キンモクセイが信じ続けた“日本のポップス”ーー14年ぶりに完成したアルバムから感じるバンドの情熱と喜び

キンモクセイ、ポップスへの情熱

 こうしてキンモクセイの新譜を紹介できる日が来るとは、生きててよかったと思う。1998年に前身バンド結成、2001年にメジャーデビュー、2008年に活動休止、そして2018年に再始動。20年の歴史の半分がお休みというマイペースなバンドだが、彼らが生み出してきた音楽は今も鮮烈だ。記録よりも記憶に残る、広く浅くよりも狭く深く。2000年代の日本のポップスの歴史を紹介するガイドに、もしもキンモクセイの名がなければ、それは信用に値しない。とか強気に言ってみる。

 キンモクセイといえば、代表曲は「二人のアカボシ」。2002年の大ヒットで、その年の『紅白歌合戦』に出場した彼らを、一発屋だと思った人もいるかもしれない。実際、メジャーレーベル時代のトップ10ヒットは、「二人のアカボシ」と、1stアルバム『音楽は素晴らしいものだ』のみ。武道館にも立っていないし、夏フェスのトリも取っていない。しかし彼らには信じる音楽があった。「日本のポップス」という、60年代、70年代、80年代の先人たちが、試行錯誤の上に積み上げてきたものへのリスペクトと、その上に新たな時代を築く情熱があった。

キンモクセイ 『二人のアカボシ』

 具体的に言うと、はっぴいえんどからナイアガラサウンド、シティポップやAORに連なるラインの上で、キンモクセイは抜群のセンスを発揮した。「二人のアカボシ」や、大瀧詠一のカバー「夢で逢えたら」、「七色の風」といったキャッチーなポップスがそれに当たる。もう一つは70年代の歌謡曲、アイドルポップ、ニューミュージックなどが交わるラインで、ムード歌謡「二人のムラサキ東京」や、にぎやかなホーン入りの「さらば」も、ファンクというよりは歌謡曲。このへんの曲はほぼ、新譜と同時リリースの新装ベストアルバム『ベスト・コンディション+レアトラックス』に入っているので、こちらを先に聴くのもいいかもしれない。DISC2では初CD化を含む、マニアックなレア曲も聴けることだし。

 話が前後するが、12月25日にリリースされる14年ぶりの5thアルバム『ジャパニーズポップス』の話をしよう。先行シングル「セレモニー」をはじめ、全て再始動後に作られた新曲が11曲。メンバー全員が2~3曲ずつ均等に作曲を手掛けているというところがまず目を引く。かつてのキンモクセイは、メインソングライター伊藤俊吾((Vo/Key/Gt)への依存度が高く、伊藤は過大なプレッシャーに悩まされ、それが活動休止の一因になったことは本人も公言している。しかし元々キンモクセイは全員が曲を、しかも素晴らしい曲を書けるグループだった。最近は張替智広(Dr)が作曲ユニット「HALIFANIE」として、YUKIなどに多くの楽曲を提供している。新しいキンモクセイはその稀有な個性を前面に打ち出し、全員が均等なバンドとして生まれ変わったといってもいい。

 アルバムは伊藤がバンド再始動にあたり、「キンモクセイらしい曲」を意識したという「セレモニー」で幕を開ける。ミドルテンポの心地よいリズム、流れるようにせつないメロディ、再出発の喜びをたたえた伸びやかな歌声。〈懐かしい歌に心を揺らしながら/昨日の続きをこれから始めようと〉--。何の飾りもない歌詞が胸の奥にすっと溶けてゆく。続いて白井雄介(Ba)が手がけた「TOKYO MAGIC JAPANESE MUSIC」は、70年代の細野晴臣へのオマージュが散りばめられていて、思わずニヤリとしてしまう。『はらいそ』(1978年)あたりが好きな人はぜひチェックしてほしい。そしてHALIFANIE名義の「渚のラプソディ」は、とことん明るくキャッチーなサマーポップ。マージービートでもあり、オールディーズでもあり、様々なポップスのエッセンスを散りばめた楽しい曲だ。

キンモクセイ 『セレモニー』MVショートver.

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