清 竜人が語る『REIWA』を経た次の表現への意欲「モチベーションもエネルギーもある」

清 竜人が語る次の表現への意欲

 ニューアルバム『REIWA』は過去になかったほど歌に重きを置いた作品である。往年の歌謡曲に通じるその世界とメロディを躍動させるのは、ミッキー吉野、瀬尾一三、井上鑑、原田真二、星勝といった実績あるアレンジャー陣。そしてそこで清 竜人が活写する人情劇は、じつに人間くささにあふれているとともに、清 竜人というアーティストが表現しようとする人間そのものへの視線が反映されている気がする。ここでは主にそうした楽曲群からうかがえる指向性と、彼自身の人間的な側面について聞いた。

 なお、インタビューは5月下旬、清の誕生日の27日の前の週に行った。この席で彼は昨年来のトレードマークである口ヒゲを剃っていた。そしてそのことが次の活動の布石でもあったことは、この時は知る由もなかった。(青木優)

いくつもの時代をつないでいく 

ーーこれは聴き応えのある作品ですね。

清 竜人(以下、清):ほんとですか? 良かったです。

ーー今回のアルバムの着想はいつぐらいからあったんですか?

清:いつ頃かなぁ……たぶん(清 竜人)25があって、そのあとに(清 竜人)TOWNというパンクバンドのプロジェクトをやっていたぐらいですね。25は2014年に始まって、そこから約3年間続けたんですけど、3年間同じ企画で活動するのも初めてだったので、そういった意味で「次はどっかのタイミングでソロのアルバムを作りたいな」と思い始めていて。それから少しずつ考えはじめた感じですかね。

ーーということは2年前からですか。そこからソロに至るには、どんなアイデアがあったんですか?

清:音楽シーンを見渡して「今このタイミングでやるからこそ面白いこと」とか「出す意義のある作品」を考えた時に、ハンドマイクでシンガーが歌に専念するような、往年の歌謡曲スタイルのものを思いついたんです。そういう音楽は最近少ないし、普遍的なJ-POPみたいなものも減ってきてるイメージがあったので、次はしっかりとした歌もので、メロディと歌詞にもこだわって、日本人の心や耳になじみやすい楽曲を作れたらいいなと思いました。

ーーつまりこれは、ちょっと客観的な視点から始まったテーマなんですか?  僕は、竜人くん自身が「こういう歌を歌いたい」とか「こういうメロディでステージをやりたい」というイメージがあったのかな? と思ったんですけど。

清:もちろんそれもありますけど、あんまり……まあヘンな言い方をすると、今までもべつに自分の好きな音楽を自分がやってきたわけでもない、というところはあって。

ーー(笑)。そこまで言いますか。

清:いや、もちろん好きですけど、自分の好み、自分の趣味に合わせてスタイルを作ってきたわけじゃなくて。そこはプロとして割り切ってますね。あとは「アーティストとして何をやるのが面白いのか」「このアプローチだったら、こういう音楽性やパフォーマンスがいいんじゃないか」と、対外的なイメージとか俯瞰的なプロデュースによって活動スタイルや音楽性を決めてきた側面もあるので。「自分が今これを歌いたいからこういうのをやる」という発想で音楽をやってきた自負は、あまりないですね。だから「何かに憧憬して」とか「憧れて」みたいな姿勢はないです。

ーーわかりました。じゃあ平成から変わる新しい元号をアルバムのタイトルに盛り込むのは、そのあとの話なんですか?

清:そうですね。作品のなんとなくのコンセプトが浮かんでる中で、元号が変わるというアナウンスが社会的にあったことに少し縁を感じて。ただ、あまり無理くり結びつけたつもりはなくて……そもそも僕が今回やろうと思っていた作品性のコンセプトと社会的な時代の移り変わりがちょうど合致した感覚があって。じゃあその世の中の流れもうまく落とし込んだら、時代性を置いているものにできるし。「いくつもの時代をつないでいく」という普遍的なメッセージを込めた作品にもしたい気持ちはありましたね。

ーーアルバムの中では、どの楽曲からできてきました?

清:「平成の男」はほんとに1曲目か、もしくは2曲目ぐらいに作った楽曲ですね。アルバムの1曲目になってますけど、キングレコードに移籍して第1弾の楽曲でもあるんです。これは次の自分がやろうと思っている活動スタイルを示すにはすごくわかりやすい楽曲だから第1弾にしたのもあるし、そういうものを作ろうと思って制作に取りかかった楽曲ではあるので。アルバムには何曲か、過去に「そういえばこんなメロディ思い浮かんでたな」というやつをリアレンジして作った楽曲もあるんですけど。

ーーそれはどれですか?

清:んーと、「青春は美しい」と「涙雨サヨ・ナラ」かな。ちょっと断片的なものが脳内にあったりして。

ーーで、そうした中で普遍性だとか、かつての歌謡曲のような音楽性が明確になっていったということですか。

清:そうですね。もともと思い描いてた音楽性は、サウンドのジャンルはともかく、メロディとしてJ-POPに、歌謡曲になっているものを目指したいというところから始まっていて。そういった意味で、日本の歌謡曲が全盛期を迎えていた時代……昭和の後期から平成の前期ぐらいの時代から活躍をされている、そして今なお第一線でも活動されてるような大御所、ベテランの方々とコラボレーションをしようと。平成元年に生まれて、平成とともに育ってきた現在進行形のアーティストである僕との間に何か新しい化学反応が起きて、それが次の時代でも普遍的な音楽になっていたら、それはとても意味のあることなんじゃないかな……というところが今回の狙いですね。

ーー竜人くん自身は、昭和の音楽や文化は後追いで触れたわけですよね。

清:そうですね。ただ、後追いではあるけれども、それこそインターネットを通じて知るような昔の楽曲には、古くさいなと思うものもあるけど、20年前……ヘタしたら60年代、70年代の楽曲であっても、今どの世代が聴いても素晴らしいなと思えるものが確実にあって。僕は昭和の時代の歌謡曲みたいなものに、日本の歌謡曲の普遍性のヒントが隠されてると、すごく確信してます。戦後から平成のアタマにかけての音楽のいいところを踏襲して、今、2019年現在、アーティストとして活動してる僕の今の感性の歌詞とメロディと、うまく融合させることによって、また新しい普遍的なJ-POPみたいなものが作れたら理想だな……と思いました。

ーーでは質問の角度を変えますね。その昔の歌謡曲や昭和時代の文化にはあったけど、現在はなくなってしまったもの、「今もっとこういうものがあったらいいのにな」と思うようなものって、何かありますか?

清:……音楽番組かな。音楽番組が少なくなりましたよね。昔は、とくに戦後は、大衆文化の中心に音楽があった時代もあって。もちろんリアルタイムで経験してるわけではないですが、美空ひばりさんだったり、日本の歌手だったりミュージシャンがエンターテインメントの中心にいた時代がたしかにあったように思うんです。それが今は全然、勢力図が変わっていて、娯楽の中心に音楽がないというか、どちらかというと、お笑いとか、違うエンターテインメントのほうが国民に浸透してるイメージがあって。それは時代の変化とともに起こるべくして起こってる事態だとは思うんですけどね。で、過去を振り返ると、とくにシンガーとかミュージシャンが、たとえばタレントとか、ほかの肩書きも持って、総合的にエンターテイナーとして活躍しているような人間が減ったようなイメージがありますね。

ーーそうですね。それこそ美空ひばりや石原裕次郎は、映画スターでもあったわけですからね。もっとも当時はそれだけ映画が娯楽の王道だったこともありますけど。

清:そうですよね。それが今のJ-POPは専門化しちゃった。で、それは、昔は音楽はある種の手段で、それ以外の目的を達成するための何かということがありえたということだと思います。でも今はもう音楽をやることだけがゴールになってるミュージシャンが増えたな、というイメージはありますね。

ーー竜人くん自身は、そこはどうなんですか?

清:僕はどちらかというと、デビュー初期の頃は、マインドとしてはそういう感じで。露出もあまりしたくなかったし……テレビもそうだし、プロモーションもそうだし。自分が好きな音楽をやって、自分を好いてくれてるファンに向けてものづくりをして。それだけでご飯を食べていけたら充分、みたいな発想だったんですけど。

ーーですよね。そういうスタンスだったと思います。

清:でも10年間続けてきて、視野も広がったり、発想も変わったりして……大げさな言い方をすると、使命感みたいなところも出てきたのかもしれないです。デビュー初期のような姿勢の活動スタイルは、ものすごく大げさに言うと、音楽シーンの縮小につながってたかなと思っていて。もちろん僕はすごく小さな石ころですけど、そういう人がある時期増えた。みんな、たくさんの人に支持してもらいたいはずなのに、内に向いてるというか。それが束となって、ちょっとずつ音楽シーンの縮小につながってしまっていたんじゃないかなという感覚が、少しあって。まあ僕ひとりで何ができるんだって話でもあるんですけど、せっかくこの業界で、大衆音楽の分野で活動してるんであれば、そのままじゃダメだよね、と思うようになりましたね。だから少しずつ自分の円を広げていく、ファンの数を増やしていくという、どちらかといえばポジティブな思考でいるべきだな、と。そのへんがこの10年のうちの、とくに後期は少しずつ出てきていると思います。

ーーじゃあ今、音楽家以外の活動をするつもりもあるんですか?

清:いい機会があれば、もちろん思いますね。

ーーたとえば役者とか?

清:役者とかね。まあ自分から「やりたい!」とか、今べつにあるわけじゃないけど。ただ、アーティストでもあるけれども、タレントでもあるという自覚はうまいバランスで持たないといけないなとは、最近はすごく思うので。もちろん何でもかんでもやるのは違いますけど、トータルバランスで、ふだん音楽に興味のない一般層が興味を持つような活動スタイルとかアーティスト性はどこかしら必要だな、と。だから何か違う分野のエンターテインメントと関わることで自分がいい意味で広がっていくのであれば、僕はそこまで門戸を狭める必要はないかなと思ってます。

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