『Free Soul T.K.』インタビュー
橋本徹が語る、<T.K. Records>を聴き直す理由 Free Soulコンピが繋げる70年代と今
シリーズ累計セールス120万枚以上の大人気コンピレイション『フリー・ソウル』25周年を記念して、『フリー・ソウル』初となるリトル・ビーヴァー、ティミー・トーマス、ミルトン&ベティ・ライト、ジョージ&グウェン・マクレーなどの“マイアミ・サウンド”名門レーベル<T.K.Records>をグルーヴィー&メロウにコンパイルした『Free Soul T.K.』が、11月6日に2枚組で発売された。
8月には元号が変わるのを機に平成元年(1989年)から各年を象徴する名作が全31曲収録された『Heisei Free Soul』がリリースされ、当サイトではそのリリースを記念したインタビューを橋本徹氏に行った際「CDの時代とクラブミュージックの隆盛の始まり」について語ってもらっている。今回のインタビューでは、セレクト曲を辿りつつ「今こそT.K.を聴き直したい理由」を聞いた。聞き手は『シティ・ソウル ディスクガイド』『HIP HOP definitive 1974-2017』の著者、小渕晃氏。(編集部)
<T.K.Records>はFree Soulストライクど真ん中のマイアミ・サウンド
ーーまずは<T.K. Records>についての、橋本さんの思いと、総論といったものをお聞かせください。
橋本徹(以下、橋本):<Glades>や<Alston>といった代表的なものを始め多くのサブレーベルも含め、今回2,000曲以上の中からコンピ収録曲を選ぶことができたのですが、Free Soulの25年の歴史の中でDJのときのみならず繰り返し選曲してきたものばかりなので、マイクラシックを素直に選べばいいなという考え方でした。T.K.の曲はパブリックイメージ的にも、僕的にも、Free Soulのストライクど真ん中と言えるものです。DJパーティで、オデッセイの「Battened Ships」やアリス・クラークの「Never Did I Stop Loving You」なんかと並んで、5本の指に入るくらいかけ続けてきたリード・インクの「What Am I Gonna Do」を前半のハイライトにしています。
T.K.の本拠地であるマイアミはアメリカの南の端で、カリブ海へと通じていく場所です。それで、カリビアンだったりラテンのフィーリングが感じられる曲が多いというのも、僕にとって大きな魅力の一つですね。サザンソウルの一大拠点でもありますが、パーカッシヴで、リズムが横に揺れる曲が多いというのが、僕の好みや、Free Soulのイメージに合う曲が多い理由です。『Free Soul T.K.』は2枚組46曲で160分を超える大ボリュームですが、他にも入れたかった曲が数多くあります。
近年特に意識するようになったのは、T.K.に特徴的なリズムボックスが用いられた曲です。2010年代はリズムボックスやTR-808といった初期のドラムマシンが、いろいろな文脈の中で注目されることが多い。ティミー・トーマスの「Why Can't We Live Together」をサンプリングして大ヒットしたドレイクの「Hotline Bling」が代表的な例で、エリカ・バドゥによるアンサーソングも僕は好きですが、他にも<Numero>や<Chocolate Industries>がリズムボックスを用いたオブスキュアなソウルの発掘音源コンピを出したり、、坂本慎太郎さんが着目して、その周りでも人気を集めたり、ハウスミュージックの分野でもそうした音源が重宝されたり。リズムボックスを用いた曲というのは、僕のリスニングライフでも大きな一部分を占めるものですが、T.K.のティミー・トーマスやリトル・ビーヴァーの曲は、その元祖の一つなんです。大学時代、ソウルミュージックを好きになった最初の頃、カーティス・メイフィールドやマーヴィン・ゲイと並んで好きになったアーティストが、高校生の時シャーデーのカバーによって知ったティミー・トーマスと、リトル・ビーヴァーでした。彼の「Party Down」はその頃に日本盤7インチを手に入れた思い出のレコードでもあります。
その後、Free Soulを始める90年代前半には、DJパーティでベティ・ライトやジョージ・マクレーらのヒット曲も多くかけるようになりました。なので今回、いろいろな切り口で選曲し、振り返ることができるT.K.のコンピをつくる話をいただいて、本当に「いい機会をいただいた」という思いが強いですね。だから、選曲しながら予想以上に自分で盛り上がることができました。90年代にコンピをつくっていた時の気持ちが蘇ったりもして、あの頃のように全曲の一言コメントを寄せたり、ライナーの代わりに対談をしたりもしています。大好きなT.K.なのにレーベルコンピは今までつくっていなかったので、よくぞこのタイミングで、という感じで。90年代には持っていなかったり、知らなかったような7インチオンリーのレア曲もたくさん入れることができて、ベーシックな曲とレアな曲のバランスも完璧なコンパイルをできたのも嬉しいですね。
ラテンやカリブの影響を受けたキャッチーなソングライトのフロアキラーの宝庫
ーー橋本さんはクラブパーティのDJもやる方なので、T.K.の作品はラテンの影響が強く、リズムが特徴的なことは特に重要なポイントですよね。
橋本:ビギニング・オブ・ジ・エンドの「Funky Nassau」に象徴的なように、“フロアキラー”と呼ばれる曲がT.K.にはいくつもあります。7インチオンリーで高額だったジェリー・ワシントンの「Don't Waste My Time」なんかは、誰も知らなかったのに近年急速にクローズアップされた南国系のフロアキラーですね。
一方で、僕は1999年にカフェ・アプレミディを開いて、それ以降はカフェのような空間で聴いて心地いい、くつろげるといったシチュエーション別の選曲もさまざまな媒体を通して行わせてもらっています。そこでは、T.K.にはAORやブルーアイドソウル的な感覚を持ったアーティストも多いので、彼らの曲を選んだりもします。Free Soulならではのメロウ&グルーヴィーな感性で発掘したサーティーンス・フロアの「Sweet Thang」、ブランディの「How Long」、ファクツ・オブ・ライフの「What Would Your Mama Say」といったカバーものや、チョコレートクレイの「Free (I'll Always Be)」などですね。
ーー<T.K. Records>お抱えのソングライターやセッションミュージシャンが人種混成で、クロスオーバーが当たり前だったことも重要ですね。橋本:いわゆるディープなサザンソウルとは一線を画する音楽性ですね。ソウルミュージックは、街ごとに異なるサウンドカラーを感じられるのも魅力です。シカゴにはシカゴの、フィリーにはフィリーの、メンフィスにはメンフィスのサウンドがあって。そういう意味でT.K.は、マイアミらしいサウンドを代表するレーベルですね。
ーー加えてT.K.作品の特徴として、キャッチーなリフが挙げられます。ほとんどの曲が、イントロはギターないしはホーンによる、耳に残るリフで始まりますね。
橋本:キャッチーなソングライトも、ラテンやカリブの影響を受けたリズムと並んで、T.K.作品の大きな柱です。リフを中心に据えたループビートが主体なので、例えばKC & ザ・サンシャイン・バンドの「Ain't Nothin' Wrong」は、ディガブル・プラネッツの「Where I'm From」でサンプリングされたりと、ヒップホップやR&Bのネタになっている曲もとても多いですね。「That's The Way」でなくこの曲が入ってるというのがFree Soulコンピらしさの象徴なんですが。
ーー今の音楽シーンとの繋がりということでは、先ほどもお話にあったリズムボックスの多用も、T.K.が特に2010年代に聴き直したいレーベルである理由の一つですね。
橋本:リズムボックスはヒップホップやインディソウルだけでなく、ここ数年ハウスやアフリカンミュージックでも多く取り入れられていて、よく聴きます。僕は古くはスライ・ストーンに始まって、プリンスの『Sign“O”The Times』が大学生の時に大好きだったり、リズムボックスのサウンドは常に好きですが、2010年代はこれまで以上にああいう質感のサウンドを聴く機会が多いですね。ジ・インターネットの「Don't Cha」と、プリンスの「Breakfast Can Wait」は同じ2013年に発表されたんですけど、「この2曲、すごく相性いいな」って盛り上がりました。
アンビエントR&Bやチルウェイヴといったものでも、スカスカなサウンドの曲が今はすごく多い。こういったサウンドが気持ちいい時代であり世代になっているというのを、強烈に意識したのが2010年代です。その感覚と『Free Soul T.K.』の選曲は自然と繋がっていますね。ディスク1はリトル・ビーヴァーの「Party Down」で、ディスク2はティミー・トーマスの「Whay Can't We Live Together」でと、リズムボックスがシグネイチャーになっている曲で終わらせているのも、意図的なものです。