『結成20周年記念TOUR "That's Fantastic!" ~Hello! We are New POLYSICS!!!!~』
POLYSICSは本質を変えずに進化し続ける 小野島大が見た『結成20周年記念TOUR』最終公演
POLYSICSの『結成20周年記念TOUR "That's Fantastic!" ~Hello! We are New POLYSICS!!!!~』の最終公演を見てきた。ツアーのタイトルも長いが、1月から始まったツアー期間の足かけ3カ月22カ所に及んだ長さも相当なものだ。ニューアルバム『That's Fantastic!』が、ポリ第2のデビューアルバムと言いたいぐらいのエポックメイキングな傑作だったので、期待は大きい。新メンバー、ナカムラリョウを加えての初の長期ツアーでもある。会場の東京・恵比寿LIQUIDROOMはもちろん超満員の盛況だった。
オープニングナンバーが、新作のタイトル曲であり、ポリの変化を象徴するような楽曲「That's Fantastic!」だったのは事前になんとなく予想がついていたが、いきなりハヤシヒロユキがギターを持たずハンドマイク1本だけ握ってステージに飛び出してきたのは目新しい。ギターパートをナカムラに任せることができたので、ハヤシの動きが自由になったのだ。
跳ねるようなラテンファンク調のリズムは、それまでのポリでは考えにくかった。しかし22本の過酷なライブサーキットを経て、バンドアンサンブルは完璧だ。もともと骨太でファンキーなベースを弾くフミはもちろん、どちらかといえばマシーンのように正確にビートを刻むことが得意なヤノも、すっかりこの新しいポリのリズムに馴染んで、凄まじいグルーヴを叩き出している。ナカムラの加入によって音楽性の幅が広がったことは確かだが、ハヤシ/POLYSICS自身がそうした変化を求めていて、その手助けとなる人材としてナカムラを選んだという方が正解だろう。ポリのバンドとしての寿命はナカムラの加入で軽く10年は伸びたと僕は思っている。
5曲目の「Sea Foo」まで5曲連続で新作の曲を、アルバムの曲順通りにプレイ、新作での変化を予兆した昨年リリースのリメイクベスト盤からの「Tune Up!」を挟んで、また新作から「Pretty UMA」を演奏。新生ポリの最新モードをたっぷりと観客に叩き込もうという趣向だ。とりわけ度肝を抜いたのが3曲目の「Cock-A-Doodle-Doo」。聴いているだけでもぞもぞと落ち着かなくなるぐらいの変則的なリズムの連続、ややこしい曲構成、ぶっ飛んだ歌詞と、新作の中でももっとも過激で奇矯でヘンタイな曲をこともなげに一糸乱れず凄まじいスピードでプレイするバンドの演奏力は、十分わかってはいたが、こうして目の当たりにすると驚異以外の何ものでもない。しかもポリらしいアッケラカンとした愛嬌やユーモアやキャッチーさを決して失わないで、だ。超絶技巧自慢のシリアス一辺倒のプログレバンドやポストロック〜マスロック系バンドは掃いて捨てるほどいるだろうが、ポリみたいな、ある種のガキっぽさやチープでカジュアルなセンスを併せ持ったバンドは世界中探してもいないだろう。3人時代でさえ凄かったポリの鉄壁のアンサンブルは、ナカムラの加入で爆発的にバリエーションを増した。ナカムラはギター、シンセ、サンプラー、コーラスと八面六臂の大活躍だ。新加入なのに、すでにポリのサウンドはナカムラ抜きには考えられなくなっている。
ライブはその後も、ハードでスピーディーでソリッドでタイトでテクニカルな楽曲がほとんど間髪を入れずに演奏され、息つく暇もない。ライブの定番曲ももちろんプレイされるが、あまりライブでは聴いたことのない曲も多い。どちらかといえば客受けのするポップな曲というより、4人で演奏することで最大限の威力を発揮するような曲が選ばれているように思われた。そのあまりにハードで押しの強い楽曲の流れに、ずっと沸騰しっぱなしだった観客も少し疲れたのか、中盤ではフロアが少し大人しくなったようにも見えた。並みのバンドなら、そこでゆったりしたテンポの曲やレイドバックしたバラードをやって、クライマックスの盛り上がりの前の「ダレ場」を作るところだが、あいにくポリにそんな曲は存在しないのだった。
「SUN ELECTRIC」「MAD MAC」と古いテクノファンならニヤリとするタイトルの曲をはさみ、彼らのテーマソングとも言うべき「シーラカンス イズ アンドロイド」、そして「Hot Stuff」に始まるインディーズ時代の名曲が立て続けにぶちかまされ、再びフロアは白熱する。このへんの流れはポリのライブでは定番と言えるものだが、しかしこうして爆音で体験すると、ステージからパンを投げるパフォーマンスをしていた20年近く前のインディーズ時代と、成長した今の彼らは、本質的に何も変わっていないと痛感させられる。
「カジャカジャグー」でコンサートは終了。終わってみればPOLYSICS以外の何ものでもないライブだったが、バンドのイメージも本質も何も変えないで、ここまで不断に進化し続けるバンドも珍しい。もしかして彼らの外見やガキっぽいイメージにまだ偏見や先入観を持ってる人がいるのなら、悪いことは言わないから一度ライブを体験することをお勧めします。
(写真=緒車寿一)
■小野島大
音楽評論家。 『ミュージック・マガジン』『ロッキング・オン』『ロッキング・オン・ジャパン』『MUSICA』『ナタリー』『週刊SPA』『CDジャーナル』などに執筆。Real Soundにて新譜キュレーション記事を連載中。facebook/Twitter