w-inds. 橘慶太×Night Tempo対談【前編】 サウンドメイクのこだわりと独自のジャンルを更新することの難しさ

KEITA×Night Tempo対談【前編】

リミックスは錬金術と一緒

Night Tempo作業スペース

橘:具体的な音楽制作の話も聞いていきたいと思うんですけど、まずどのソフトで音楽を作り始めたんですか?

Night Tempo:Abletonです。Daft Punkが昔からずっと使っていたので。ただその理由だけです(笑)。

橘:なるほど(笑)。いろんな動画を見たりしながら独学ですよね? ほとんどハードウェアも使わずに?

Night Tempo:はい。最初は本当にソフトウェアだけでやっていて。最近はキーボードなども使っています。あとはプレイヤーにお願いして、実際に楽器を弾いてもらったり。

橘:最初って自分の頭の中で鳴っていた音が鳴らなくないですか? どのようにトライアンドエラーを繰り返していったのでしょうか。

Night Tempo:僕がやりたい音楽はそれまでになかったスタイルなので難しかったです。歌謡曲やフォークソングを使いながら、今の人が聞いてダサく感じるのか、懐メロに感じるのか、ちょっと変わった音楽と感じるのか、かっこいいと感じるのか、その微妙なギャップの間ですごく悩んでいました。「ただ懐かしい音楽を流すDJ」というイメージにはしたくなかったので。

 あと、シティポップのようなニッチな音楽をあまり詳しくない方々にも紹介できるようになるために「僕の音楽は音楽に詳しい人たちだけのものではない」ということをアピールしたくて。たとえば、西城秀樹さんや吉幾三さんの音楽をリミックス、リエディットする一方で、オシャレなシティポップとして知られている竹内まりやさんの「プラスティック・ラブ」をリエディットしてみたり。それぞれをみなさんがどうやって聞き取るのかを見ながら自分が求める方向性を決めていくことをずっとやっています。いわばコンセプトとの戦いといえますね。

橘:僕もリミックスをたまにやるんですけど、原曲のイメージを超えるのはすごくハードルが高いことじゃないですか。それを何曲もやっているというすごさはリミックスをやっている人にしかわからない部分ではあると思います。自分の中で原曲を超えたと思う瞬間はありましたか?

Night Tempo:僕からすると原曲を超えるとか、原曲と絶対に違う何かを作らなきゃならないとかを考えるよりも、どういうエディットがその曲に似合うのかを考えることが大事かもしれません。いろいろな要素を組み合わせて新しいものができるという点では、リミックスは錬金術と一緒ですね。

橘:原曲を超える、超えないではなく、新しい作品として聞いてほしいということですね。突然マニアックな質問になるんですけど、使っているお気に入りのソフトはありますか? フューチャーファンクを作る時に気をつけているテクニックとか、お気に入りのシンセでもいいですし。

Night Tempo:シンセとドラムマシンはアナログをメインに使うことが多いです。80年代と95年、98年あたりのもので音を足します。アナログシンセはローランドのBOSSのドクターグルーヴとやヤマハのDX100を使っています。クラシックなハウスサウンド、90年代のヒップホップサウンドなどいろいろ入っていて。ベースの音は弾いてもらった音をサンプラーに入れて使っています。

 僕がアナログを使っているのは、アナログを使っていた時代の音楽のイメージを再現したいから。ソフトウェアだけで作っていくとどうしても今っぽくなってしまって、質感が自分が求めているのものと違うんですよね。自分の求めるルーツを探して、どんどん昔に戻ったら当時の音を生かすためには当時のものを使うというやり方にたどり着きました。

 アナログの一番の特徴は倍音ですね。それがあるかないかの差が自分的にはすごく大きく感じます。いろんな方から話を聞いて、たとえば角松敏生さんと一緒に曲を作っていた打ち込みをやっていた方からもいろんなシンセやドラムマシンの情報、作り方を教えていただきました。まずは機材を買って真似をして、真似の次はそれを自分なりに工夫して、自分のものにすることをずっと繰り返しやっています。

橘:サンプラーに入れたサンプリングの曲の手法をよく使っていますよね。あとキックの音がすごくいつも太くて印象的だなと思いました。どの曲も厚みがありますが、それもドラムマシン?

Night Tempo:ドラムマシンはそのまま使うのではなく、ドラムマシンで音のパターンを作って音を録ってそれを何個か重ねるんです。角松敏生さんもそうやって作っていました。キックだけでも1個の音の中に軽い部分や重い部分、だいたい3つの音を重ねて作っています。キックは正確にするよりはちょっとずれている方がグルーヴ感が出るので、その3つの音を使うところに合わせて少しずつずらしたり。ドラムの音は自分の作品の良さだと思うのでこだわって作っています。

橘:昭和の楽曲をアレンジする時のボーカルエフェクトのこだわりはありますか?

Night Tempo:リバーブを基本的にかけるようにしていますね。

橘:結構強めにかかっていますよね。昔の曲がそもそもそうというのもありますが。

Night Tempo:そうですね。でもリバーブがない淡白なフォークソングのような曲でも自分が使うときはリバーブを絶対にかけます。曲によりますが、だいたいリバーブをかけるところから作業が始まりますね。

橘:まずリバーブありきでボーカルトラックがあって、そこからアレンジしていくという感じなんですね。コード感はどうですか?

Night Tempo:コードはオクターブ自体を変えるのではなく、オクターブやコードの順番を変えるようにしています。

橘:なるほど。キーはそのままにするのがこだわり?

Night Tempo:変えても1個か2個。だいたいそのままか1個くらいですね。たとえば「プラスティック・ラブ」はいろんなコードが微妙に変わっていく曲なんですけど、僕は一部分だけをずっとループさせて回して使っています。

橘:J-POPってすごくコードチェンジが多いからリミックスやアレンジをする時に難しいなといつも思うんですけど。ワンループでいくことの方が多いですか?

Night Tempo:そうですね。K-POPも基本的に目と耳を集中させる、あと刺激的なものを作るためにブレイクダウンを入れたり、ブロックを入れたり、いきなりブリッジに入ったり、1曲の中にいろんな展開が使われることが多いのですが、僕はそういう技を使わないのが自分のスタイルの良さだと思っていて。ほんのりゆっくりと聞けたり、バイブスが良くて、グルーヴが良くて聞けるようにするのを目標に音楽を作っています。

橘:グルーヴメインということはドラムから作り始めることが多いですか? ボーカルトラックとドラムが基本で、それから上物を載せていくということでしょうか。1曲にどれぐらいの時間がかかります?

Night Tempo:その時の気分によりますが、早かったら30分でできたりしますね。

橘:はやっ! まじですか。

Night Tempo:でも本当にできない時は1週間くらいかかります。最終的に自分が気に入ったかどうかによって時間をかけて作ったとしても全部捨ててリセットする時もあります。

橘:その捨てたデータがいつか復活することは全然ないですか? 完全に捨てちゃう?

Night Tempo:捨てますね。なぜなら自分の性格をわかっているから(笑)。プログラマーの時にも「振り向いたらダメ」というルールがあって。音楽もストックを貯めるのはいいんです。でもそのストックは結局今気に入らなかったら絶対後からも気に入らないので捨てるようにしています。同じネタを後から使うとしても新しく作る方がフレッシュな気持ちで作れますし。

橘:それは潔いですね! 個人的な僕のあるあるなんですけど、全然違うジャンルを作ってみたいと思ったりしませんか?

Night Tempo:ありますね。これまでもローファイヒップホップの曲を作って何曲か出しましたし、トラップサウンドとか、今流行っているメロディ系ヒップホップ、EDMも作ったことはあります。トレンドがあるものは真似をすればいいので、そういう曲の方が作りやすかったりします。

橘:情報がいっぱいありますもんね。

Night Tempo:はい。自分で自分のジャンルを作って、自分で更新しなければならないのはすごく大変です。自分のジャンルが確立されたとしてもずっと進歩がなかったら結局流れていってしまうから。どんなに好きになってくれる人がいても、クラシックになったとしても飽きられてしまう時がいつか来ると思うので。ベースは一緒でも、ここからどうやって方向を変えていくかについてはいろいろ考えています。今作っている新しい作品もフレンチハウスにちょっと偏っているけれどシティポップのテイストを引っ張ってきていて。たとえば80年代のアニメに使われていそうなハウス音楽、そういう感じで作っています。そういう作り方ができるようになったのは自分なりの進歩じゃないかなと思っています。

(後編に続く)

■Night Tempo
80年代のジャパニーズ・シティ・ポップや昭和歌謡、和モノ・ディスコ・チューンを再構築し、「フューチャー・ファンク」というジャンルを生んだ韓国人プロデューサー兼DJ。
米国と日本を中心に活動する。竹内まりやの「Plastic Love」をリエディットして欧米で和モノ・シティ・ポップ・ブームをネット中心に巻き起こした。昭和カセットテープのコレクターでもある。
2019年に昭和時代の名曲を現代にアップデートする『昭和グルーヴ』シリーズを始動。Winkを皮切りに、杏里、1986オメガトライブ、BaBe、斉藤由貴とこれまで5タイトルをリリース。同年フジロックフェスティバル’19に出演を果たし、秋には全国6都市を周る来日ツアーを成功させた。2020年2月には東京ドームローラースケートアリーナでバースデイ・イベントを開催した。

■橘慶太(w-inds.)
1985年12月16日生まれ。福岡県出身。
w-inds.のメインボーカリストとして、2001年にシングル『Forever Memories』でデビュー。同年、第43回日本レコード大賞最優秀新人賞に輝く。その17年の活動において、いままでにw-inds.として12枚のオリジナルアルバムと40枚のシングルをリリース。
国内外でそのアーティスト性、パフォーマンス、そしてセールスは高く評価され、デビュー当初より日本のみならずアジア各国で数々の賞を受賞。その活躍は、台湾・香港・韓国・中国・ベトナム・タイ・マレーシアなど東南アジア全域に拡がっている。
2017年、「We Don't Need To Talk Anymore」からは、橘慶太が作詞・作曲・編曲をセルフプロデュースするなど、世界の音楽のトレンドをいち早く取り入れながら、グループ独自の音楽を追求し、常に進化を遂げている。2020年3月にはKEITA名義で4年ぶりとなるソロアルバム『inK』をリリース。

連載バックナンバー

・【第5回】岡崎体育
・【第4回】NONA REEVES 西寺郷太
・【第3回】Yaffle(小島裕規)
・【第2回】KREVA
・【第1回】m-flo ☆Taku Takahashi

Night Tempoのトップトラック
KEITAのトップトラック
w-inds,のトップトラック
Night Tempo『斉藤由貴 – Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ』

■Night Tempoリリース情報
『斉藤由貴 – Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ』 

5月22日(金)配信リリース



<収録曲>

1. 卒業 (Night Tempo Showa Groove Mix)

2. ストローハットの夏想い (Night Tempo Showa Groove Mix)

Night Tempo Official Website
Night Tempo Twitter
Night Tempo Instagram
Night Tempo Facebook
Night Tempo YouTube
Night Tempo Bandcamp
Night Tempo Soundcloud

■リリース情報
3rd Album『inK』
2020年3月25日(水)
KEITA配信まとめ

初回盤(CD+DVD)豪華デジパック+スリーブケース仕様 ¥4,545+tax

<収録楽曲>
01. Don’t Leave Me Alone
02. Be On The Stage
03. Around N Around
04. Lonely Night
05. I Gotta Feeling feat. ISH-ONE, GASHIMA
06. Tokyo Night Fighter feat. 岡崎体育
07. Too Young To Die
08. Live For Yourself
09. Hopeless Place
10. Y.E.S
11. Nothing Lasts Forever
12. Give Me Somemore
13. Angel
14. Someday

<DVD収録内容>
「Someday」メイキング映像

通常盤(CD only)¥2,727+tax

<収録楽曲>
01. Don’t Leave Me Alone
02. Be On The Stage
03. Around N Around
04. Lonely Night
05. I Gotta Feeling feat. ISH-ONE, GASHIMA
06. Tokyo Night Fighter feat. 岡崎体育
07. Too Young To Die
08. Live For Yourself
09. Hopeless Place
10. Y.E.S
11. Nothing Lasts Forever
12. Give Me Somemore
13. Angel
14. Someday

KEITA オフィシャルサイト

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる