KEN ISHIIに聞く、テクノアーティストとしての分岐点「ずっと好きだろうなって思えるものを作りたい」

KEN ISHIIに聞く、テクノアーティストとしての分岐点

「(耐久性のある曲は)ある程度普遍性のある音が入っている」

ーークラブトラックの賞味期限が短くなっているという話もありましたが、ある程度耐久性があるというか、5年、10年経っても聴けるものは意識しますか?

ISHII:そうなるといいなと思っています。DJトラックは悪く言うと使い捨てみたいになりつつあるので、そうはなってほしくないなっていう気持ちはすごくありますね。アルバムとして出すからこそある程度長く生きてくれると思うし、長く生きるのであれば、それに見合う曲を作りたいって思っています。

ーー耐久性のある曲とはどういう曲ですか?

ISHII:聴く人にとっても、自分にとっても、ある程度普遍性のある音が入っているというか。僕の場合、音色では好きなものと嫌いなものがあると思います。

ーーそれは今作を聴いてもよくわかります。

ISHII:これは5年経っても好きな音だろうなって……音色にもブームやトレンドっていうのがあって、みんな似たような音を使う場合があるんですけど、やっぱりそういうものは使いたくないし、自分がこれはずっと好きだろうなって思えるものを入れ込みたいです。

ーー新しい機材が出てくるとみんなが同じものを使うから、同じような音が氾濫することもありますね。

ISHII:それもありますね。僕も古いものばかり使っているわけじゃなくて、新しいものも使っているんですけど、その中で何が本当に好きか、あるいは自分っぽいかっていうのは選びますね。シンセの音とか、音源が1000入ってたら1000聴きますからね。その中で本当にこの音は自分に合うっていうものを選び込む。音楽を作る上でそれが一番自分の好きな、こだわりたいところでもあるので。やっぱり、自分にしかできない音の重ね具合や選択でありたいと思いますから。

ーー音色や音の重ね方で、自分の中にある程度定番的なものはあるんですか。

ISHII:なんとなくありますね。たぶんそれが自分の味になっているのかなと。

ーー人によってはそういうある種の手癖とか定番を全部排除していこうという考え方をする人もいますね。過去の自分の曲に似ていたら全部ボツにするとか。

ISHII:まあねぇ。そこはあんまり気にしない境地に大分前になっていますね(笑)。自分は今、エレクトロニックな音のいじり方は大体わかったんですよね。これからやりたいこと、ずっとアイデアはあるけどやっていないことはある。そこは自分の能力や経験が及んでいない部分なので、これからトライしたいことはあるんですけど。ただ、今回は自分が本当に作りたいものを作るという意味ではある程度自分ができるところでやっています。

ーーなるほど。

ISHII:ただ音の処理だとか、5年前、10年前にはなかった音の使い方はいっぱい入れています。この10年、15年くらいで聴く環境が変わって、クラブのPA機材もすごく良くなっているし、前は聴こえなかった音が聴こえるようになっている、その分ローエンドに関してはすごく時間かかっていたりするんですよ。ローエンドの部分を確認するためだけにスタジオに入って、全曲もう1回やり直したりとかするし。

 それとは別に、今イヤホンとかでストリーミングとか、コンピューターだけで聴く人も増えているから、そういう人たちの聴き方も考えなきゃいけない。どういうふうにすればどっちでも音が全部聴こえるのかとか、そういう部分が本当に難しくて。日々答えがない中でやっています。最近だったらYouTubeがラウドネスノーマライゼイションの基準を変えたって話があって。そのかけ方に癖があったりするので、YouTubeで一番よく聴こえるにはどういう音圧がいいのかとか。アルバムの最後の作業はずっとそればっかりやってましたね。

ーー今回マスタリングはまりん(砂原良徳)さんですが、そういう話をしたんですか。

ISHII:まりん君とはそういう話はしなかったけど、いわゆる音圧とかラウドネスの数字的にはこれくらいを目指してやってほしいとか、そういう話はしていました。たぶんこれが5年前だったら、なんとなく上げられるだけ上げてくれっていうのが、世の中的にあったのかもしれないですけど、今はまたちょっと押さえられていて。必ずしも音圧ガッツリとか、大きく聴こえるのがいいわけでもなくなってきている。この手の音で一番音質的によく聴こえて、なおかつ音が小さくてインパクトないねって言われない感じにしようっていう意識はあり、その希望は伝えました。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる