m-flo、新生“loves”が果たす音楽シーンでの役割 時代とともに広がるフィーチャリングの意義
続いて、6月12日には第2弾シングル「RUN AWAYS」を配信リリース。同楽曲のタイトルに掲げられたのは、明るく理想的な未来に“逃げ出す”こと。そのトラックは、勢いあるドラムンベースを中心にしており、1バースにつき16小節が割り当てられている。その9小節目以降では、ブレイクビーツを現代的に再解釈したトラックにドライブするのだが、ここでは“よーいどん”で始まる“かけっこ”のように、それぞれがオンビートで高速ラップを叩きつけるチャレンジングなパートも用意されている。
そんな同楽曲で“loves”に迎えられたのは、RachelとMamikoによるヒップホップユニット・chelmico。キュートで“ゆるふわ”なイメージを抱かれがちな女子2人組だが、VERBALは6月12日の『mortal portal radio』特別生配信内において、「リラックスでレイドバックだけど早口の場面もバッチリ」と、彼女たちのバースを大絶賛。「言ってることも、キツいわけじゃないけど、パッシブ・アグレッシブでその度合いも完璧」と、その優れたバランス感覚を評価していた。
その言葉通り、Rachelは前述したブレイクビーツの上で、四字熟語を交えて硬めなラップを仕上げてくるのだが、その最後を〈四字熟語カッケーマジでツエー!〉と、キッズ感溢れる感覚で締めくくるのがいかにも彼女らしい。また、Mamikoは〈ガタガタガタガタ 脳の状態異常〉や〈ステージはボーナス どう出す〉など、トラックのグルーヴからそのまま言葉を錬成したかのように、ジャストフィットな音ハメができるフロウ技巧者ぶりを披露していた。
あわせて、彼女たちのバースにインスパイアを受けて、VERBALや☆Takuも自身のリリックやトラックにアップデートを重ねたとのこと。なかでも☆Taku Takahashiは当初より、chelmicoらしい“アゲ曲”を目指して、普段から馴染みのあるドラムンベースの作り方をせずに、今回はあえてブレイクビーツなどを織り交ぜたという。ほかにも、Mamikoのバース冒頭では、チップチューンのようなポップなサウンドに切り替わるなど、「tell me tell me」にも通ずるようなビートチェンジが採用されている。それぞれの個性にマッチするようトラックに変化を加えながらも、ギミックの凝り方に煩雑な印象を与えないのがまたすごいところだ。
ここまで記した新生“loves”の2曲についてまとめるとすれば、m-floが若手アーティストを迎えて、彼らならではの言語感覚、歌のリズムやフロウを取り入れ、ユニットとしての表現にアップデートを加える意味合いがあったのではないだろうか。例えば「tell me tell me」では、〈わからない わからな ey ey〉という、向井がコラボ曲だからこそ見せるゆるりとしたフックが耳に残る。それは「RUN AWAYS」でも同様で、一見するとネガティブな言葉に思えても、音楽の力でまったく逆の意味に発想転換をしていたのが、m-floと“loves”アーティストらしいユニークな部分だった。
また、m-flo自身に焦点を移せば、☆Takuが主宰を務めるラジオコンテンツ・block.fmや、VERBALによるファッションブランド・AMBUSHなど、ユニット外の活動があって初めて、今回の“loves”楽曲は成立したのだろう。その始動当初より、アーティスト同士の“繋がり”を軸としてきた“loves”プロジェクトだが、今回のように若手アーティストを知り、フックアップするに至った背景に、上記のような個人活動があったのは、メンバー自身も語るところだ。その結果として、若手アーティスト同士、さらには彼らのフォロワーと、m-floのメインリスナー層という異なるレイヤーが交差するハブとしての役割を果たしていることも、現在のm-floだからこそ生み出せた功績に違いない。
その時代にあわせて、ユニットとしての活動意義や音楽性を幅広いレンジで変化させられるm-flo。我々リスナーにしてみれば、彼らこそが真の“loves”な存在なのかもしれない。
◼︎一条皓太
出版社に勤務する週末フリーライター。ポテンシャルと経歴だけは東京でも選ばれしシティボーイ。声優さんの楽曲とヒップホップが好きです。Twitter:@kota_ichijo