HYDEの『ANTI』が迎えた完成の時ーー“芸術的なカオス”生み出した熱狂のツアーファイナル

『HYDE LIVE 2019 ANTI FINAL』レポ

「『ANTI』はね、”招待状”なんですよ。皆が来てくれることで初めて完成するんです」

 『HYDE LIVE 2019 ANTI FINAL』。これまでHYDEが産み落としてきたどの作品よりも攻撃的であり、彼の中に存在するやりたいことをひたすら具現化したかのようなアルバム『ANTI』を掲げたツアーのファイナル2DAYSである。『ANTI』は国内でのツアーや夏フェスに加え、Bring Me The Horizon来日公演のゲストアクト、さらにはStarsetのUSツアー帯同など、様々な環境でその轟音を鳴らしてきた。過酷な日々をくぐりぬけてきた作品の“未完成”最後の日、“招待状”を持ったファンが全国各地から集結した12月8日の様子をお届けする。

 開演前。場内には大きく表示された時計が開演時刻へ向けて歩みを進め、彼の選曲であろう様々なメタルコアバンドの楽曲が流れ続けている。16:60から「お前ら準備はいいか」と言わんばかりにSEが徐々に調子を上げていく。期待が最高潮に達した6分後、スクリーンには最早彼のものと言っても過言ではない悪魔の数字「666」が不気味に浮かぶ。幕が落ちてステージ上に現れたのは、“NEO TOKYO”という未来都市と、そこに君臨した悪魔の姿。「WHO’S GONNA SAVE US」のエレクトリックかつヘヴィなサウンドに、観客は“NEO TOKYO”へと引き込まれていく。彼は音源と比にならないほど刺々しいシャウトで問いかける。“誰が私達を救うの”と。1曲目を叫び終えると、「やっちまおうぜ幕張!」の掛け声と共に「AFTER LIGHT」、「FAKE DIVINE」と『ANTI』の中でも攻撃力の高い楽曲を畳みかけていく。

 たった3曲の間に、自身が目にしている光景を疑った。さらに磨きがかかった歌唱力。異常なピッチの安定感を誇りつつ、激烈にディストーションの効いたシャウト。ダークやゴシックといった彼が持つ独特の妖しさ。さらに長年のキャリアが生む圧倒的なエンタメ性と、バンドキッズのような純粋な衝動と熱量。これら全てを共存させ、一つのアートを生み出している。そんな化け物じみた彼が「皆で作ってきた『ANTI』の最終形を見せてくれ!」なんて言ってくれるのだから、観客も盛り上がらないわけにはいかない。

 ライヴはVAMPS時代の楽曲も交えつつ中盤戦へ。「SET IN STONE」では太く歪んだ歌声とヘヴィなリフが絡み合い、異様な空気を帯びていく。楽曲の最後、彼が銃に見立てたマイクを咥えて自ら引き金を引くと、水を打ったような静けさと暗闇が会場を包む。息をすることも許されないような凍り付いた世界に、朝焼けのように力強くも優しい「ZIPANG」が満ちていく。続く「OUT」で客席に再度息を吹き込んだのち、彼は自身の『ANTI』への思いを語りだした。

 「『ANTI』が発売されてから半年、こんなに愛される作品になるとは思っていなかったです。『ANTI』はね、“招待状”なんですよ。皆が来てくれることで初めて完成するんです。だからね、中途半端で完成は嫌なんだよ! 芸術的なカオスを見せてくれ!」この言葉に特大の歓声が上がると嬉しそうに彼は囁いた。「Next song is called……「MAD QUALIA」」。間髪入れずギターリフが会場を貫いてからわずか10秒、観客とステージのボルテージは電光石火で昇りつめ、バンドインと同時に爆発した。あちこちで巻き起こるモッシュにダイブ、ヘッドバンギングにシンガロング。もとより暴れるために来た観客がいつも通りモッシュをしているような予定調和とは違う。ステージから放たれた彼の本気と極上のサウンドにあてられて、剥き出しの感情でフロアが応えたのだ。楽曲中盤には「Pushing back! 広がって広がって!」とフロアに大きくスペースを空け、ウォールオブデスやサークルピットまで巻き起こる。お互いがお互いの本気に応えていくことで生まれた圧倒的な熱量。まさに“芸術的なカオス”と呼ぶに相応しい、彼が望んだ景色がそこにあった。

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