DJキャレドの音楽の根底にあるものーーこれまでの人生と家族をテーマにした“原点回帰”の最新作
『Father Of Asahd』は、キャレドのこれまでの人生と家族をテーマとした“原点回帰”アルバムとしての顔も持つ。まず、カバーアートから息子のアシャドが登場、タイトルの“アシャドの父”とはもちろんキャレドのことである。なにより重要なルーツとして位置づけられている場所がジャマイカだ。じつは、キャレドはローティーンのころジャマイカに住んでいた経験があり、その後アメリカでDJとして活動しつつレゲエ文化を発信してキャリアを築いていったのだ。“原点回帰”宣言にたがわず、本作は故郷ジャマイカで制作されており、マヴァドやシズラなど名だたるジャマイカンスターも参加したレゲエ要素の強いアルバムとなっている。中でも特に大きな存在が、キャレドの長年の友人でありメンター、昨年釈放されたばかりの、ブジュ・バントンだ。『Father Of Asahd』は、キャレドの息子アシャドの誕生をサポートしたブジュによって始まりブジュで終わる。フィナーレを飾る「Holy Ground」は、未来を担う子どもたちへの想いが溢れた楽曲だ。
〈本当の戦士は戦いつづけるんだ こんな邪悪な抑圧に直面する世代が もう二度と出ないように〉
〈でも俺たちが立っている場所は神聖な地だ 神聖なる地なんだ〉
(「Holy Ground」)
そして、本作で最も注目を集めた楽曲が、音楽で名を成しながらも地域支援活動にいそしみ2019年3月に射殺されこの世を去ったアメリカ人ラッパー、ニプシー・ハッスルが参加した「Higher」である。ジョン・レジェンドの歌声が鳴り響くソウルフルなこの曲もまた、ニプシーの力強いラップによって不平等な世界に生きる子どもたちに道筋を示すかのような内容になっている。
〈俺の心はサウス・セントラルにある 高い犯罪率のあそこに 殺人や殺し合いは君を支配しようとするだろう〉〈悪魔が嘘つきって知ってるか? あいつらは見下ろして 俺の魂を焼こうとする でも俺たちは高みにいる 高まりつづけるんだ〉
(「Higher」)
生前のニプシーと、ルーツや家族について熱く語り合ったと回顧するキャレドは、HIPHOP界およびアメリカを覆った悲劇について、以下のような見解を示した。
「彼の死は、悲しいとともに美しい。だって今、世界中の人々がニプシーのメッセージを実践しようとしてるんだ。共にあり、団結する……それがニプシーが求めたことだ」(参照:APニュース インタビュー)
同インタビューで、キャレドはコラボレーションについての原点も明かしている。
「コラボレーションとは、団結の提唱でもあるんだ」
お祭りごとの象徴となっているDJキャレドだが、彼の音楽の根底には、楽しいことばかりではない世界でくじけそうな人々への鼓舞やサポートが流れている。『Father Of Asahd』は、多くの人に団結のパワーを感じさせ考えさせる音楽アルバムとなるだろう。
■辰巳JUNK
ポップカルチャー・ウォッチャー。主にアメリカ周辺のセレブリティ、音楽、映画、ドラマなど。 雑誌『GINZA』、webメディア等で執筆。