清 竜人が考える、今のJ-POPに必要なこと「世の中の流れを否定して、新しいものを作っていく」

清 竜人が考える、今のJ-POPに必要なこと

 2009年、清 竜人は10代でデビュー。胸がキューンとするような繊細なロック少年は、その後、テーマ的にもサウンド的にも躊躇なく実験的な要素を取り入れ、ビジュアルも含め作品ごとに百面相的な変化を遂げてきた。2014年には「一夫多妻制」を謳うアイドルユニット清 竜人25を、2017年には「演者と観客の垣根を取り払う」無料のライブを敢行する清 竜人TOWNというプロジェクトを立ち上げるなど、音楽シーンへのアンチテーゼを提示し続けている。その軸は極めてシンプル。「今日ないものを明日作る」と燃やし続けているクリエイター/アーティストとしてのストイックなまでの情熱だ。今年ソロ活動を再始動し、現在アルバムを制作中。先行シングルにこめられたふつふつと滾る思いを聞いた。(藤井美保)

J-POPを見つめ直す 

ーー今回リアルサウンド初登場ということですので、まず、音楽の道に進んだそもそもの始まりを聞かせていただけますか?

清 竜人:実は最初動機と呼べる強い気持ちがあったわけじゃないんです。幼少期からピアノをやっていて、仲間とバンド活動をするようになり、他に目指してる職業や将来の設計もなかったことから、この仕事を少しずつ始めたという感じでした。現所属事務所とご縁ができたのは高校2年生の頃で、19歳のときにデビュー。当時、世の中のヒットチャートを見ながら、この程度だったら俺は絶対音楽で飯を食っていけると勝手に思い上がっていたんですけど、あまりにもトントン拍子だったので、1stアルバム『PHILOSOPHY』(2009年)をリリースしたあと、モチベーションが完全に燃え尽きた感覚を覚えたんです。

ーー早くもそこで!

清 竜人:先行デビューシングル「Morning Sun」が、KDDI「au Smart Sports」のCMソングになったり、全国何十箇所のFMのパワープレイを取ったりと、ブロックバスター的なプロモーション展開となったので、いわゆる下積みがないんですね。苦労しての達成感みたいなものはなく、まるで宝くじが当たった感覚。ふと我に返ったのは、2枚目のアルバム(『WORLD』2010年)を作ったあたりでした。そこで初めてシンガーソングライターとしての自我みたいなものが芽生えたんです。

ーー具体的にどんな変化があったんでしょうか?

清 竜人:音楽業界を傍観していた頃に感じてたフラストレーションは変わらずあったので、それを反面教師にして、自分はどういう音楽ができるのか、どんなパフォーマンスができるのかってことを真剣に考えるようになりました。誰もやってないことをやることにやりがいを感じるというか、そうしていかないと意味がないという取り組み方になって、よりストイックに、より手を替え品を替えのアプローチをするようになっていきました。

ーーフラストレーションとおっしゃったのは、もっとカッコいいことができるはずなのにどうしてみんなやらないんだろうという音楽シーンに対してのことだけでしたか? それとも、表現の可能性をまだ出せてない自分に対するものでもありましたか?

清 竜人:どちらもありました。1枚目、2枚目を作っていた頃は、まだ何者でもない自分が許せないという感覚と、こう評価してほしいという自分の願いと他者からの評価がリンクしてないフラストレーション。プラス、世の中で作られている音楽に対しての批判みたいな気持ちもありました。

ーー2014年からは、清 竜人25という「一夫多妻制」という設定のアイドルユニットで活動。さらに「演者と観客の垣根を取り払う」ライブで話題となった清 竜人TOWNというプロジェクトもありました。それは、そのフラストレーションの先に行く突破口を見つけるための模索でもあったんでしょうか?

清 竜人:クリエイターとしてよりクオリティの高いもの、他者への刺激となるものを作るというのは、目指しているし、目指すべきものだと思っていて、そこをシンプルにやり続けていただけなんです。説得力はないかもしれないんですけど(苦笑)、25もTOWNも、何か突飛なことをしようとか、身の丈に合ってないことを奇を衒ってやろうとかという感覚ではなく、基本的にはニュートラルな感覚でやっていました。ただ、当たり前ですけど、他のアーティストとの差別化とか、この時代だからこういう音とか、そのあたりは自分の中でいろいろとコントロールしてやっていましたね。

ーープロジェクトや作品ごとに音楽性が違えど、その真ん中に清さんがドンといるというふうに感じていたので、今のお話はすごく腑に落ちました。今年再びソロ活動に臨まれているわけですが、初期のソロ活動と何か変わった部分はありますか?

清 竜人:作品性について言えば、過去と同じことをやるつもりはないと言えますし、ただ、25とTOWNを経ての今なので、両者で培ったいいところを抽出して生かそうということは、無意識的にも意識的にも表れていると思います。

ーー清さんご自身のビジュアルが作品ごとにガラッと変わるのが、本当に百面相のようなんですけど、そこはどう意識されてますか?

清 竜人:TOWNのときはモヒカンに刺青でしたしね(笑)。でも、基本はそのときどきの音楽性や気分に合ったことをやっているだけなんです。いわば女子高生みたいな感覚。夏休みになると金髪にしちゃうみたいな(笑)。それくらいのものです。

ーーウハハ……。昔からそんな傾向が?

清 竜人:19、20歳の頃は、MVの撮影の前日に、勢いで眉毛を剃ったり、丸刈りにしちゃったりという衝動的な部分がありましたね。年齢を重ねてそこは落ち着いてはきましたけど(笑)。最近は、この音楽ならこういうビジュアルで、こういうパフォーマンスでというふうに、総合的な点数が上がるように考えてトータルコーディネートしてます。

ーー清さんのパフォーマンスでは、演じるということの要素も多いと思うのですが。

清 竜人:たとえば25のときは「一夫多妻制」というテーマがあったので、女の子たちをクールに相手するといったキャラでした。でも、それは、役者さんのように自分じゃない役を演じてるわけじゃなくて、自分の中にある一面を少しデフォルメして演出したもの。それもトータルコーディネートなんです。

ーーなるほど。清 竜人というアーティストの謎が少しずつ紐解けてきました。では、ここからシングル「目が醒めるまで(Duet with 吉澤嘉代子)」の話にいきたいと思います。今回は3曲ともミディアムスロー以下のナンバーで、メロディにもサウンドにも心地いいアナログ感がありますね。どんなテーマで取り組んだものですか?

清 竜人:ソロ再始動を機にキングレコードに移籍して、7月に『平成の男』という第一弾シングルをリリースしたんですが、もうそのときから、来春発売を予定している次のアルバムに向けて、一貫したテーマで作品作りに取り組んでました。

ーーズバリそれは?

清 竜人:J-POPを見つめ直すということです。'70〜'80年代の頃の古き良き歌謡曲のいいところを、現代音楽とミックスさせられたらなと。それで、「平成の男」のときはミッキー吉野さんにアレンジをお願いしました。今回は、井上 鑑さん、星 勝さん、瀬尾一三さんといった60代、70代の大御所の方たちとご一緒させていただいてます。僕自身は平成元年生まれなんですよ。

ーーまさに平成の男なんですね!

清 竜人:平成を、2000年代を生きてきた僕と、昭和歌謡の全盛期を支えてきた人たちとのコラボレーションで、元号も変わる次代への橋渡しになるものが作れたらいいなと思いました。

ーーどんな曲をイメージしていましたか?

清 竜人:シンプルなメロディで、多くの人の心に届くという良き時代のJ-POPの根幹のところを、パロディとかリバイバルではなく、懐かしい香りもしつつ新しいものにできたら理想だなと。

ーーまさにそこを感じました。タイトル曲のAメロは、清さん、吉澤さんともたった1行ずつで休符の余韻もある。Bメロに至っては歌詞にすると12文字。究極のシンプルさだけど、ファンタジックで美しい展開だなと。曲作りはどんなふうに?

清 竜人:基本曲先で、そのメロディを生かす世界観の歌詞を考えていきます。この曲に関しては、最初からデュエットソングを作ろうと思って、男声、女声、一緒に歌うところといったこともプランしながら作っていきました。コード進行はほぼ当初考えたままですが、曲構成のトリートメントは井上さんがやってくださいました。最初は2番が終わったあとにもう一回サビを入れてたんですけど、「シンプルなポップスを目指すなら、もう一度聴きたくなるような余韻を残そう」とおっしゃられ、僕も「なるほど」と思って削ることにしたんです。余計なものを削ぎ落とすことでよりせつなさが増し、リピートしたくなるというのは、狙ったところです。

ーー吉澤さんの声が、その昔の吉永小百合さんのように清々しいなと思いました。

清 竜人:曲ができ上がって各方面のスタッフと相談してたときに、吉澤さんの名前が挙がることが多かったんです。彼女の作品を聴いてみたところ、声質がマッチしそうだなとすぐに思えたので、オファーさせていただきました。

ーー個人的には歌謡曲というより、ニューミュージックと言われていた楽曲群を思い出しました。「煙草のけむり」の頃の五輪真弓さんとか、美乃屋セントラル・ステイションとやっていた頃の大橋純子さんとか。

清 竜人:なるほど。実は裏テーマとして薬師丸ひろ子さんを意識したところはありました。井上 鑑さんは若い頃に大滝詠一さんとよく一緒に仕事をされていて。

ーー薬師丸さんの「探偵物語」も大滝さん作曲で、井上さんがアレンジに参加されてますね。

清 竜人:だから、「目が醒めるまで〜」に入ってるアコースティックギターの感じも、いわゆるナイアガラサウンドですよね。

ーー清さんご自身もアレンジやプロデュースをなさるわけですが、今回の井上さんの仕事ぶりにどんな印象を持たれましたか?

清 竜人:井上さんは本当に手練れなんです。音楽的下地が豊かで、どういうものにも対応できる。本当にプロのクオリティ、プロの技術力を持った方ですね。仕事人としてのその姿には大いに刺激を受けました。もちろん個性となる音楽的感性も備えていらっしゃるからこそ、ここまで第一線で活躍し続けていらっしゃるわけですが。

ーーやりとはどんなふうに?

清 竜人:メールでのやりとりをしつつ、レコーディング前のプリプロでは密にコミュニケーションをとらせていただきました。ただ、あまり僕自身の個性が反映されない方がいいと思ったで、口出しはせず、意見を聞かれたら思ったことを言うというスタンスでいきました。

清 竜人「目が醒めるまで (Duet with 吉澤嘉代子)」MUSIC VIDEO

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