ピチカート・ファイヴ、鬱屈した時代にこそ改めて評価されるべき名曲 「スウィート・ソウル・レヴュー」が映し出す90年代の風景

ピチカート・ファイヴ、鬱屈した時代にこそ改めて評価されるべき名曲 「スウィート・ソウル・レヴュー」が映し出す90年代の風景

 今となってはもはや伝説ともいえるピチカート・ファイヴ。渋谷系を代表するアーティストであり、ダンサブルでファッショナブルなポップとして日本のみならず世界中で熱狂的なファンがいることでも知られている。1985年にデビューし2001年に解散するまで、メンバーも編成も大きく変化したグループなので、彼らの代表曲を挙げるのはなかなか難しい。ただ、数ある名曲のなかでも、「スウィート・ソウル・レヴュー」は筆頭といってもいいだろう。

PIZZICATO FIVE / スウィート・ソウル・レヴュー

 この曲を代表曲に挙げる理由としては、それまで音楽シーンではマニアックな位置付けだった彼らが、初めてお茶の間ヒットを狙いにいったということ。ピチカート・ファイヴは様々な変遷を経て、1990年に野宮真貴が三代目ボーカリストとなった。そして、小西康陽、高浪慶太郎との3人体制でCBSソニーから日本コロムビアに移籍している。移籍当初はオリジナルアルバムのほか、ミニアルバムやドラマのサントラなどを精力的にリリースしていたが、1993年4月7日に満を持して移籍後初のシングルとして発表したのが「スウィート・ソウル・レヴュー」だった。

 この曲が発表された当時の1993年は、バブル景気を微妙に引きずっていた頃だ。まだジュリアナ東京がナイトシーンの中心だったし、CDシングルもテレビドラマの主題歌やCMソングとして多数消費され、何曲ものミリオンヒットが生まれた音楽バブル期でもある。その真っ只中で渋谷系アーティストも巻き込まれ、ピチカート・ファイヴにもカネボウ化粧品のCMタイアップの話が舞い込んだ。そして、クライアントとの打ち合わせに行った小西康陽は、“レヴュー”と“頬ずり”という言葉を歌詞に入れ込んでほしいと依頼されたことを受け、自然と「スウィート・ソウル・レヴュー」が形作られていったのだという。

 「スウィート・ソウル・レヴュー」は、誰が聴いても屈託のないハッピーなナンバーだと感じるだろう。60年代のダイアナ・ロス&シュープリームスに代表されるモータウンサウンドにインスパイアされたグルーヴィーなビートに乗せて、ホーンが高らかに鳴り、ソウルフルなコーラスが華を添える。その上で、野宮真貴のストレートな歌声が聞こえてくる。どこを切り取っても古くならない良質なポップスに仕上がっているし、今の時代に初めて聴いたとしても、溌剌とした雰囲気は新鮮に感じられるだろう。歌詞に〈ベイビー 街はいつもパレード〉や〈世の中にはハッピーやラッキーがいっぱいあるよね〉とあるように、どこか躁状態だった90年代初頭の日本を描いたようにも見える。

 だから、一聴するととても陽気な楽曲に聴こえるかもしれない。でも、歌詞を深く読み込むと、実はそれだけでないと気付かされてしまう。それは、ラスト近くに〈神様 パレードに雨なんて降らせないで〉や〈世の中にハッピーもラッキーも全然なくても〉という少しネガティブなキーワードをこっそり埋め込んであること。このあたりは小西ならではのテクニックだが、楽曲そのものはひたすら明るくアッパーな気分のまま終わり、絶対に陰の部分を感じさせない。ピチカート・ファイヴの楽曲、もしくは小西の楽曲には都会の孤独や焦燥、虚無感などが浮き彫りになっているものが多い。しかし、「スウィート・ソウル・レヴュー」はCMタイアップということもあり、きっとそのテイストは封印したのだろう。それでもこうやってにじみ出てしまうのが、ピチカート・ファイヴの強みであり、弱点だったのかもしれない。

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