L'Arc~en~CielやMUCCら所属 MAVERICK DC大石征裕氏に聞く、これからの時代のマネージメント

大石征裕氏自伝『夢の船』インタビュー

昔から“ないもの”を作ろうとするのが好きだった

大石征裕『大石征裕 自伝 夢の船』

ーーマネージメントという面で大石さんが大切にしているのはアーティストとのコミュニケーションですか。

大石:そうですね。今もメンバーとはダイレクトに話をして、物事を決めるようにしています。あまりそれぞれのマネージャーに対してでしゃばらないようにしているのですが、メンバーからの希望が強いときはマネージャーを飛ばして話すこともあります。

ーーMAVERICK DC GROUPの今後の体制については?

大石:プロモーションチームは20代、マネージメントは経験がある人でないとなかなか難しいので40代、そういう体制を考えています。この自伝に求人広告を入れて欲しかったくらいですね(笑)。常に人材は募集しています。ただ、この本を書いていて思ったのが、20代のバンドに10代のローディーが付いていた時代が、夢もあって逃げもあって、ちょうどよかったのかもしれないということで。学校や家庭に居場所のなかった若者たちが、バンドとともに成長していくというか。うちにもそういうスタッフがいましたが、お母さんに「私の言うことは聞かなかったのに」といまだに感謝されています(笑)。

ーー本書では大石さんの武勇伝についても包み隠さず書かれています。

大石:あれでも随分削ったんですよ。原稿が上がって来た時に落ち込みましたね。アーティストと私とのエピソードが酒席の話しかなかったので。それより、あの時のレコーディングがどうだったとか、あの時はお世話になったとか、一人でも書いてくるかと思ったら、全員が「酒癖が悪い」とか、「よく事務所のスタッフがついていくなあと不思議に思う」とかばかりで(笑)。本当にマズいと思ったので、落ち込みついでに自分が飲んでいる時の会話を録音してみたんですよ。でも聞いたら途中で嫌になりましたね。それで反省を込めて今は減酒を試みています(笑)。

ーー大石さんは孤高なイメージがありましたが、本書を読むとユイミュージックの後藤由多加さんをはじめ、様々な方と幅広く深く接していることがわかります。あらゆる方々とお付き合いするコツみたいなものはありますか。

大石:私はこう言ったら悪いですが、ジジ転がしなんです(笑)。大阪にいた19歳の頃にPA会社を始めたときも、私の先輩が金銭面でサポートしてくれた。その次はビルのオーナーの方が1フロア無償で貸してくれて、そこでスタジオ運営をすることができました。おそらく私は、うまいこと夢を語るんですよ(笑)。でも、語るだけではなく、自分で楽器を運ぶ、配線をする、レコーディングもPAもする、スピーカーも作る。スタジオも自分で壁に毛布を張って、誰よりも動いていましたから。それを見て、こいつは何かやりそうだな、とみなさん思ってくださったんじゃないかなと。

ーーそういう行動力も重要なんですね。漠然と夢を語るのではなく具体的に見せていくというか。

大石:昔から、ないものを作ろうとするのが好きなんです。今も海外で日本のアーティストをプロモーションする仕組みを作りたくて、いろんな人と協業する準備をしてるんですけど、なかなかうまくいかないですね。

ーーL’Arc~en~CielやHYDEさんも海外での活動が目立ちます。大石さんのなかでは、LOUDNESSがアメリカで成功したことが一つの指針となったとのことですが。

大石:ロックはもともと西洋のものですよね。東洋人が真似してどこまでできるかというのもありますが、そろそろ東洋製のロックがあってもいいんじゃないかという思いがあります。ヴィジュアル系やアニソンなどのニッチなジャンルは、海外の人からしたら真似したいものになりつつありますし。YOSHIKIもHYDEもそのど真ん中の人なので、彼らを応援するという意味でも海外進出は重要なことだと考えています。最近では、RADWIMPSやThe fin.などの音楽もアジアを中心に海外で受け入れられていると聞きます。

ーーアメリカ進出は規模が大きいので大変かと思いますが。

大石:そうですね。まずアメリカは現地のレコード流通に入れないことが大きなネックです。ライブはいろんなアーティストが日本からファンを連れて行けば実現することはできますが、それはやりたくなかった。あくまでも現地のプロモーターに呼んでいただくことにこだわっています。うちで最初にアメリカでライブをやったのはMUCCで、彼らは35箇所を回るロックサーキットに呼ばれて回ったんですが、現地プロモーターの管轄する部分は我々にはどうにもできない。ライブハウスのネットワークもそうですし。それぞれ場所によって対応も異なるので過酷な取り組みではありました。ライブ・ネイションのような大手のエージェントと組むのはある程度の規模のあるアーティストでないと難しいですからね。ようやく近年ライブ・ネイション・ジャパンができたので、彼らがどんな動きをするのか、そこには期待しています。L'Arc~en~Cielがライブ・ネイション・ジャパンにライブまわりをお任せしているのは、そういった期待に依るところも大きいです。

ーー今後の目標はありますか。

大石:一つは、私がお世話になったジャパメタ(ジャパニーズメタル)への恩返しですね。やっぱりメタルが好きなんですよ。メタルはニッチな世界で、ヴィジュアル系にも繋がる部分がありますが、今も熱心なファンの人たちがいる。そのファンの人たちと、現存している往年のジャパメタの人たちのコミュニティをうまく繋ぐことができたらいいなと思って、LOUDNESSの高崎晃と話したりしています。もう一つは、先ほどお話ししたようにいろんなアーティストのグローバル化を実現させたいです。日本のコンテンツを海外展開する団体『SYNC NETWORK JAPAN』を立ち上げたので、そこをハブにしてコミュニティを広げていければと思っています。

ーーこのところ新型コロナウイルスの感染予防でライブがほとんど中止・延期になっています。

大石:エンターテインメントが娯楽であることは確かなので、生命を守るためには致し方ないことだと思います。個人的にはなにか保証があってもいいのではないかとは思いますが。でも、そんな中、L'Arc~en~Cielの“エアライブ”がかなり盛り上がったんですよ(『ARENA TOUR MMXX』ツアー2月28日・29日横浜アリーナ公演、3月4日・5日東京・国立代々木競技場公演が中止に。28日「#エアMMXX」ハッシュタグをつけてファンが架空のライブで盛り上がる中にメンバーも参加した)。Twitterでもトレンド入りするほどで。無観客ライブも賛否ありますけど、エンタメが何かの力になれたらいいですよね。この時期だからこそYouTubeや配信、ネットでの展開について考えたり、人を集合させないで楽しませる方法をもう少し模索していきたいです。

ーー最後になりますが、本書を通じて読者に伝えたいことは?

大石:アーティストとの関わり方もケース・バイ・ケースなので、この本にはとにかく自分が挫折したことを書こうと思ったんですよ。だからなにかに励んでいて辛くなっている人、挫折しそうになっている人の手助けにはなるかもしれません。

■書籍情報
『大石征裕 自伝 夢の船』
2020年2月28日(金)発売
出版社:シンコーミュージック
公式サイト

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