氏が語る、マカロニえんぴつ躍進の鍵と多様性の大切さ「それぞれの人生のストーリーを感じられるのが面白い」

<TALTO>マカロニえんぴつ躍進の鍵

 バンドシーンを引っ張り、ライブハウスの“今”を担う気鋭のレーベルを取材する連載「次世代レーベルマップ」。第6回は、<murffin discs>内で2016年に立ち上がり、東京カランコロン、SAKANAMON、マカロニえんぴつ、ヤユヨの4バンドを輩出している<TALTO>より、レーベル代表の江森弘和氏を迎えた。音楽とクリエイティブに対する鋭い目利きを持ち、一つ一つのバンドの個性を活かしながらレーベル運営を行う江森氏のスタイルは、移ろいの激しい今の時代に改めて注目されるべきだろう。現にマカロニえんぴつが加速度的に勢いを増してきているのは周知の通りだ。そして、<[NOiD]>と<TALTO>が一つ屋根の下で異なる魅力を発揮し、シーンに多大な影響を与えていること、バンド同士の切磋琢磨こそが成長の鍵になることを再確認できるインタビューとなった。連続で行ってきた<murffin discs>スタッフインタビュー第3弾、じっくりと読んでほしい。(編集部)

「何をやっても自分色に染まるぐらい個性が強いバンドたち」

ーー<murffin discs>代表の志賀さん、<[NOiD]>の永井さんに続いて、いよいよ江森さんにお話を伺います。まず、<TALTO>を立ち上げるに至った経緯を教えていただけますか。

江森弘和(以下、江森):前職の時、発掘からメジャーデビューに至るまで、東京カランコロンとSAKANAMONとは一緒にやっていたんです。彼らが契約満了でメジャーレーベルから離れることになった時、フリーで運営をしていく中で、僕自身も資本がありながらも、もっと自由に動きやすいレーベルに移りたいと模索してる最中でした。バンドももう少しインプットする期間を設けて、自分のペースでリリースできるようになった方がいいと思ったので、いろんなレーベルの条件を見比べたりしていたんです。そしたら、もともと先輩であり飲み仲間だった志賀の<murffin discs>からレーベルを作らないかとお誘いをいただきまして。ちょうどsumikaとSUPER BEAVERが勢いに乗ってきている時期だったんですよね。チェコ(Czecho No Republic)やテスラ(テスラは泣かない。)も頑張っていて、マカロニえんぴつと同世代のAmelieとかthe quiet roomもいたので、ライバルとして切磋琢磨できるイメージがあったし、何よりバンド愛のある事務所だなって思ったんですよ。インディーズでしっかりやっていて、ライブハウスも持ってるからいろんな企画を発信しやすいかなって思ったので、総合的に考えてeggmanに入ることを決めました。

ーーもっと遡って聞いてしまいますが、SAKANAMONや東京カランコロンに出会ってグッときたのはどんなきっかけがあったんですか。

江森:僕は音楽業界に入る前は広告代理店にいたんです。音楽の広告にメインで携わらせていただいていたので、売るためにはどうしようって考えながらプロモーションアイデアや販促プランなどを考えていました。ただ、広告って基本的にプロダクトとして完成したものをどう売るかっていうところがスタートだったんで、予算がなければできることも少ないから、やっぱり自分が本当にカッコいいと思うものを1から育てて、自分も一緒に上がっていきたい気持ちが強くなったんですよね。代理店にいたおかげでポップスもロックもオールジャンル聴いていたし、どうやってきっかけを作るかとか、そういう幅広い感性で考えられるようになったのは良かったかなと思います。

 で、カランコロンとの出会いは2010~2011年くらいだったと思うんですけど、当時の新宿や下北で、SEBASTIAN X、ふくろうず、THEラブ人間、オワリカラがいたりとか、もうちょっと前だとUNISON SQUARE GARDENも出てきていたり、『TOKYO NEW WAVE 2010』っていうコンピCDがあったりとか、そういうオルタナティブなシーンがあったんですよね。そのシーンを個人的に注目していたんです。なかでもカランコロンは、当時オルタナティブでマニアックなことをやってたイメージだったんですけど、どこかポップで懐かしいメロディの匂いがすごくしていたので、狭い界隈だけじゃなくてちゃんとマス向けに上質なポップスを作っていけると感じたんです。

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ーーSAKANAMONにも共通すると思うんですけど、オルタナティブな感性をちゃんとポップに聴かせるのが<TALTO>のアーティストの特徴じゃないかと思うんです。

江森:ウチのバンドは「こういうのが好きでしょ?」って言われたら、それはもうやりたくなくなるんですよ。一筋縄ではいかないところは共通してるかなと思いますね。ひねくれてます(笑)。

ーー(笑)。SUPER BEAVERをはじめとした<[NOiD]>のアーティストがストレートだとしたら、<TALTO>には変化球型の印象がありますけど、その感覚にも近いんでしょうか。

江森:そうですね。仮に喧嘩して殴り合いしたら<[NOiD]>に負けるんですけど、こっちは素手でう◯こ掴んで攻撃できるから、負けはしないぞっていうか(笑)。

ーーははははははは。

江森:あとサブスクについて言うと、他のインディーズレーベルを見ても、パッケージが大事だから解禁されるまで結構時間がかかってたんですよね。でも、<TALTO>はサブスクが日本で流行り出したぞって時から、リリースに合わせてパッケージと同発で配信していたんです。やっぱり、今までリリースから数週間後にサブスク解禁してたバンドが、いきなり同時にサブスクに出すようになっても、すぐにはハマらないんですよ。そんな甘くないというか。Mr.ChildrenやBUMP OF CHICKENみたいな国民的なバンドが一斉配信でもしない限り、インパクトは少ない。リスナー層的にも、特にマカロニえんぴつはそこをしっかり考えてやっていたので、戦略がハマったと思っていて。

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ーーカランコロンやSAKANAMONもパッケージ世代のバンドだと思うんですけど、サウンド的にはサブスクと相性がいいですし、音楽好きな人たちにとってはディグっていきたくなるような音楽ですよね。マカロニえんぴつも、そういった先天的なサブスクとの相性の良さを感じます。

江森:おっしゃる通り先天的な部分もあるし、個人的にもパッケージ世代なのでもちろんパッケージも大事ですが、インディーズならではのパッケージ文化にあまり固執したくないなっていうところはありました。特にメジャーレーベルが明らかにサブスクに注力しているタイミングだったので、やっぱりインディーズは遅いなと思ってたから。遅くなると、それだけで負けちゃうんですよね。トライ&エラーでもやってみようと思って続けてたら、マカロニは特に上手く行ったんだと思います。

ーー近年のバンドヒットの傾向として、気づいたらサブスクでたくさん聴かれていたり、SNSで話題になっているといった現象もありますが、そこも感じられていたんでしょうか。

江森:実はTikTokでも、マカロニえんぴつの楽曲は「弾いてみた」とか「踊ってみた」系の動画で使われることが多くて、そこからLINE MUSICにも派生してるんですよね。Apple Musicでは4月に出した『hope』がずっと調子が良くて、過去作もまた聴かれるようになったから、永続的に聴いていただけている状態で。なおかつ、単発のヒット曲でここまできたというより、全曲しっかり聴かれているんですよね。それが曲の質の高さを表しているんじゃないかなと思ってます。やっぱりヒゲダン(Official髭男dism)やKing Gnuを見ていても、全曲クオリティが高くてしっかり聴かれてるから、1曲だけタイアップでボーンとヒットしただけではすぐ飽きちゃう。マカロニもほぼノンタイアップでここまで来れているのはいいことだなって。

ーーなるほど。

江森:出会った当時、はっとりはまだ学生だったんですけど、今思うと自分のやりたいことが100%覚醒していたわけではなかったと思うんですよ。ただ、群を抜いて光るソングライティングセンスの片鱗はあった。お酒を飲む時には「お前が一番センスあるよ」って今でも言うんですけど(笑)、そこにはスケール感、多様性、自分らしさ、懐かしさとか、いろんな要素が全部詰まってるんですよね。ユニコーンが好きっていうバックボーンはもちろん、奥田民生さん節の「だぜ」っていう言葉尻とか、OasisなどのUKロックへのオマージュとか、僕ら世代の30代後半〜40代の琴線に触れるものもあるし、逆にそれが今の10代に刺さってるというのは、彼のセンスが若い人からすると新しいっていうことだと思うんです。懐かしさと新しさ、両方がある。あとは<[NOiD]>のボーカル陣が得意とするライブで引っ張るようなMCもちゃんとできるんです。それはeggmanに入ったからこそ、SUPER BEAVERやsumikaに刺激を受けてるからでもあるので、<TALTO>だけだったら生まれなかったかもしれないですね。やっぱりバンドシーンで戦ってる以上は、ライブが良くないとお客さんも離れていってしまいますから。

マカロニえんぴつ「ブルーベリー・ナイツ」MV
マカロニえんぴつ「レモンパイ」MV

ーーバンドは日々の積み上げがそのまま音楽に反映されますからね。どんなに時代の流れが速くなっても、そういうインスタントな部分ではない、本質的な良さが評価されるということに関しては、むしろバンドシーンにおいては顕在化しているんじゃないかと感じます。

江森:そうかもしれないですね。それこそフェスカルチャーに触発された四つ打ち文化が落ち着いてから、バンドにもよりいい曲、いい歌詞が求められるようになってきたじゃないですか。マカロニも他のバンドたちも、インディーズから上質なポップスをリリースしてきた自負があるので、そこはレーベルカラーとして自信があるところです。

ーーそうした外的なバンドミュージックの潮流は、<TALTO>に影響を与えてきたと感じますか。

江森:気にしたくなくても気にしちゃうものなので、全く取り入れないわけじゃないんですよ。むしろそういうのを取り入れる柔軟なバンドが多いかなとは思ってますけど、ブレてるわけじゃなくて、結局何をやっても自分色に染まるぐらい個性が強いバンドたちだなっていうことなんです。それはソングライティングや歌を聴いてもらったらわかるかなって思いますけど。あと、僕は広告の仕事をしていたからアートワークやクリエイティブもすごく気になるんですよ。ただ突っ立ってるだけのアー写とかジャケ写だったら、僕はそのバンドの曲は興味が持てないですし、<TALTO>にいるバンドたちも同じ感覚を持ってると思います。言い方を変えるとひねくれてるんで、僕もずっとレーベルカラーと全然違うラッパーとか弾き語りのアーティストも積極的に探してるんですよね。そういう意外性で裏切っていきたいじゃないですか。

ーーそういう出会いを求める気持ちが、今のオーディションにも繋がっているんでしょうか。

江森:そうですね。「オーディションやりましょう」ってずっと言ってたのは僕なんですよ。開催してみて面白かったのは、応募者がアンケートで好きなアーティストを書く欄があるんですけど、人気のバンドはカランコロンとSAKANAMONが多かったんですよ。嬉しかったですね。「アーティストが憧れるアーティスト」がいるのが<TALTO>なのかなって。

ーーとても納得できる話ですね。SUPER BEAVERやsumikaなど<[NOiD]>のバンドが看板になっている分、しっかりと<TALTO>がレーベル全体の縁の下を支えているというか。

江森:そう言っていただけたら嬉しいですね。いろんなバンドたちが集まってきてるのは面白いし、それぞれの人生のストーリーを感じられるのが面白いんですよね。オーディションをやっていく中で感じたのは、開催当初は1〜2バンドを選出するところから始まるわけですけど、そのやり方が一度ハマったからといって、その後も同じようなやり方だけを貫くのは嫌いなんです。前の先輩バンドと同じようにいい結果になることってあんまりなくて。サブスクにしても「このレーベルにいるから解禁する」わけではなくて、バンドのカラーがハマればやっていいと思うし、やらなくてもいい。LPで必ずリリースするアーティストがいてもいいですし、<TALTO>に関してはこだわらないことにこだわって柔軟に考えていきたいです。

ーーそれぞれの個性とちゃんと向き合うことが必要だと。

江森:ここに至るまでのバンドの歴史やカラー、バンドごとにストーリーがありますからね。この企画はマカロニにハマったけど、SAKANAMONにハマまらないとか、そこは見極めなければならないなと思います。

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