斉藤和義の新たな代表作が完成したーー多彩な音楽性と現代社会に対する率直な思いが込もった『202020』を聴いて

斉藤和義『202020』を聴いて

 2019年の4月から6月にかけて『弾き語りツアー 2019 Time in the Garage』を開催。「アレ」(ドラマ「家売るオンナの逆襲」主題歌)、「小さな夜」(映画『アイネクライネナハトムジーク』主題歌)、「いつもの風景」(TVアニメ『ちびまる子ちゃん』エンディング主題歌)などの楽曲をリリースし、寺岡呼人、奥田民生、トータス松本、浜崎貴司、YO-KINGと新バンド・カーリングシートンズを結成するなど、デビュー25周年を越え、驚くほど濃密な活動を継続している斉藤和義から通作20作目となるニューアルバムが届けられた。

 シングル3曲を収めた本作のタイトルは、『202020』。全編打ち込みサウンドに挑み、新境地を切り開いた前作『Toys Blood Music』から約2年ぶりとなる本作は、ツアーのバンドメンバーである真壁陽平 (Gt)、山口寛雄(Ba)、平里修一(Dr)とのセッションを中心に制作された。その他、過去にレコーディングされ今回はじめて完成した曲もあり、キース・リチャーズとの仕事でも知られるチャーリー・ドレイトン(Dr)が参加した「a song to you」、隅倉弘至(初恋の嵐)、森信行(元くるり)と3ピースで録音された「ニドヌリ」なども収められ、幅広い表現が楽しめる作品に仕上がっている。

 まず印象に残るのは、多彩な音楽性が反映されたサウンドだ。オーセンティックなファンクサウンドを取り入れた「万事休す」、ブルース、ソウルなどが有機的に絡み合うグルーヴィーなナンバー「シャーク」、The Rolling Stones直系のロックンロール「Room Number 999」、中期ビートルズを想起させるハーモニー、アンサンブルが印象的なポップチューン「猫の毛」。レゲエ経由の裏打ちビートにジャジーな雰囲気のメロディが載った「I want to be a cat」。斉藤自身のルーツミュージックからの影響を強く感じさせながら、決してレイドバックしすぎず、2020年のポップミュージックに結びつけるセンスと技術は、本作においてさらに向上している。個人的に心に残ったのは、ブラックミュージックへの接近。ファンク、ソウル、R&B的なエッセンスを随所に加えることで、これまで以上に濃密でしなやかなグルーヴを体現しているのだ。00年代以降に起こったネオソウル、ファンクリバイバルなどの潮流は、音楽シーンのトレンドに大きく作用し、トム・ミッシュ、ロイル・カーナー、ジョーダン・ラカイなどのアーティストを生み出しているが、おそらく斉藤もその流れを無意識のうちに感じ取り、自らの楽曲に反映させたのではないだろうか。

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