君島大空、諭吉佳作/men、長谷川白紙…崎山蒼志『並む踊り』優れた“個”が集まる場としての面白さ

 それと比べると、共作第2弾「むげん・」(10月4日配信開始)のトラックメイキングを担当した諭吉佳作/menは大きく異なる音楽性を持っている。Appleのシーケンスソフト・GarageBandで編曲を始め、今年の3月にMacBookを手に入れるまではほとんどの作業をiPhoneでこなしていたという諭吉の作品は、そうした遍歴から想像されるだろうシンプルなものとは一線を画する高度で奥深い構造を備えており、優れたボーカル表現とあわせすでに唯一無二の音楽性を確立している。諭吉佳作/menの初発表作「非常口」(2018年3月22日リリース)のイントロは8分音符カウントだと9+10+13=32=8×4拍で、捻ったアクセント付けをしつつ4拍子の枠内でストレートにノレるようになっているし、「純生活」(2018年8月17日リリース)では5+5+5+4拍のイントロで始まった後に5拍子や3拍子に滑らかに連結するなど、変則的な展開を違和感なくつなぎ快適に聴かせてしまう構成力が光っている。こうしたリズムアレンジだけでなくフレーズやコードの扱いも優れていて、テイラー・マクファーリンあたりに通じる響きなど、エモ~電子音楽~現代ジャズ的な和声感覚を自身の美意識に強引に引き付けて感覚的に再構築している印象がある。このような作編曲能力は崎山との「むげん・」でも十二分に活かされており、二人で出し合ったイメージを諭吉がGarageBandでまとめ上げたトラックに崎山がギターを重ねて作ったというアレンジ、両者がほぼ均等に歌いあうボーカルパートなど、楽曲の全編において両者の持ち味が素敵な配合をみせている。

崎山蒼志「むげん・ (with 諭吉佳作/men)」(MV)

 その諭吉佳作/menと比べると、共作第3弾「感丘」を担当する長谷川白紙は打ち込み+生歌というスタイルの面では似ているものの、作編曲の構造はかなり異なっている。月刊『ラティーナ』2019年2月号掲載のインタビューで「私の音楽にはジャズ、ブレイクコア、現代音楽などの色々な要素が混在していて、声がないと訳のわからない作品になる。自分の声が全編通して歌として存在することで、全体の接着剤として機能していると思うんです」「『它会消失』が転調の多い曲である一方、『キュー』はBフラットのルートからほとんど離れないシンプルな曲なので、調的な隔たりもあるんです。『妾薄命』のアウトロで、7回くらいBフラットの音を入れています。そうすることでやっと『キュー』の調環境に入ることができる」などと述べているように、長谷川の音楽では楽理的バックグラウンドに基づいた強固な論理性が感覚的な閃きと並び立っており、先立つ直感を強引かつ高精度に整理しつなぎとめているような諭吉の音楽とは行く先は似ていても理性の機能の仕方が異なる印象がある(諭吉がでんぱ組.incに提供した「形而上学的、魔法」は長谷川の楽曲に似ている部分が多いが、だからこそ両者の違いも際立っているようにみえる)。先掲インタビューで大きな影響源として挙げられているアントニオ・ロウレイロはそうした傾向をよく示すアーティストで、現代ジャズとブラジル音楽を接続するような和声感覚は「フュー・スタディP」「它会消失」など多くの曲に反映されているし、J-POPや歌謡曲の系譜からはある程度距離を置いているようなメロディセンスもこうしたところから来ているのではないかと考えられる。また、以上のような高度な作編曲能力に負けず劣らず素晴らしいのがボーカルで、独特のテンションの低さと牙の鋭さを両立する豊かな響きは先述のような複雑な和声感覚と根っこのところで繋がっている感じがある。パソコン音楽クラブの2ndアルバム『Night Flow』(2019年9月4日発表)の最後を飾る「hikari(feat. Hakushi Hasegawa)」ではその魅力が見事に活かされており、“表情筋が固い抒情”とでも言うべき深い情感はこの声でなければ表現できなかっただろうと思われる。

 崎山との共作曲「感丘」でも以上のような持ち味は十全に発揮されている。7連符メインの展開に複雑に切れ込むリズム構成と解決感の薄いコード進行は長谷川の既存曲に連なりつつさらに攻めているように感じるし、そうした音楽性や雰囲気は崎山のボーカルに非常によく合っている。調性感が薄いこともあって歌メロを覚えるのは容易でなかったと思われるが、崎山がライブで唱歌「朧月夜」のブラジル・ミナス音楽風カバーをしていることなどを考えれば両者の音楽的相性はもともとよく、全体的な完成度は文句なしに素晴らしい。崎山の朴訥とした落ち着きが長谷川のひりひりした沈静感と絶妙に融けあうこの感じ、個人的にはこれで一枚作ってほしいくらい好ましく思える。ぜひまた共演してほしいものである。

崎山蒼志「感丘 (with 長谷川白紙)」(MV)

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