史上最年少でグラミー主要4部門ノミネートのビリー・アイリッシュ、1年間の急激な変化の中でもブレない芯
いまや世界でもっとも注目を集めるポップアイコンとなったビリー・アイリッシュ。先日、11月21日(日本時間)に発表された2020年の『第62回グラミー賞』ノミネーションでは、17歳にして主要4部門(最優秀レコード、最優秀アルバム、最優秀楽曲、最優秀新人の4賞)に名を連ねた。最年少での快挙だ。それ以外にも最優秀ポップソロパフォーマンスと最優秀ポップボーカルアルバムの2部門にノミネートされているうえ、ビリーと二人三脚で楽曲を手掛ける、プロデューサーで実兄のフィニアスも、年間製作者(非クラシック部門)含む5部門にノミネートされている。
その1週間ほど前には、デビューアルバムの『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』(以下、『WHEN WE ALL FALL ASLEEP~』)を経た新曲「everything i wanted」がリリースされたばかり。サウンド面でも歌詞の内容面でも、大きな成功を収めたひとりの人間が迎えた変化を反映している。本稿では、グラミーへのノミネートを踏まえ、改めて『WHEN WE ALL FALL ASLEEP~』のユニークさを簡単に振り返りつつ、新曲からビリーのいま、そしてこれからを考察していく。
『WHEN WE ALL FALL ASLEEP~』はポップスの「今」をある意味決定づけた作品だった。ソングライティングとしては多くの曲でバース、コーラス、ブリッジといったポップスのオーセンティックな構成を踏襲しながらも、アレンジ上の思い切ったミニマリズム、サブベースやデジタルなディストーションの活用によって、このうえなく新鮮に、現代的に響かせる。ASMR的な、デッドで耳の近く鳴っているかのようなボーカルやSEも、YouTuberに代表される現代の視聴覚文化をポップミュージックに接ぎ木しているという点で興味深い。
次ぐ待望の「everything i wanted」は、ピアノのシンプルなループが軸となった、静かな4つ打ちだ。『WHEN WE ALL FALL ASLEEP~』で聴けたようなアレンジ上のケレン味はかなり抑制されていて、各パートのさりげない抜き差しで楽曲を淡々と進めていく。歌詞の内容を反映するかのように、夢の中と微睡みのあいだをゆるやかに行き来するサウンドに仕上がっている。
こうした全体像の変化にも関わらず、ビリーの持ち味であるウィスパーがかった歌声と、その繊細なケア(エフェクトのかけ具合とか、ハモりの重ね方)に個性がにじみ出ているのが面白い。たとえば歌い出しから2ライン目、〈I got everything I wanted〉にさりげなくかけられた深めのリバーブであったり、要所要所で重ねられ、左右のチャンネルにぽつんぽつんと配置された歌声の断片であったり、細かく、しかし的確にボーカルが処理されている。また、2度目のプリコーラスの〈...you with me〉は喉を使わずにかすれた、ほとんど聴き取れないような歌い方になっているのも興味深い。こうした音量上の「弱さ」への志向が、歌声を埋もれさせるよりもビリーの声に、そして楽曲のつくりだす世界にリスナーを没入させるのだ。
もやがかかったようなサウンドとビリーの声に導かれ、リスナーは自ずとビリーの歌、あるいは言葉が紡ぐ情景へと足を踏み入れていく。スターとしての成功とともに訪れる深い孤独感と不安を夢(悪夢)に託して描き出すバースは生々しく、ゴールデンゲートブリッジ(一見すると抽象かとも思えるアートワークは、ゴールデンゲートブリッジを描いている)から身を投げるファーストバースも、溺れながら叫ぼうとするセカンドバースも、サウンドとは反対に息が詰まるよう。