ジュース・ワールドが同世代に与え続けた希望ーー音楽を愛し、誰よりも速く駆け抜けた21年
2019年11月26日、1OAK Tokyoには多くの人が詰めかけ、メインアクトを少しでも近くから見るためにこれでもかとステージに押し寄せていた。平日のナイトイベントにも関わらず、ここまでの熱狂を作り上げた理由は1つしかない。スティングの「Shape of My Heart」をサンプリングした「Lucid Dreams」(2018年)が、米ビルボードのシングルチャート“Hot100”にて2位、2ndアルバム『Death Race for Love』(2019年)がアルバムチャート“Billboard200”で1位を獲得した、シカゴから彗星の如く現れたラッパー、ジュース・ワールドのためだ。亡くなるたった2週間前の出来事であった。
彼の人気に火をつけたきっかけは、ヒップホップ専門のキュレーションサイトである「Lyrical Lemonade」からドロップされた「All Girls Are The Same」のMVだ。これまでのヒップホップシーンは、女性をどれだけ多く抱けるかのような、ミソジニー的な楽曲が1つのステレオタイプのようなものになっていた。ジュース・ワールドは〈They're rotting my brain, love/These hoes are the same〉(女性は全て同じ、彼女たちが脳を腐らせていく)〉とラップ。深い悲しみから酒に溺れながらも、女性とのリアルな関係を模索している様子を切なく映し出した。耳に残るメロディラインと、今までにあまり見られなかった新たな視点は、世間からも高く評価され、最終的にHot100チャートで41位を記録する。増大したファンの間では、ジュースの他の楽曲を求め、過去の曲を掘り起こそうという動きが強まった。
そんな「All Girls Are The Same」を追うように続けてヒットしたのが「Lucid Dreams」である。“Lucid Dream”は、直訳すると明晰夢。簡単に言い換えると、自分の思い通りにコントロールできる夢のことである。夢の中で進行する甘い思い出と、現実の孤独を美しく表現し、同じ状況にいるものたちにスポットライトを当てるような楽曲であった。
自身初のスタジオアルバムである『Goodbye & Good Riddance』は、彼の人気を確固たるものにした。作り出すメロディラインはどれもキャッチーであり、幅広いファン層を獲得することに成功。チャートアクションも好調であった。ビリー・アイリッシュ&カリードの「lovely」のインストを採用した「intro」は、Netflixドラマ『13の理由』の挿入歌として使用されており、不安定な若者層の心を動かすような楽曲だ。さらに「Black & White」では黒人と白人の対比を軸に、ドラッグに苦しみながらも助けを求める、絶妙なバランスをリリックに落とし込んだ。