King Gnu、マカロニえんぴつ、清竜人……セルフカバー各楽曲を聴き比べ 作り手のこだわりが光るアレンジに

 他のアーティストに提供した楽曲を制作者自らが演奏して歌うセルフカバー曲。他者の持ち歌となった原曲と聴き比べると、よりアーティストの個性と美学が打ち出されていることが分かる。本稿では今年に入って注目されたセルフカバー楽曲をいくつか紹介したい。

King Gnu『CEREMONY』

 今年1月にリリースされ、大ヒット作となったKing Gnuの3rdアルバム『CEREMONY』。その9曲目「Overflow」は常田大希(Vo/Gt)が家入レオに提供した楽曲のセルフカバーだ。

 2019年4月の6thアルバム『DUO』に収録された家入レオ版「Overflow」は、言葉数の多さとタイトなリズムワークが異彩を放つ1曲であった。復縁を願う溢れる気持ちのまま“君”に会いに行こうとする、という内容のリリックを開放的な歌唱で演出する。様々なアーティストから楽曲提供を受ける家入レオならではのアプローチで、クールに楽曲と一体化した1曲だ。

「Overflow」

 一方、King Gnuによる「Overflow」は原曲では打ち込みだったリズムがドラムとベース共に生演奏となり、引き締まったグルーヴを実感できる。また、歌詞における情けなさや抑えきれない感情が体現されたような井口理(Vo/Key)の歌声も、別の角度から楽曲の世界へと没入させてくれる。家入レオ版のイメージを引き継ぎつつも、バンドで鳴らす楽曲に仕上げるべく音を精査し、肉体性を高めたセルフカバーだ。

「Overflow」

 今年4月にリリースされ、バンドの勢いを決定づけたマカロニえんぴつの2ndアルバム『hope』。8曲目「愛のレンタル」は、はっとり(Vo/Gt)が私立恵比寿中学(以下、エビ中)に提供した楽曲のセルフカバーだ。

 エビ中ver.の「愛のレンタル」は2019年12月発売の6thアルバム『playlist』に収録された。作詞作曲ははっとり、編曲はマカロニえんぴつが担当しており、その軽やかな演奏に共振するかのように6人の歌声が滑らかに乗った心地よい1曲。中でも、真山りかのソウルフルな歌声は出色の仕上がり。恋のあれこれに戸惑い始める時期の心情を、自然体に歌い上げている。

「愛のレンタル」

 一方、マカロニえんぴつver.ははっとりが痰を吐き捨てる音声で始まる。終始、激しく突き放すような歌唱は恋の全てに行き詰まった男の嘆きにも聴こえてくる。アレンジこそ原曲と大きく違わないが、ワウギターを押し出してよりファンキーな演奏を聴かせつつも、全体を通してどこか寂しげなムードが漂う。終盤に鳴るストリングスのフレーズに合わせ、がなるように響かせるスキャットもまた、その哀愁を引き立てている。同じ歌詞、同じメロディでも印象をガラリと変える、これぞセルフカバーの醍醐味だろう。

「愛のレンタル」

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