推し武道、末吉9太郎……ファンのコンテンツ化はなぜ進む? “推し活”を開放的に楽しむ時代へ

推し武道、末吉9太郎……ファンのコンテンツ化はなぜ進む? “推し活”を開放的に楽しむ時代へ

 ドラマ、映画、漫画、アニメなど、私たちを楽しませてくれるエンタメ系コンテンツ。中でも、最近はアイドルやアーティストのファンをメインにしたコンテンツのヒットが目立つ。ファンは誰かを応援する側の人間であり、言ってしまえばただの素人だ。それゆえ、社会からは“何かに夢中になっているオタク”という漠然とした扱いをされがちで、個人の感情や生きざまには、あまりスポットが当たらなかった。そんなファンが今、一つのコンテンツとして成り立ち、しかも注目を集めているのはなぜだろうか。その理由を考えてみたい。

共感できるオタク人口の増加

 “推し“は、AKB48全盛期から広く普及した言葉だが、いまやオールジャンルで使われている。3次元だけに限っても、俳優、声優、歌手、バンドマン、ダンサー、YouTuber、TikToker、ホスト、メイド、インフルエンサー、コンカフェ(コンセプトカフェ)店員……といったように様々。このことから、まず推される側の母数が増え、”推し“がいる人口も増えた。つまり、「誰かを応援する」という感情を持つ人の数が増えたということだ。

 ファンを題材としたコンテンツは、共感性が肝だ。たとえば、地下アイドルの活躍と彼女たちを応援するファンの姿を描いた漫画原作のアニメ『推しが武道館いってくれたら死ぬ』(TBSほか)5話で話題になったのは、こんなセリフだった。「舞菜は生きてることが私へのファンサだから、生きてくれてさえいればいいから。同じ時代に生まれたこと、そして舞菜のご両親の出会いに感謝」。舞菜(アイドルグループ・ChamJamのメンバー)のトップオタであるえりぴよが、真っすぐな瞳でオタ友に語るこのセリフには、「オタクの気持ちを代弁してくれた」「わかりすぎる」と共感する人の声がTwitterに溢れていた。こういった推しをもつ人にだけわかる感情の共有をできる人口が増えたということは、コンテンツの拡大にも大きく影響したと考えられる。

TVアニメ「推しが武道館いってくれたら死ぬ」ノンクレジットオープニング

オタクと推しの間に生まれた関係と物語

 同時に、推される側の敷居はガクンと下がった。アイドル界隈一つとっても、男性アイドル=ジャニーズ、女性アイドル=ハロプロもしくはAKB48などという時代はとうに終わり、ジャンルの多様化はもちろん、様々な規模のアイドルが男女問わず活動している。また、握手会や撮影会などで接触する機会も増えた。それにより、推す側と推される側の間に“関係性”が生まれたことも、ファンのコンテンツ化に繋がると考える。「認知」「ファンサ」「神対応」「塩対応」「私信」「干される」……これらはすべて、推す側と推される側との微妙な関係性の中で使用される言葉だ。ファンがステージを一方的に見るだけでなく、接触イベントなどでアイドル側もファンを個として見る機会が増えたからこそ、両者の間には関係性が生まれるのだ。

 15万人以上のフォロワーを持つ末吉9太郎は、この関係性を絶妙なさじ加減で切り取ったコンテンツをつくりだしている。彼は現役のボーイズユニット・CUBERSのメンバーでありながら、“ドルオタあるある“動画をTwitterにアップし、いいね1万超えのバズを連発している。彼が動画内で演じるキャラクター”よしえ“は、男性アイドルに推しがいる女の子。オタ友との会話が中心の動画からは、推しとの絶妙な関係性が垣間見える。たとえば、「昨日握手会で、『ニット着てる男子大好きなんだ』って言ったら、(推しが)ニット買ってんだよ? 私信だよこれ~」と、”推しが自分に私的なメッセージをくれた”と勘違いして大はしゃぎする動画がある。この勘違いができる関係性は、外野からは奇特に見えるかもしれないが、推しとの接触機会が多い人にとってはかなりリアルである。「もしかして、私との会話覚えてたのかな? 私の好みに合わせてくれた?」という、恋愛という関係には物足りない、しかしアイドルとファンの関係にしては過激なよしえの思考は、推しとの絶妙な関係性を匂わせてくる。双方の間に、一方通行ではない関係性が生まれることで、たとえばガチ恋への発展や被り(同じ推しのファン)へのマウンティングなど、様々な方向へ物語が広がってゆく。推しの活躍を見守り受動的に楽しむだけの時代から、自分と推しとの物語をつくることもできる時代へ。そんな変化があったからこそ、コンテンツの濃度をより高めることができ、オタクに刺さるコンテンツ作りに成功したのではないだろうか。

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