The Vocodersは“ハヤシ・ルーツ・アザーサイド” POLYSICSと別でこそできる表現を語る

ハヤシ&フミが語るThe Vocodersでこそできる表現

 10月9日、POLYSICSのニューアルバム『In The Sync』と、The Vocodersの1stアルバム『1st V』がリリースされた。2月3日にホームページ上で2019年はPOLYSICS(以下、ポリ)とThe Vocodersの2つのバンドとして活動していくことがアナウンスされ、それぞれのバンドで4月からの半年間に5作の配信シングルをリリース。本稿では、The Vocodersのハヤシ、フミの2名にインタビューし、ヴォコーダーで表現することの可能性や、POLYSICSのアコースティックバンドという位置付けではなく、あえて別名義のThe Vocodersとして表現したいことは何かを聞いた。(編集部)

「こんなメロディの曲作ってたんだ」って自分で再発見する感じ(ハヤシ)

一一The Vocodersは、「世界唯一のカフェテクノグループ」ということで。

フミ:はい、世界唯一です。

一一まあ当然いないだろ、って感じもしますけど。

フミ&ハヤシ:あはははははははは!

一一このバンドの成り立ちから教えてもらえますか。

ハヤシ:はい。2018年の10月13日、「トイスの日」って勝手に制定したんだけど、その日に下北沢をサーキットするイベント『TOISU IN JAPAN FASTIVAL in下北』をやって。ポリだけでいっぱいライブハウスを回る地獄のサーキットで、基本はライブハウスなんだけど、一箇所だけカフェでやることになって。じゃあどういう形でやろうかっていうときに生まれたのがこのアイデアだった。

フミ:いつものセッティングではできないし、基本は着席スタイルだから。

一一普通に考えれば、アンプラグド、アコースティックセットの弾き語りになるところだけど、そこには行かなかった。

ハヤシ:や……どう考えても良くないでしょう。

フミ:私がウッドベース弾いて、どうよ? ヤノがカホン叩いてどうよ? みたいなさぁ。

ハヤシ:曲も何やるのよ? 「カジャカジャグー」なんかアコースティックでやっても全然良くないでしょ。

一一はははは。ごもっとも!

ハヤシ:そこで「どうしようねぇ」って考えて、「じゃあヴォコーダーで全部やるのはどうだろう」って。

フミ:足元にモニターがないから、そもそもけっこう歌がキツいわけで。そこから「あ、ヴォコーダーだったらピッチは狂わないね」みたいな。あと、単にハヤシと私が歌うだけじゃつまんないから、コーラスグループみたいに4人で歌うのはどうだろうって。

一一何かお手本はあったんですか。

ハヤシ:お手本……なかったよね?

フミ:やっぱりイメージしたのはKraftwerkだったりしたけど、でもKraftwerkも別に全員で歌ってるわけでもないし。

ハヤシ:そうだね。だから、まずやってみようかってことになって、自分のスタジオで、なんとなく「The Vocodersはこんな感じ?」っていうサウンドを作ってみたんだよね。

The Vocoders 『Dancing Queen』

一一最初にやった曲は?

ハヤシ:「Smile to Me」だった。なぜか「Smile to Me」。今思えばもうちょっと違う曲でも良かった気はするんだけど(笑)。

一一あと、最初のライブでは「Buggie Technica」から始まってましたよね。あれめちゃくちゃシュールだった。

ハヤシ:そうそう。「Buggie~」をなんとかThe Vocodersでできないか、って。あれほんと大変だった。

フミ:そもそもThe Vocodersはコーラスグループだって言ってるのに、「Buggie~」には歌がないから(笑)。でも「Buggie~」、あれ以来やってないよね(笑)。もうなんか出オチ感もあって。

ハヤシ:2回目やると面白さも薄まっちゃう。

一一それはつまり、遊びとかオチみたいなものは求めてないし、より本気になっていった、ってことですよね。

ハヤシ:そう。自分たちでも楽しくなってきて。最初のライブでやった後、さらにリアレンジの音色とかも全部変えたもんね。アレンジも1から練り直したし。ただBPMを下げるとリミックス風になっちゃって面白くない。もっと何かあるはずだと思って。

フミ:そこからは、メロディだけ流用して、あとは新曲を作っていったといっても過言ではない感じ。

一一The Vocodersに、どんな可能性を見出したんでしょうか。

ハヤシ:ポリとはまた違う魅力だと思う。自分のルーツ、ポリとはまた違うテクノポップとかシンセポップをやれるのは楽しそうだなっていう。

フミ:うん。ポリでもメロをしっかり考えた曲はあるけど、そこのみがフィーチャーされることってそんなになくて。でもThe Vocodersでやってみたら「意外といいメロだったね」ってわかる。最初はポリのいいところを違う角度から見せてみよう、って感じだったんだけど、どんどん「あぁ、メロがいい、ちょっと気持ちいい」みたいになっていったかな、私は。

一一確かに、ポリを見て「いいメロだなぁ」ってしみじみすること、今までなかったです。だいたい「いつも元気だなぁ!」が先になる(笑)。

ハヤシ:そりゃそうだよね(笑)。

フミ:違うところに目と耳がいっちゃうから。でもThe Vocodersはメロを変えたわけでも全然ないのに、楽器変えただけでなんか歌が引き立つなぁって。それは自分でも実感したね。

一一そこはハヤシくん、「いや、もともといいメロ作ってたよ」って言いたいのでは?

ハヤシ:いやいやいや(笑)。そういう感じもなくて、自分でも「あ、この曲ってこんないいメロディなんだ」って思う。わりと時間経ってる曲が多いし、「俺こんなメロディの曲作ってたんだ」って自分で再発見する感じ。

一一歌やハーモニーに集中してみると、逆に苦労もありませんか。

ハヤシ:俺とフミは慣れてるけど、ほかの2人は大変かもね。ヤノとナカムラはヴォコーダー自体が初めてだから。そこに慣れるのが大変。最初の頃は全然できなくて。レコーディングもめちゃくちゃ時間かかった。

一一無知で申し訳ないけど、ヴォコーダーって、ただ歌うのと違うんですか。

フミ:いわゆる世間でいうヴォコーダーだったらそんなことないんだけど。ウチらが使ってる機械はもうちょっとエフェクターに近いもので。上手くタイミングを合わせないとロボットボイスが出ない。普通に歌うよりちょっと前から歌い出したり、メロディの通りに歌っても拾わなかったりとか。

一一あぁ、そういう感じなんだ。

フミ:まっすぐ「あー」って発音しないと、綺麗には聴こえない。だから「ちゃんと歌ってるのに!?」みたいな戸惑いはあったかも。ちゃんとオンタイムで歌ってるとダメなの。

ハヤシ:だからレコーディングではけっこういろんな裏技を使ったよね。ヤノはクリックに対してスクエアに合わせて叩くのが普通なんだけど、The Vocodersはクリックに正確に歌うと遅れちゃうから。だからクリックをちょっと前倒しにしてレコーディングしたり。いろんな試行錯誤があった。

一一へぇ……それが「大変でした、苦労して作りました」っていうものに聴こえないのがとてもいいですね(笑)。

フミ:ツルッとやってそうだもんね(笑)。むしろ「いいね、ラクで」みたいな感じがいいなと。

ハヤシ:でも楽しいもんね。リアレンジするのも楽しいし、ライブも楽しいし。そこはポリと同じ感覚でやれてる。

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