『アナと雪の女王』主題歌、日本でなぜ大ヒットした? “ありのまま”でいられない文化圏だからこそ響いたメッセージ
11月22日、ついに『アナと雪の女王2』が日米同時公開された。2013年11月にアメリカで公開されるや否や、全世界で“アナ雪ブーム”を巻き起こした前作。第86回アカデミー賞では、長編アニメ映画賞と歌曲賞 (「Let It Go」)を同時受賞した。日本は4カ月遅れでの公開となったが、公開前から英語版でエルサの声優をつとめたイディナ・メンゼルが歌う主題歌が予告編で流れ、世間から注目を浴びることに。公開後にはどんどん動員数を増やし、日本歴代興行収入ランキングでは『千と千尋の神隠し』(2001年)、『タイタニック』(1997年)に続く第3位。興行収入も255億円(11月17日時点)を記録している(参照)。
日本でこれだけ『アナと雪の女王』が大ヒットした理由は、やはり主題歌「Let It Go」の存在なしには語れない。実際に、日本では「ありのままで」という副題がついた日本語版の主題歌(「レット・イット・ゴー ~ありのままで~」)が社会現象を巻き起こし、2014年のオリコン年間アルバムランキングでは、May J.が歌う同曲が収録されたアルバム『アナと雪の女王 オリジナル・サウンドトラック』が第3位となった(参照)。本稿では、映画公開に先立ち、日本語詞「レット・イット・ゴー 〜ありのままで〜」がなぜ多くの人に愛されたのかを改めて探っていきたい。
海外からも評判の「レット・イット・ゴー 〜ありのままで〜」の日本語詞を書いたのは、『アナと雪の女王』の全曲で翻訳を担当している高橋知伽江だ。彼女の書いた歌詞は英語詞の「Let It Go」と比較すると、かなり超訳されていることがわかる。
例えば、英語詞の〈Don’t let them in/don’t let them see/Be the good girl you always have to be/Conceal, don’t feel/don’t let them know/Well, now they know〉に該当する、〈とまどい 傷つき/誰にも 打ち明けずに 悩んでた/それももう やめよう〉という1番Bメロに注目してみよう。英語詞をなるべくそのまま訳すと、〈「彼らを入れてはいけない 彼らに見られてはいけない/いつも私は良い子でいなくちゃいけない/隠れて 何も感じず 彼らに知られてはいけない/だけど、今彼らに知られてしまった」〉となり、エルサの心の奥底に渦巻く暗さが浮き彫りになる。そこには日本語詞の〈それももう やめよう〉というフレーズのようにエルサの自発的な意志は感じられない。
実際に「Let It Go」が劇中で流れるのは、幼少期に自分が持つ雪や氷を作る力で妹のアナを傷つけてしまったトラウマを持つエルサが、長年孤独に暮らした挙句に成人を祝う戴冠式で自身の力が周囲にバレてしまい、王国を逃げ出した後の場面。確かにストーリー展開を考えると、日本語詞は少々前向きすぎる印象も受けなくはない。
しかしある意味で、日本語詞はエルサが心に持つ自分の理想像を描いているのではないか。誰かを傷つけないために気持ちを抑え込むのではなく〈どこまでやれるか 自分を試したいの〉と自由に、そしてたとえ誰かに拒絶されようとも〈これでいいの 自分を好きになって/これでいいの 自分信じて〉と強く生きられる自分になりたいという願望がそこにはあるように思える。