米津玄師、サカナクション、never young beach......奥山由之が手がける驚きと温かみが詰まった映像作品
米津玄師「感電」のMVが公開から4日で1000万回再生を突破するなど話題を呼んでいる。監督したのは写真家/映像監督/アートディレクターの奥山由之。フィルムカメラを用いた独特の風合いを持つ写真で2010年代初頭に頭角を現し、現在では多方面で活躍するクリエイターだ。本稿では、彼が手掛けてきたミュージックビデオ作品に焦点を当て、その求心力について読み解いていきたい。
米津玄師「感電」は自動車からの景色を中心に、スピーディーな映像が展開される。ここで目を惹くのが米津玄師の表情だ。歌唱やダンスなど、目まぐるしいカットの中で自在に表情を切り替え、楽曲の妖しいムードを引き立てていく。彼の表情にはミステリアスともファニーともとれるような不思議な魅力が漂う。かつてこんなにも表情豊かな米津玄師を収めたMVがあっただろうか。奥山の写真は被写体を神秘的に捉えつつも、その人物の内面にある機微をそっと引き出すものが多いように思う。それは映像作品でも変わらない。どこか寂しげに笑い、煽りながらも戸惑っているような「感電」での米津玄師を引き出したのだ。
奥山由之監督のMVで“表情”と言えば思い出すのが、never young beach「お別れの歌」だろう。女優・小松菜奈は、スマートフォンで撮影された縦画面の中で多彩な表情を見せながら、恋人との親密な暮らしを演じている。徐々に感情を昂らせていく楽曲に対して、映像は淡々と些細な日々の記録を連ねていくが、題が「お別れの歌」である以上、この小松菜奈との思い出は別離のイメージと共に見返すほかない。戯れの数々はありふれた場面だからこそ眩しく見える。それは我々自身のありふれた記憶へも接続され、そっと胸を締めつける。スマホというありふれたアイテムを通すからこそ、楽曲が持つ感傷をさりげなく高め、聴き手を没入させていくこの傑作が生まれたのだろう。
また、小沢健二「彗星」のMVはインターホンのカメラが被写体たちを捉える。画面でご機嫌に踊る小沢健二の姿は微笑ましく、やはりその表情の自然さが印象的だ。日常と非日常がひしめき合うシチュエーションの中、“あるかもしれない”世界がそこには広がる。奥山由之の作品は生活を切り取った映像の中で“あるかもしれない”不思議や輝きを見せてくれるのだ。